第10話 いざ、モコモコと共にお散歩へ
私は、冷たい石の部屋の中に押し戻されていた。人質なので、やはりこの部屋に格納されるらしい。
毛布に顔を埋めて、その上でうずくまりながら、
「失敗したあ〜!? もう一生、お布団の中に引きこもる……」
私はひたすらに嘆く。
ただの被害者だった私が、共に反乱を起こす立場に格上げさせられるなど、状況は悪化する一方。
なんでこんなことに。私は、新天地でのんびりと引きこもりたかっただけなのに……。
もうなにがあっても、絶対にお外には出ないと決意を決めた。
「ミセーティニ様〜? ちょっとお散歩しに行きましょう?」
背後から扉の開く音と共に、イレアさんの弾んだ声が聞こえてくる。
でも、動じない。
毛布の上でうずくまっている私は、モフモフで安息の地という不可侵領域で守られているから。
だから、叩き起すなどという野蛮な真似をする人なんか……。
「寝てるフリなんかしてないで。ほら、お目覚めよ?」
口の中に、無理やり苦味が押し込まれた。
「にがあっ、お水うっ!」
つい飛び上がってしまい、私は完全に起き上がることとなってしまう。せっかく、寝たフリをしてやり過ごそうと思っていたのに。
イレアさんの策の前には、沈没だ。
「お散歩って、どこに行くつもりですか……」
「ん〜っ。いきなり皇宮に忍び込むのは、無謀かしら」
「血気盛んすぎるのでは?」
「あなたなら、皇宮の内部は知り尽くしているわよね? 協力すれば、忍び込むのは容易いはずよ」
「それが失敗に終わったら、私投獄なんですけど!?」
本当にそんなことをしたら。完全に帝国に反乱を起こした皇女として、悪い意味で歴史に刻まれてしまうこと確定。
無理です。悪女として語り継がれるのはお断りします!
「皇帝になるのに、リスクだって付きまとうのは当たり前よ? それほど、大きな偉業となれる物なんだから」
なるつもりはないんですけどね……。
やる気満々のイレアさんには申し訳ないけれど、その野望はそっと心の奥底に眠らせておいてもらえないかな。
「そもそも、皇帝になるのに暴力を頼るのは反対です……」
「スキュイル帝国は、力がすべて。だから、相手がその気なら、こっちだって同じ手法で挑むべきでしょ」
「……力がすべてを否定しておいて、力で解決してたら。結局、なにも変わらない気が」
沈黙が落ちる。
目の前には、意表を突かれたように口をぽかんとさせているイレアさんがいる。
「確かに、そうね。知らない間に、私も力に溺れていたのね……」
ええ?
本当に、なんの疑問を抱かなかったというのか。
その様子を見ていると、この国ってどれほど恐ろしいのだろうと自分の国なのに怖くなった。
俯きながら考え込んでいたイレアさんは、突然「よし!」と声を上げたかと思いきや、私の腕を掴んでくる。
嫌な予感がした。
「な、なにをするおつもりで?」
「言ったでしょ。お散歩に行くのよ?」
「どこに向かうとかは……」
「行き先なら、これから探しに行けばいいわ」
つまり、私はこれから行くあてもなく歩き回されることとなり、それでいていつまで拘束されるのかもわからない。
「わ、私は寝るので!」
テロリストに協力する筋合いなどない。なので、毛布にしがみつきながら、絶対に動かないぞという意志の抗議を決めた。
予想通り、イレアさんは私を毛布から引き剥がそうと身体を引っ張ってくる。
「ちょっとミセーティニ様! 今こそ立ち上がる時なんだから、しっかりと気合いをいれるのよ!」
いえ、まだ寝る時間です。
「仕方ないわね。私の飴ちゃんで、強制的に気合いを注入してあげる」
急いで綿の中に身を包んで、とても苦い飴が差し込まれる隙を塞いだ。
モコモコに包まれていると、やはり心が癒された。光も遮断されて、視界に余計な情報も入ってくることはない。
もう一生、ここにくるまって過ごそう。
「引きこもるんじゃないわよ〜! あなたはモコモコ虫じゃないでしょう?」
この声は、悪魔の声だ。
私を熾烈な世界へと引きづりだそうとする悪魔の誘い。
やがて、私の頑固さに呆れてなのか、ため息が聞こえてきた。
か、勝った……? イレアさんを、ついに諦めさせることに成功した?
しかし。
ゾロゾロと、何層にも重なった迫真の足音が近づいてくる。
外では、いったいなにが行われているのか。音でしか感じられないことが、今は逆に私の身体を震わせていた。
「このまま、運ぶわよ」
運ぶ……?
そんな言葉と同時に、安全地帯だったはずの綿の中から安定が消えた。大きく揺れ動く綿から感じ取れるのは、おそらくテロリストたちに運ばれているということ。
も、もしかしてこの状態でお散歩に連れ出されるの!?
誰かあっ!? 拉致されてるんですけど〜!




