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変なのいるってよ  作者: 9どう?亜依


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6/12

『消えたってよ』後編

目の前の後ろ姿がこちらを向きはじめた瞬間、

亮平の身体は勝手に後ずさった。


外灯の明かりの下、

白いブラウスがほんの少し揺れた。

髪が肩を滑る音が聞こえたような気がした。


でも、顔はまだ見えない。

ゆっくり、ゆっくりと向きが変わっていく。


亮平は息を詰めて固まった。

声を出す勇気もなかった。


ちょうど、完全にこちらを向こうとしたその瞬間――


外灯が「パチッ」と小さく鳴り、

光が一度だけ死んだ。


その一瞬の暗闇で、

後ろ姿は消えていた。


亮平はしばらく動けず、

やっとのことで鍵を開けて部屋に飛び込んだ。


ドアを閉め、鍵を2回まわし、

チェーンをかける。


部屋の電気を全部つけた。

蛍光灯の白い光が天井に広がる。


(なに今の……どういう……)


亮平はソファに腰を落とした。

膝が勝手に震えていた。


しばらくして、スマホが震えた。


通知でも着信でもない。

ただ、カメラアプリが勝手に開かれた。


(……は?)


スマホを持つ手が熱くなる。


通知欄には何もない。

シャッター音も聞こえていない。

でも、画面には「最近の写真」が追加されていた。


一枚だけ。


おそるおそる開いた。


アパートの入口の写真だった。

さっき亮平が立っていた場所。

外灯の下の、あの位置。


何も写っていない――

はずだった。


画面を明るくして、指で拡大する。


入口横の植え込みの影が、

妙に濃い。


(こんな影、あったか……?)


さらに拡大する。


影の中に、“輪郭”があった。


人影。

白いブラウスの肩のライン。

髪の束。

こちらを向いた――

“顔”の輪郭だけ。


目の位置が黒く滲んでいるように見えた。


亮平はスマホを落としそうになった。


(写って……る……?)


窓の外で、

音がした。


ヒールの音。

遠くでも近くでもない、

ちょうどアパートの前のアスファルトを踏む音。


カッ……カッ……


さっき聞いたリズムそのまま。


亮平は恐怖と混乱で、

それが“朝のOL”なのか“さっきの後ろ姿”なのかすら判断できなかった。


音はすぐに止んだ。


静寂が戻る。

冷蔵庫のモーター音だけが響く。


(見に行く……?いや無理だろ……)


でも、

なぜか窓のカーテンが気になった。


見なければいいのに、

見たら絶対良くないのに。


亮平は、

カーテンの端をほんの指一本分だけ開いた。


外灯の下。

アパートの入口の真ん前。


白いブラウスが立っていた。


さっきの後ろ姿。

ただ、今は――

真正面を向いていた。


顔の輪郭がわかるのに、

“表情”だけが霧のようにぼやけている。

目の部分だけ、光を吸い込んだように暗い。


亮平は息を殺し、

指でカーテンを閉じようとした。


その瞬間。


白いブラウスの“顔”が、

少しずつ近づいてきた。


カーテン越し。

視界の端にひたひたと迫る影。


亮平は慌ててカーテンを閉じた。

布が擦れて小さく音がした。


呼吸が乱れる。

喉が乾く。

鼓動が痛いほど響く。


(……帰った? いない?)


外は静かだ。


でも。


亮平のスマホが、

もう一度だけ震えた。


写真アプリのアルバムが勝手に開いた。


今度は、

さっきより鮮明な写真が一枚追加されていた。


窓の真下から、

こちらを見上げる白いブラウスの女の顔

が写っていた。


輪郭ははっきり。

ただ、目の部分だけ黒く塗りつぶしたように見えた。


その“黒”が、

画面越しにもじっと亮平を見ている。


亮平は手を震わせながら、

スマホを伏せた。


部屋の電気はついているのに、

視界が少しずつ暗くなっていくような気がした。


今夜は、

カーテンを開けることはできなかった。

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