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変なのいるってよ  作者: 9どう?亜依


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7/12

『早かったってよ』前編

陸上部の練習前、

海斗は校門の前でスパイク袋を肩にかけ直した。


下校ラッシュの生徒たちがわらわら歩いていく。

自転車のブレーキ音、部活帰りの笑い声、

その全部が夕日に伸びる影と一緒に混ざっている。


ふと、校門の外を見た。


黒いジャケットの男が、電柱にもたれかかって立っていた。


顔はうつむいていて見えない。

海斗と目が合ったわけでもない。

ただ、そこに“いた”。


(……誰やねんあれ)


特に気にすることもなく、

海斗はグラウンドへ向かって早足になった。



---


放課後のグラウンドは、

オレンジ色の光で全部が長く伸びていた。


海斗はスパイクを履き、軽くストレッチをしながら翔太に話しかける。


「なあ翔太、今日先生めっちゃ機嫌ワルない?

 明日雨やから練習減らしたいんちゃう?」


「知らん。海斗がフライングしまくるから説教伸びただけやろ」


「いやおれじゃないし」


「絶対おまえやって」


しゃべりながら笑っていると、

海斗の足元から影が細く伸びていく。


(影って……すごいな。夕方ってだけで体二つあるみたい)


そんな感想を胸の奥で言いながら、

スタブロの前に立った。


後ろから夕日が落ちてきて、

海斗の影がトラックに長く伸びる。


深く構えた瞬間だった。


影が、海斗より先に“前へ跳ねた”。


海斗はまだ合図も聞いてない。

身体は沈んだまま。


けど、影が――

ふわっと揺れて、

自分の一歩目を“先にやった”ように見えた。


(……あれ?)


姿勢を戻し、影を見た。

もう元通りでそこにいた。


「海斗ー?何してんの、寝とん?」


「いや、影が……いや、なんもない」


結局言えず、立ち上がる。


歩くたびに影が揺れる。

試しに軽く拳を振ってみた。


影の拳だけ“先に”振り切れているように見えた。


ほんの一瞬。

まばたきしなければ気づかないほど。


(……気のせい、気のせい。疲れとるだけ)


海斗は大げさに首を回して誤魔化した。



---


練習が終わり、

スパイクを脱いで荷物を持つ頃にはすっかり夕方だった。


海斗は校門へ向かう。

影は背中から伸びて、海斗を追いかけるように長い。


校門横の街灯がまだついていない。


門の手前で、

海斗は何気なく振り返った。


その瞬間。


海斗より先に、

自分の影が“校門へ向かっていた”。


海斗は1ミリも動いていない。


なのに影だけが――

勝手に先に歩き始めている。


海斗は固まった。


「……おい。

おれより早く行くなや……」


影はそのまま門の外へ滑り抜け、

夕日の中に消えていった。


海斗は喉をごくりと鳴らし、

ゆっくり歩き出した。


校門を出る手前、

フェンス越しに視線を向けると――


フェンスの向こう側に、

“海斗の影だけ”が立っていた。


海斗の影は、

本人より先に目的地に立っていて、

ゆっくりと、

海斗のほうへ角度を変えようとしていた。


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