表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る夜、忘れられない恋をした。―消えたがりの魔女、再会した初恋の王子様に求婚されました―  作者: 宮前 雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/24

18.夢うつつ



「とにかく、私は帰るわ。」

「帰るって、まさか床より固いベッドに?」

「そうよ。それが私の居場所なの。」


話していて惨めになってきて俯いた。

やっぱり瑠璃はノエルとこうして話していいような身分ではない。


「だめだ。せめてもっと安全で過ごしやすいところに…」

「旅一座は楽じゃないのよ。学費だって払わなきゃいけないし、宿にお金をかけている場合じゃないの。」

「自分で学費を出しているのか?」


ノエルは目を丸くして瑠璃を見つめた。

王子様は学費を気にしたことなどないだろうが、瑠璃はいつだって学費の支払いに追われている。

学院なら学費はかからないが、今にもウィリアムに辞めさせられそうだからお金を使っている場合ではない。


「今は学院長のご好意で無償で通わせてもらってるけど、いつどうなるかわからないから。

とにかく、私は帰って興行に出ないといけないの。」


興行は週末が稼ぎ時だ。

昨日は興行に出られなかったから、尚更帰らないといけない。


「私が出すよ。」

「へ?」


今度は瑠璃が目を丸くする番だった。


「私が君の面倒を見る。学費も宿代も、瑠璃は気にしなくていい。」

「いやいや、なんであなたが…」

「私の寵姫なんだから当然だ。ラルム座の者たちもまとめて面倒を見るから安心して。」

「落ち着いて。あなたにそんなことをさせられないわ。」


また頬を挟まないといけないかと思っていたら、逆に瑠璃の頬を挟まれた。


「瑠璃。わかるだろう?私はこの国の王子だ。瑠璃やラルム座の面倒をみるくらい造作ない。

本当は宝石や領地を与えたいけど、君は興味がないだろう?せめてそれくらいさせてくれ。」


宝石や領地と言われて瑠璃は固まった。

やっぱり王子様は瑠璃の想像を超えて高貴でお金持ちなのだ。

確かに宝石も領地ももらっても困るから、それならいい宿に泊まらせてもらった方がよっぽど嬉しい。

でも、たった一晩何もせずに過ごしただけでそんな大層なことを頼むわけにはいかない。


「…そこまでしてもらう義理はないわ。」

「瑠璃。寵姫だと言っただろう。時代が違えば側室だよ。強制的に城に閉じ込められて宝石に囲まれて花でも愛でながら暮らすことになっていたんだ。」

「ひっ……」


恐ろしい事実を告げられて瑠璃の反抗心は鳴りを潜めた。


「だから大人しく囲われていてくれ。」

「はい。殿下……」


ノエル…様は顔を伏せた瑠璃を満足そうに撫でた。

そうは言われても、自分にお金がないばかりに面倒をみてもらうことになった罪悪感が襲ってきてまた消えたくなった。

囲われてばかりじゃだめだから、早く王室魔法使いになる決意をして自立しなければと考えることでどうにか正気を保った。




◇◇◇




それからノエル様はあっという間に宿の手配をして、侍女達は豪華な衣類や化粧品や装飾品を大量に持ってきて部屋に積み上げた。


「こ、こんなにたくさん…不相応です…」

「私の寵姫だ。相応ふさわしい格好をしてもらわないと私が困る。」

「ひっ……」


王子様のご寵姫様に相応しい格好など出来そうもなくてまた喉の奥から声が出た。


「週末は私と一緒に城に帰るんだよ。」

「はい。」

「学院では昼は私と一緒に食べること。」

「はい。」


平日は宿に戻らせてもらう代わりに、週末の夜はノエル様と共に過ごすことになったのだ。

そして学院では食堂で待ち合わせて一緒に昼食をとることになった。

また王城に来るなんて恐れ多かったし、ノエル様と一緒に食べるなんて周りから何を言われるか恐ろしかったけど、宿代から何から何まで出してもらっておいて拒否することなどできなかった。


「瑠璃、何か言われたら必ず言うんだよ。」

「はい…っ、ノエル様、私も子供じゃありません。」


先程からまるで母親かのように瑠璃に注意事項を言いつけるノエル様が面白くなって吹き出してしまった。


「瑠璃が心配なんだ。」

「何かあったら魔法でどうにかするので大丈夫ですよ。」


魔法、という言葉に目の前で頭を下げていた侍女達が僅かにぴくっと震えるのがわかった。

侍女達からは時々瑠璃を睨みつけるような視線を感じた。

ノエル様の手前、瑠璃に親切に接してくれるけど、やはり心の中では異能者に対する嫌悪感があるのだろう。


「そう。でも、本当に何か言われたらすぐに言って。」

「はい、ノエル様。ありがとうございました。また学院で。」

「ああ、気をつけてね。」


やっぱり心配そうなノエル様に深く頭を下げた。

荷物は侍女達が持ってくれたので、瑠璃は手持ち無沙汰なまま来た道を戻った。




◇◇◇




たくさんの荷物を積んだ馬車は新しい宿に向かう前に、元々瑠璃が泊まっていたボロ宿に立ち寄った。

馬車から降りるとラルム座の一同が玄関から出てきて、煙草をくゆらせるジュリア以外は皆瑠璃に駆け寄ってきた。


「ルリ、どういうことだ?王子様が世話してくれるって…」


行きは笑顔で瑠璃を送り出したゼファーが顔面蒼白になっていた。


「色々あったの。何を言ってもだめだったから諦めて。」


瑠璃にはゼファーの気持ちがよくわかるけど、まさかこんなところで寵姫になったなんて言えるはずもなかった。


「ルリ、僕の話も王子様にしてくれた?」

「したわよ。レオの力を褒めていらっしゃったわ。」

「うわー!すごい!僕もいつか王子様に会えるかな?」

「会いたければきっと会えるわ。興味を持っていらっしゃったから。」

「やった!楽しみだなあ。綺麗なホテルに泊まれるんでしょう?ルリ、すごいね!」


子供らしくはしゃぐレオを見ると救われた。


「ルリ…、大丈夫か?」

「リベル、大丈夫よ。あとで話すわ。」


リベルは瑠璃がノエル様と一晩過ごしたことを心配しているのだろう。

まさか何もなかったとは言えないから誤魔化した。


何も言わずにニヤッと笑うジュリアはこの未来を見通していたのだろう。

早めに教えてくれれば無駄な抵抗はしなかったのに、と思いながら睨みつけると豪快に笑われた。




◇◇◇




ボロ宿で学院関係以外にはほとんど持っていない荷物をさっとまとめて馬車に乗せると、馬車は新しい宿に向けて出発した。


瑠璃だけでなくラルム座の面倒も見ると言ってくれた通り、今日の馬車はラルム座の皆で乗っても余裕があるくらい広かった。


「こんな豪華な馬車、初めて乗ったよ。王子様ってすごいんだね。」

「私も信じられないわ。」


レオがはしゃいでくれたから救われているけど、馬車の中はまるで葬列のように静まり返っていた。


「…ルリ、どういうことだ?」


ゼファーが先程の質問を繰り返した。

瑠璃は馬車に手を翳して魔法をかけて外から会話が聞こえないようにした。


「あのね、ノエル…王子殿下の、寵姫っていうのになったの。」

「「はぁ?!」」


魔法をかけておいて正解だった。

ゼファーとリベルが王都中に響き渡るような声で叫んだから、瑠璃の耳がキーンと鳴った。


「ご寵姫様って、ルリ、お前…」


リベルが顔面蒼白で聞くので思わず笑ってしまった。


「私を安全に囲うためにって、周りからはそう見えるようにして下さっただけよ。何もないわ。」

「…そういうことか。」


リベルが深く息をついて、顔色を取り戻した。


「何もないってどういうこと?」

「あんたにはまだ早いわ。」


レオにピシャリと言った。


「お前を囲うためって、ルリは王子殿下と何かあったのか?」

「昔、お会いしたことがあるの。その時のことを覚えていて下さっていて、良くして下さるの。」


あの夜のことは誰にも話していない。

ジュリアは見通していそうだけど、なんとなく二人だけの思い出にしておきたいからラルム座の皆にも詳しく話す気はなかった。



そんなことを話していると、馬車が減速してやがて止まった。


「到着いたしました。」


外から従者に扉を開かれて、ジュリアを先頭に馬車を出た。

瑠璃もゼファーとリベルに続いて外に出ようとしたら、二人が馬車の入口で立ち止まった。


「ちょっと、出られないわ。…っ?!」


リベルを小突こうと馬車から身を乗り出して、瑠璃は二人が固まった理由を知った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ