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変なのいるってよ  作者: 9どう?亜依


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9/12

『増えてたってよ』前編

午後の陽射しがゆっくり傾きかけた頃、

恵子は洗濯物を抱えて庭に出た。

ちょうど冬と春のあいだの、空気がまだ冷たさを残している季節。

風は弱く、けれど長袖を干したらすぐにパタパタ揺れる程度には吹いている。


(今日は思ったより乾いたな)

そう思いながら、物干し竿からハンガーを外したそのときだった。


足元のあたりで「コロン」と小さな音がした。


見下ろすと、

白猫が1匹、庭石の上に座って、こちらをじっと見上げていた。


「……え? あら」


突然すぎて、恵子は一瞬固まった。

が、その白猫は何の警戒心もなく、

恵子の足元にふんわりと近づいてきて、

すり、と足に頬を寄せた。


「あらあら……かわいいじゃないの、あんた」


猫は返事のように鼻を小さく鳴らし、

恵子の動きに合わせて体を揺らした。

首の下を撫でると、思いがけないほど喉を鳴らした。


その音が、意外なほど重たくて、温かくて——

恵子は思わず笑ってしまった。


(こんな人懐っこい野良猫、いる?)


「ちょっと待ってね、台所にカリカリ残ってたと思うから」


恵子は急いで家に戻り、

タッパーに入れてあった少しの猫用フードを持って庭に戻った。


白猫は恵子の戻りを待っていたかのように座っていた。


フードを置くと、

白猫は嬉しそうに小さく声を出し、

こくこく首を動かしながら食べ始めた。


そのかわいさに、恵子はつい頬を緩めた。


(……癒されるわね、猫って)


その日の夕飯のとき、恵子は美咲に話した。


「今日ね、庭に猫が来たのよ。白くて、すごくかわいいの」


美咲はテレビを見ながら、

「へぇ〜? うち猫来る家やった?」と軽く返した。


まさか、この“ほのぼの”が続くと思っていた。


——この時点では。



---


翌朝。

朝日の角度が昨日より少し低くなっている。


恵子がカーテンを開けると――


「あれ……?」


庭にいたのは、

昨日見た白猫と、

まったく同じ白猫が“もう1匹”。


同じ白、同じ模様、同じ目の色。

しっぽの長さまでそっくり。


二匹とも恵子の動きにあわせて

同じタイミングで耳をピクッと動かした。


(……え?)


美咲がトーストをかじりながら覗き込む。


「わ、二匹になってるやん」


「ねぇ……これ、昨日の子……だよね?」


「その子やろ。友だち連れてきたんちゃう?」


「……友だちにしては……似すぎてるのよ」


「まぁ猫ってそんなもんやって〜。

増えてたってよ〜ってやつやん」


美咲のノリにつられて、

恵子も笑い返す。


でも胸の奥には

何かざらざらした感覚が残った。



---


三日目。


洗濯物を取りに庭へ出た恵子は、

乾いたタオルを抱えたままその場に固まった。


3匹。


昨日の2匹+完全同じ姿の猫がもう1匹。

全員、同じ角度で日向に座り、

首を傾ける速度まで一致している。


(昨日、似てるなとは思ってたけど……)


近づいても逃げる気配がない。

むしろ“待っていた”ようにも見える。


恵子はしゃがみ込み、試しに手を振ってみた。

3匹は同じテンポで瞬きをした。


「……ちょっと、気味悪いわよ……」


そのとき。


道路の向こう、電柱の影に

黒いジャケットの男が立っていた。


庭の猫3匹と同じ方向を

無表情に、微動だにせず見ている。


視線を感じた恵子がそちらを向いた瞬間、

男は静かに歩き去った。


(……誰?)


不思議に思いながらも、

恵子は洗濯物を抱えて家に戻った。


最後に振り返ると、

白猫3匹は変わらぬ姿勢で恵子を見ていた。


まるで“見送っている”ように。

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