表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変なのいるってよ  作者: 9どう?亜依


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/12

『消えたってよ』前編

亮平は、朝の通勤ルートを変えない。

理由は単純で、道を覚えるのが面倒だからだ。


同じ道を歩くと、

自然と“毎朝見かけるメンバー”が決まってくる。


犬を連れた老人。

スマホを凝視したまま歩く高校生。

やたら速いスピードで自転車をこぐおばちゃん。


それから――

亮平は最近、ひとりの“見慣れないのに見慣れた”存在に気づいていた。


黒いジャケット。

手をポケットに入れたまま、一定の速さで歩く男。

顔は見えない。

いつもうつむき加減で、表情が読めなかった。


足音も異様に小さかった。

気づくと前を歩いている日もあれば、

気づいたら後ろにいる日もあった。


(まあ……街には色んな人がいるよな)


亮平はそれ以上深く考えなかった。

ただ何となく、その男のことを“朝の風景の一部”として納得していた。


そして、そこにもうひとり。

毎朝“決まって前を歩く”人物がいる。


白いブラウスに紺のタイトスカート。

肩までの結び髪。

歩くのが少し速いOL。


亮平は顔を知らないが、

ヒールのリズムだけは毎朝耳に残っている。


カツ、カツ、カツ。


何故か、その音を聞くと安心して会社に行ける気がした。



---


その晩。

残業帰りの亮平は、気晴らしに少し遠回りして帰ることにした。


夜風が冷たい。

路地にはほとんど人影がない。


コンビニを抜けて細い道へ入った瞬間、

亮平は足を止めた。


前を歩く――

白いブラウスの後ろ姿。


(……あれ?)


朝のOLだ。


別に夜にいるのが変なわけじゃない。

ただ、亮平の中で“朝用の存在”になっていたため、

妙な違和感が生まれた。


歩き方は昼と同じ。

速い。

迷いがない。


距離は一定で、

追いつけそうで追いつけない。


(方向同じなんだな……)


OLが右の角をスッと曲がった。


靴音が一瞬反響して、

暗い路地へ吸い込まれていく。


カツ、カツ……カ……


亮平は3秒遅れて角を曲がった。


……いない。


道は短い。

左右に脇道なし。

どこへも逃げ込めない。


街灯の下、

ぽつんと空気が冷えているだけ。


(そんなバカな……)


亮平は奥へ数歩歩いてみる。

人影はどこにもない。


角に戻りかけたとき、

脳裏で最後の靴音が蘇る。


カツ……カ……


途切れ方が変だった。

まるで音が途中で別の場所に吸われたような――そんな感じ。


(気のせいだよ……)


自分に言い聞かせるように呟いた。


その直後だった。


亮平のすぐ後ろで、

コッ……

とヒールの音がひとつだけ鳴った。


(……え?)


理由もなく、

振り返ることができなかった。


冷たい空気が背面を撫でる。

誰かの視線のような気配がする。


意を決して振り向く。


誰もいない。


角のあたりだけ、

薄く影が立っているような感覚が残っていた。


(もう帰ろ……)


亮平は小走りでその場を離れた。



---


アパートの前に着いたとき。

外灯の下に――

後ろ姿が立っていた。


白いブラウス。

紺のスカート。

肩までの結び髪。


亮平は息を呑んだ。


さっきのOLと同じ後ろ姿。

動かない。

外灯の下で影だけが濃い。


(……なんで……?)


喉が鳴る。

呼吸の音がやけに大きい。


亮平が一歩踏み出した瞬間。


その後ろ姿が――

ゆっくりと、こちらへ向き始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ