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変なのいるってよ  作者: 9どう?亜依


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8/12

『早かったってよ』後編

フェンス越しに立つ“影だけの自分”を見たまま、

海斗は呼吸を忘れていた。


影は海斗をじっと見ているように思えた。

目なんてないはずなのに、

視線のような圧だけがまっすぐ刺さってくる。


(……なんで……)


海斗がそっと一歩だけ下がる。

砂がざりっと鳴る。


その音に合わせるように、

影もフェンスの向こうで一歩“前に”動いた。


海斗の身体はもう動けなかった。


風も吹いてない。

他の影は全部ゆっくり伸びているだけなのに、

自分の影だけが――

人間みたいな速さで、こちらへ。


海斗は、

勇気というより反射で走り出した。


校門から道路へ飛び出し、

家の方向へ一直線に駆ける。


走りながら、無意識に地面を見た。


(……なあ、うそやろ……)


街灯の光が当たるたび、

地面にはっきりと“自分の影”が映っている。


それ自体は普通だ。

ただ問題は――


海斗の影が、

海斗より先に歩いていた。


歩幅が大きい。

腕の振りも速い。

海斗がスピードを上げても、

影がそのさらに先へ滑っていく。


(なんなん……これ。

 追いつかれへん……自分の影に……)


海斗は全力で走った。

陸上部の短距離の脚で。

何度もペースを上げる。


でも影は、

それより“半歩先”をずっと行く。


曲がり角を曲がる時、

影が先に角を曲がり、

壁に吸い込まれて消えていった。


海斗が追って角を曲がると、

影はもういなかった。


(帰ろ……帰ろ……もう知らん)


背筋がギチギチ鳴るような感覚のまま、

家のある方向へ向き直る。


その瞬間。


足元のアスファルトに――

スッと“影”が植え付けられたように現れた。


自分の足の真下、

確かに“自分の影”がある。


いつものようにぴったりくっついて。

一見、完全に普通。


海斗は息を吐いた。

ほんの少しだけ、安堵が戻った。


(……戻った……?)


だがその直後。


影が、海斗が動いてないのに

“先に首をかしげた”。


ほんの少し、

海斗を覗き込むような角度。


海斗の心臓が跳ねる。


「……やめて……やめてや……」


声が震える。

影は動きを止めない。


今度は、

海斗より早く、ゆっくりと“顔を上げるように”向いてきた。


影の“目の位置”。

黒い空洞が、

海斗の方へ真っ直ぐ向いた。


海斗は悲鳴も出せず、

後ずさりしながら尻もちをついた。


街灯の光が影を伸ばす。

影は伸びたまま、

海斗より早く、海斗を見つめ続けている。


動けない。

逃げられない。


影が、

海斗の動作の“先”を全部取っている。


海斗は震える唇で、

言葉にならない声を漏らした。


影は――


海斗より早く、海斗を向いていた。

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