第12話 標的をぬくぬくに
目の前に佇むのは、至って普通の武具屋さん。
イレアさんを先頭に、せっせと街の中を突き進んで私たちが立ち止まった先にあったのは、そんなお店だった。
ここが、イレアさんの目的地?
どこをどう観察しても、そんな悪そうな店構えには見えない。外観だって、とても綺麗に清掃されていてキレイなのに。
「や、やっぱりやめときません?」
私は、もう逃げたい気持ちでいっぱいになる。
このお店を標的にするのは、まずいと判断したからだ。
力こそ正義と掲げているだけあり、国内での武器や防具の扱いはとても重宝されていると言えるだろう。そのため、このような武具の工房には、当然ながら国からの支援も手厚い。
ここを標的にするということは。まさに、国へ直々に宣戦布告しているようなもの。
「聞こえるわ……。この壁の向こうで、この一秒の間にも搾取し続けている醜悪な声が」
「そ、そんなに怖い場所なんですか。ここ」
「立場上は偉い仕事の先輩かしら。調子に乗って、新人に無理な仕事を押し付けてるみたい。技術を扱う場として、それで教育してるつもりなんでしょうね」
私は、穏やかな気分でいられるわけがなかった。
今、思ったけど。
私には、その地獄耳とやらが本物なのかを確かめる手段がないのだ。
テロリストであるイレアさんが、私を皇帝にするために手段を選んでくれるとは限らない。
嘘なんて、言葉にするだけで簡単に行える手段のひとつだ。
だから、ここで突撃したとして。
善良な労働組合でないという確実な証拠を、どう確認すればいいのだろう。
「まずは、作戦ね。発案者である皇女様からは、なにかご意見あるかしら?」
「……私は、加担できません」
もちろん、本当に悪質な労働が行われているのなら。皇女として、なんとかしてあげたい。
でも思い出せ、私。
ここでテロリストに協力することは、自分のためになるのか? 皇宮から飛び出してきたのは、国を壊すためだったか?
否。そんなの、否定の一言で一蹴りだ。
「お店側にだって、大事な業務があります。それを妨害してる暇があるなら、ここで毛布にくるまってぬくぬくしてるので!」
「つまり、突撃はせずに、相手から飛びかかってこなければならない状況にするのね」
「えっと、あの……」
「日頃から搾取しまくりの醜劣な労働者と、搾取されてばかりのひ弱な新人労働者……。そんな人たちに甘い誘惑を持ちかけるなんて、さすが、次期皇帝候補なだけあるわ」
違うんですけど! これじゃ、助力してるみたいにっ!
この状況から逃げたい。私はそんな反抗を示したはずなのに、どうして都合の良い解釈に。
いや、テロリストなのだから、それは当然か。
「それなら、私はもう寝るので!」
なにもしなければ。なにも言わなければ、利用されることだってなくなる。
なので、私は綿の中に顔を引っ込めてやった。
モフモフが気持ち良くて、最高の寝心地だ。
「まだやってもらう仕事はあるけど……。まあ、寝かせといてあげるわ」
なにをするつもりなのだろう。
その思惑が掴めないからこそ、なるべく穏便に済んでくれることを願うばかりだった。
早く終わってくれないかなあ。ひとりだけの部屋で、ゆっくりとぬくぬくしたいよおっ。




