第5話 かわいすぎる使用人
「ほう、手も足も縛られているのに。なにができるって言うんだ?」
「騒ぎます!」
「なるほど。確かに、騒いでいるな」
子どもを適当にあしらうような、そんな悪態が滲み出ている。
彼らの目には、私という非力な存在が、精一杯の見栄を張っているだけでしかないのだろう。
「ただの弱くて非力な使用人と舐めていられるのも、これまでです」
挑発するように、私は告げる。
「言っておくが、大人しくしておく方が得だぞ。余計な抵抗さえしなけりゃ、こっちだって痛いことをするつもりないからな」
とは言っても、テロリストなのを忘れてはいけない。そもそも、こうして人攫いをしている時点でなにかをするつもりなのは明白。
今は、後に利用するために安全が保証されているとしても。大人しくしていたところで、結局は痛いことになる結果は変わらないのでは?
それなら、と私はテロリストたちの顔を見て。
「傷をつければ、ボスに怒られるんですよね。こんな女の子を攫って、寄ってたかって、目的は知らないけど最低な行為ですよ! ほら、手も足も出ないだろっ。やーい、やーい!」
手を出せない今のうちに、言いたい放題してやるつもりなのだった。
「こいつ……。結構、生意気な小娘だな?」
空気がピリつき始めるのを感じて、私は身体を縮こまらせた。
私に向けられるのは、ピクピクと弾む瞼から放たれる、怒りの抑えることのできない視線。ポキポキと指を鳴らしながら、構えられた拳。
そして。
「やっぱり、ちょっとぐらいわからせとくべきじゃないか?」
そんな声が、テロリストたちの中に広まり始めていた。
ちょ、ちょっと調子に乗りすぎた……?
「ボスは確かに甘チョロだが、優しすぎるわけじゃない。意思に背けば、クビにされるかもだぞ」
まだ理性を保った人もいるようだ。
とても正しい判断なので、褒め称えてあげたい。
「そうですよ。ぼ、暴力反対! か弱い存在を一方的にいじめることが愉悦とか、ありえません!」
「お前、さっき後悔が炸裂すると言っていたな? ……どうやら、それは自分自身のことだったらしいな?」
「ふへぇ?」
言っていることは間違っていないはずなのに。どうして、逆に琴線に触れてしまっているのか。
私は身体を震わせる。
胸ぐらを掴まれて、迫るくるテロリストの厳格な顔に、私はもう泣きそうになってしまう。
あまりにも怖くて、調子に乗りすぎたことをおもいしらされた。
これは、絶対に許されないやつ!
私は瞼を閉じる。涙が瞳に溜まる。ベッドの中に帰りたいと嘆く。
視界を閉ざしてしまえば、なにも情報が入ってこない。
けれども、それは一時的な逃げでしかない。
これから受け止めなければならないのであろう痛みに。私は身構えて。
「す、すみませんでしたあっ……」
無意識に、謝罪を口からこぼして。
静寂。胸ぐらを掴まれたまま、私はなにも痛いことをされることなく、まさに放置されていた。
あれ? な、殴るなら早くして……。
「……なにも、しないんですか?」
耐えきれなかった私は、怯えながらも問いかけてみた。
すると、テロリストが苦渋の顔で悶え始める。
「こいつを痛めつけるなんて、ムリだ……」
拍子抜けしてしまった。
テロリストはそう言って、私から距離を置く。なぜかは知らないが、ひとりで勝手にうなだれていた。
理由は不明だけれど、これはつまり許されたってこと……?
「やらないのか? じゃあ、俺が代わりに……」
視線が合う。
その目つきの鋭さに、私は涙が溢れてしまう。
「俺をッ! こんなかわいい子を泣かせた罰として、俺を死刑にしてくれッ……!」
「ああ。俺らは、今日で終わりなんだ……」
涙が行き場を失った。
テロリストたちの当然の気の迷いに、私は困惑するばかりだった。
「ぬくぬくでぽっかぽかなシーツの中に戻りたい……」
現実から逃げたくなった時。私は決まって、お布団を求めた。
けれど、なにを思ったか。テロリストたちはハッと目が覚めたように号令をして。
「天使のお言葉だ!」
せっせと連携をしながら、忙しなく毛布を運んできてくれた。
甘やかしてくれるのはありがたいけれど。今の今まで、私を害そうとしていなかったっけ?
次々と手のひらを返していくこの状況に、私はついていけなかった。
「さあ、こちらへ!」
手足の拘束まで解いてもらい、私は自由の身になる。
目の前に用意されたのは、素朴なベッド。敷布団と掛け布団がそれぞれ積み重ねられており、モフモフ加減のかさ増しがされている。
この環境で用意できる、最大限の品物ということだろうか。
というか、私は人質ですけど?
ためらってしまう私だったけど、周囲の渾身を無下にするわけにはいかず……。
ベッドに、飛び込む。
「す、数時間ぶりの毛布が染みる〜」
つい、顔が溶けてしまう。
この部屋の中が、テロリストたちの歓喜の声で溢れかえった。
「ボスの世話も悪くはないが、やりがいってのが段違いだぜ……」
「あっちは、ただひたすらにお姫様気取りだからな」
ボスさんって、そんなヒモにされてるんだ。
ここにいないからって、陰口を言ってるけど大丈夫かな。
その時。
ガタッと、部屋の入口の方から音がした。
「なんの騒ぎを営み中かしら?」
底抜けの明るさのこもった、甲高い声が聞こえてくる。
視線を向ければ、入口にはひとりの女の子が立っていた。




