第9話 共に反乱を
「た、助かった〜……」
テロリストたちが綿で懐柔作戦に乗ってくれて、命が繋がれた気分になる。いや、実際に繋がったのだから、間違いではない。
けれど、問題はまた出てきた。
どうしよう、この惨状。
テロリストふたりが、綿の上で骨抜きになっていて動かない。しかも、すぐ近くにいるのは私だけ。
人質の身分で、なにをしちゃってるの!?
誰かに見つかる前に。というか、それ以前にこの人たちが正気に戻ってもやばいのでは?
「ん? なんで、この部屋が開いて……」
毛布から降りたところで、ちょうど入口のテロリストと目が合った。
「おい、そこのやつらはなんだ? まさか、皇女様は逃げる気でいたとか言わないよな?」
容赦はしないぞ、という挑発なのか。握りしめた拳から、ポキポキと骨の音が鳴っていた。
乱暴な人って、皆してそれをしてるけど。それも、ひとつの社交辞令なのかな。
なんて、謎に思考を巡らせてしまいながらも、私は口封じに綿を顔に押し付けた。
「に、逃げないので、後片付けを手伝ってもらえませんか……!」
突然のことに、身構える暇もなかったテロリストはそのまま土の上に押し倒されていった。
戸惑っているのか、手足を暴れさせて抵抗している。
「ほら、私の綿はとても心地いいですよねっ」
なので、宥めるために私は優しく声をかけた。
そんな綿のモフモフ加減をその身をもって体感させてあげていたのだが、その間も、テロリストはなぜかジタバタと暴れるのを止めない。
どうしたんだろ。
お気に召さなかったのかな?
やがて、力尽きたようにパタリと腕が転がった。
綿を退ける。
その下では、すごく青ざめた顔をしているテロリストがいた。
「わああ!? だ、大丈夫ですかあ!?」
これ、もっとやばい状況なのでは。どう考えても、逃げるためにテロリストを無力化してる人にしか見えないよね!?
「と、とりあえずこの人を運ばなきゃ……!」
私は無我夢中に部屋から飛び出して、人を探しに向かった。
医務室……というか、治療できる人ってここにいるのかな。多分、ひとりくらいはいるはずだよね。
なんて考えていたけれど、私は重大なことを失念していたことに気づく。
「おい、人質が脱走してるぞ!」
アジトの中は、やがてそんな騒ぎに染まっていった。
その中心で、あまりにも混乱しすぎた私は、もう頭が回らなくなっていて。
「ち、違うんですうっ。誰か、お医者さんはあ……」
殺気の多い人たちを鎮めるためには、まずは綿で黙らせる必要があった。けれど、そうするとテロリストたちは揃いも揃って溶けてしまうし……。
なんで、こんなことに!?
こうして、次々と骨抜きにされていく人が続出するのでした。
***
「へえ。案外、やるじゃないの。第七皇女様?」
散々、アジトで騒ぎを起こした私だったけれど。
書類の散らばった執務室のような場所にて。今は、イレアさん直にとっ捕まえられて、お説教をされている人みたいに正座をさせれていた。
おそらく、連れてこられたことからしてイレアさんの仕事部屋なのかもしれない。
そんな場所に、ふたりきり。
気まずくて、床から目を逸らすことができない。今、どんな表情で見つめられているのだろうか……。
「それはそれとして、生意気な反乱者には処罰が必要だと思わない?」
ガチの本気でお怒りじゃないこれ!?
「ぐ、具体的に言うと?」
「そうねえ。お外で熱々の石の上に座ってもらおうかしら」
手のひらの汗が止まらない。
私自身が招いたこととはいえ、引きこもりには刺激が強すぎる。仮にも人質なのだから、もう少し手心というものを……。
「ぼ、暴力を反対してるのに、痛いことで反抗するのは本末転倒だと思います!」
「私の組織を綿ひとつで壊滅させた人のセリフとして、もう少し説得力を感じさせてほしいわ?」
「そ、それは……」
ぐうの音も出ない。
暴力反対を掲げておきながら、平和の象徴である綿を使って、テロリストたちを窒息させかけてしまっのだから。
でも、最初にモコモコの虜になったのはそっちの方であり……。
そうだ。
私は、ちょっと慌ててしまっただけにすぎないのだ。
「皆さんお疲れだったんですよね! だから、こうして溶けちゃったんですよ!」
場が静かになった。
またなにか、変なことを言っちゃった?
そう思って顔を上げてみれば、そこには瞳を丸くしているイレアさんがいた。
「誤解してたわ。私の部下たちを、労ってくれる心構えを備えていたのね」
そういうわけじゃ。
いや、余計なことを口にするのはよくない。なので、そういうことにしておいた。
「毎日、飴ちゃんの刑で許してあげる」
「へ?」
あの超苦い飴を毎日舐めなきゃいけないってこと?
痛くはないとはいえ、それもなかなかの地獄になりそうだった。
イレアさんが、パチリと手を叩く。
「ねえ。それじゃあ、私の部下たちは疲れているよつに見えたってことよね?」
「えっと、それは……」
「遠慮しなくていいわ。別に、聞いておいて怒るような真似はしないわよ?」
ほんとかなあ。
テロリストの怒らないって、本当なのかなあ。
「つ、疲れているというよりも、呆れていたような? 国に反乱するよりも先に、この組織が壊滅しそうな印象でしたけど……」
言ってから、少し言いすぎたかもしれないと私は身体を震わせた。
でも、イレアさんは考え込むように俯いて。
「陰口はよく聞こえてたけど、やっぱりそう思わせてるから聞こえてくるのね……」
「思ってなければ、陰口なんて叩かれないのでは」
「ふふ。結構、度胸があるのね?」
身を縮こまらせて、怯えながら「ごめんなさい」と私は謝った。
「部下の人たちを労うのだって、ボスの役目ですから。もっと寄り添ってあげればいいと思います……」
機嫌を取るためにも、なんとかアドバイスを捻り出してみる。
私の平和ボケした思考で、役に立てるかはわからないけれど。
「あら、私の労い方が足りないってことかしら」
やっぱり、役に立てなさそう。
乱暴な思考の人は、普段から乱暴なせいですぐに威圧を出してくる。どうしてこうも、怖い人しかいないのだろう。
身体がお布団を求めている。ああ、こんなときこそ、必要なのはフッカフカの毛布だ。
「皆でぬくぬくすれば、平和になるのにいっ……」
その嘆きに、イレアさんは酷く感激したように笑みを浮かべてきて。
「素晴らしい考えね!」
へ? なんか、褒められた?
「あなたをお飾りの皇帝にして、この国を操るのはやめにするわ」
も、もしかしてテロリストの野望を阻止することに成功した!?
私はこれで、悠々と引きこもれるように?
「その敵にすら塩を送ってしまう慈愛があれば、お飾りじゃなくても国を変えることができるわ」
「……はい?」
「私の部下たちみたいに疲れた人は、他にもたくさん世の中に潜んでるのよ。……もちろん、正してくれるでしょ?」
私が、テロリストと手を組む? 皇女とテロリストという相容れない存在なのに、力を合わせて疲れた世間を正していくの?
それって、国からしてみれば。私は反乱軍の一味としか思えない決定的な証拠になるんじゃ。
「い、嫌だあ!? 大人しく、引きこもってますので!」
そうして、回れ右をして私は部屋から出ていこうとする。
でも、イレアさんが許すはずもなく。
「だーめっ」
首根っこを掴まれて、強制的に振り向かせられた先にあったのは、イレアさんの顔。それも、りんごひとつ分ぐらいの至近距離。
ち、近い……。
「あなたは、これから私と一緒に、この国に革命を起こすのよ?」




