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第二節「出逢い」と「予勘」


「離せって言ってんだろ!!」


 城門前まで響く怒鳴り声だった。

 兵士達に両腕を押さえられながら、茶髪の少年は暴れている。

 その横をルーナは上機嫌で歩いていた。


「元気だねぇ」

「お前のせいだろ!」

「そうともいーう」

「そうとしか言わねぇよ!」


 兵士達が少し吹き出した。

 ノームはますます不機嫌になる。

 王城へ入ると、すれ違う使用人達が一斉に目を丸くした。

 成人式の最中に姿を消した王女。

 その王女がボロボロの少年を連れて帰ってきたのだから当然だろう。


「ルーナ様!?」

「お帰りなさいませ!」

「父上どこ?」

「え?」

「まだ成人式会場?」

「は、はい」

「よーし」


 ルーナは方向を変えた。

 嫌な予感がした兵士達は顔を見合わせる。

 止める暇はなかった。

 大広間。

 まだ成人式は続いていた。

 貴族達が談笑し、音楽が流れている。

 その時。

 バァン!!

 勢いよく扉が開いた。

 全員の視線が集まる。

 国王も顔を上げた。


「ル、ルー…ナ……?」


 消えた娘が戻ってきた。

 それだけなら良かった。

 問題はその後ろだった。

 ボロボロの少年。

 兵士数名。

 全員疲れた顔。

 意味が分からない。


「父上!」


 ルーナは真っ直ぐ国王の前まで歩く。


「なんだ」

「拾った!」

「猫みたいに言うんじゃない…」


 即答だった。

 貴族達から笑いが漏れる。

 ノームは顔を真っ赤にした。


「誰が猫だ!!」

「違うの?」

「違う!!」

「じゃあ犬?」

「違う!!」


 国王は頭を抱えた。

 嫌な予感しかしない。


「説明しろ」

「強かった…から?」

「説明になってない」

「面白かった……から…?」

「もっとなっていないぞ」


 ルーナは不満そうに頬を膨らませた。


「父上!」

「はぁ…なんだ、ルーナ」

「欲しい!!」

「物みたいに言うんじゃない!」


 国王のツッコミが冴え渡る。

 ノームも思わず頷いていた。


「そうだそうだ!」

「君は黙ってて?」

「なんで!?」


 会場が少し和んだ。

 だが国王は真面目な顔になる。

 そして初めて少年を見た。


「貴様、名前は?」

「ノーム」

「姓はなんだ?」


 一瞬だけ。

 少年の顔が曇った。


「…スコア」


 その瞬間だった。

 国王の表情が変わる。


「今、なんと言った?」

「……スコア」


 会場が静まり返る。

 貴族達もざわついた。

 ルーナだけが首を傾げる。


「有名なの?」

「有名どころではない!」


 国王は低く言った。


「……伝説だ」


それと同時に周りの貴族も顔を見合せ、口々にスコアの名を反芻する。

 それが嫌だったのか、ノームが顔を逸らす。

 居心地が悪そうだった。


「かつて大陸最強と謳われた槍兵の家系」

「へぇ?」


 ルーナはノームを見る。


「知らなかったなぁ」

「俺も知らねぇ」

「え?君も?」

「知らねぇもんは知らねぇ!」


 国王はため息を吐いた。

 少し考える。

 そしてルーナを見る。


「……どうするつもりだ、ルーナ」

「育てる!」

「犬じゃないんだぞ。スコアの家系がまだ断絶してないと世に知られたら、一体どうなる事か…」

「スコアだろうがなんだろうが私はどうでもいいよ。強いんでしょ?この子」

私はそう言って父上と目を合わせる。

「強いならいい。鍛えるよ。」

「誰が育てるというのだ!」


 父上の怒号に近い声にルーナは笑いながら返す。


「ツヴァイツ!」


 その名前が出た瞬間。

 数人の貴族が息を呑んだ。

 近衛騎士団長で、王国最強の騎士。

 ツヴァイツ・ローヴェン。


「本人が了承すればよいが…」

「するする!」

「なぜ、なぜそう思うのだルーナ」

「勘だよ。勘」


 国王は頭を抱えた。

 だが、娘の勘は外れない。

 それを誰より知っているのも、また国王だった。




 翌朝。

 王城訓練場。

 朝日が差し込む広大な砂地に、数百人の兵士達が集まっていた。

 その中央。

 ノームは不機嫌そうに立っている。


「……帰りたい」

「ふーん?昨日は暴れてたくせに?」

「こんな大人数いるなんて聞いてねぇよ…」

「言ってないもーん」


 ルーナは楽しそうだった。

 兵士達はざわついている。

 目の前にいるのはただの子供で、細い。

 どう見ても強そうには見えない。

 そんな中、人混みが割れた。

 重い足音。

 兵士達が一斉に姿勢を正す。

 ルーナも振り返った。

 現れた男は二メートル近い長身だった。

 灰色の長髪。

 鋭い金色の目。

 顔の中心を裂く古傷。

 背中には一本の大きな長槍。

ノームは目からその一本の槍を離せなかった。

 ツヴァイツ・ローヴェン。

 ペンドラゴン王国近衛騎士団長。

 王国最強の槍の名手で、兵士。

 ツヴァイツはノームを上から見下すように見る。

 数秒、沈黙が続いた。

 そしてツヴァイツが口をゆっくりと開く。


「ほう…?」


 ツヴァイツは少しだけ笑った。


「面白そうな目をしているな」


 ノームは鼻を鳴らした。


「へっ、そっちもな」


 訓練場の空気が張り詰める。

 ルーナだけが楽しそうに笑っていた。

 彼女はもう確信していたのだ。

明日にはこの訓練場が大騒ぎになることを。


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