第4話 退屈しのぎのお相手に
ブルブルと、私は見知らぬ部屋の隅っこで震えていた。
狭くて、薄暗くて、冷たい石に囲われている。どこかの倉庫かなにかかもしれない。
おそらく、ここはテロリストのアジトだ。
周囲には、武装をした怪しげな人がいっぱい。逃げ道なんてどこにもないし、逃げようとしたところで、すぐに取り押さえられて終わりだろう。
つまり、詰み。
「本人は使用人と言っている。貧相な服だが、これでも多少は情報を聞き出せるんじゃないか?」
テロリストが、仲間と私について話していた。
情報を聞き出す。ということはもしかして、今から拷問かなにかされちゃったり?
どうしよう。
皇宮の関連者と思わしき人を拉致していることから、聞きたい情報とは皇宮のことを示しているはず。引きこもってばかりの私に、そんなこと聞かれても。
テロリストたちが、私にまじまじと視線を向けてくる。
「でもこいつ、キレイすぎるよな……。顔も髪も、ただの使用人とは思えないほどに整ってやがる」
「確かに、疑問は残るが……。まさか、皇族が護衛もなしに、しかも夜間に出歩くとは考えにくい」
疑いの目をかけられた私は急いで首を縦に振って、その考察に賛同する。
そうです。その通りだと思います!
同時に。
とてもとても、まずいことになりそうな予感を感じていた。
ただでさえ、なにをされるかわからないのに。
私の顔は、世間には知られていないけど。ごく一部の、私を知っている選ばれし人たちの間で囁かれていた内容を思い返してみると。
世界一の可憐さだの、人生の損だの、そんなことを言っていたではないか。
おかげさまで。容姿には、それなりに自信がある。
その辺にいる一般平民が、そんな優れた容姿を持っているのはおかしい。
ここで、本当は皇女だとバレたら……。
他国へ売り飛ばされて、金儲けか。人質にされて、国家転覆の要として利用されたりもありえる。
「んんー!」
口は布で塞がれていて声を出せないけれど、叫んでいるつもりである。
だって、まじまじと見られるとまずいから。やめて、私を見ないでという精一杯の抵抗である。
それだけでは、足りない。
なので、ジタバタと暴れてもっと錯乱させてやる。
「暴れんじゃねえ!」
手足を縛られた身体で、できることは。微かに動かせる足をバタバタと動かして、身体を捻らせることぐらいだ。
当然、私は複数のテロリストたちに押さえられてしまう。
でも、大人しくしていては、私の容姿に注目がいってしまう。
「どうする? 痛い目浴びせとくか?」
「貴重な皇宮への人質になる。傷をつけたら、というか普通にボスが怒るぞ」
「それもそうだな……」
顔には出さないけど、心の中では、自分の天才加減が誇らしくて決めポーズをしてしまうほどに自惚れていた。
人質だからこそ、下手に手を出せない。
ふふふ、つまり。
逃げようだとか、よっぽどのことをしない限り、私の安全は保証されたも同然。
けれど、なにを思ったか。テロリストのひとりが屈んで、石の上に横たわる私を見下ろしてきた。
「じゃあ、退屈しのぎに話し相手にでもなってやればいいか」
はい?
「いい案じゃないか。賛成だ」
「ボスも褒めてくれるかもしれないな」
思いもよらない流れに私の頭には困惑が浮び、つい暴れることを忘れてしまう。
なに、お話するの?
今から、テロリストたちと私が?
身体から圧倒的な拒絶反応が上がった。
過激な思考をお待ちの人たちと、平和的思考の私。
どう考えても、会話が成り立つことはないと警報が鳴っている。その警報に従って、私は右に左にと頭がクラクラするのを感じながら首を振った。
「そう怯えるなって。変なことはしねえよ」
ムリムリ! お引取りを願います!
けれど、そんな私の意思を伝える手段などが、あるわけもなく。
テロリストたちは、あっさりと口に巻いていた布を解いてくれた。
「い、いいんですか! この私のお口を解放してしまった今、とてつもない転落、不幸、後悔があなたたちに炸裂しちゃいますが!」




