『増えてたってよ』後編
その日の夕飯。
美咲はスマホで動画を見ながら言った。
「ママ、今日も猫おったん?」
「……いたわよ。今日は、3匹」
「3匹!? え、昨日2やったのに?」
「そうなのよ……なんか、増えすぎじゃない?」
「人気なんちゃう?ママの餌おいしいんやろ〜」
軽くからかわれて、恵子は笑い返したが、
違和感は消えなかった。
猫の増え方。
模様。
動きの一致。
(あれは……偶然の範囲なのかな)
食器を洗っていても、
庭の白い影たちが頭に浮かんで落ち着かなかった。
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四日目の昼。
雲の薄い日で、庭に陽が柔らかく落ちていた。
恵子が洗濯物を取り込もうとして外に出ると――
「……4匹」
じわりと血の気が引いた。
昨日3匹だった白猫たちが、
今日は4匹、均等な距離で横一列に並んでいる。
揃い方が“自然の動物”ではなかった。
「……あんたたち……どういうことなの?」
問いかけても猫たちは一切鳴かない。
ただこちらを見つめている。
恵子は早足で洗濯物を抱え、
家の中に逃げるように入った。
(さすがに……おかしい)
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その夜。
夕飯を食べ終えた美咲がふらっと庭を覗き、
「ママッ! ちょっと!」
驚いた声に恵子は急いで駆けつけた。
そこには——
5匹の白猫が、
完璧な半円を描くように並んで座っていた。
距離は昨日より近い。
庭の中央ではなく、
家にだいぶ寄った位置。
恵子の顔には、
もう笑いが生まれなかった。
「……ちょっと待って。なんで5匹なの?
増え方、普通じゃないわよね……」
美咲は苦笑気味に言った。
「ママが餌あげとるからやん〜。
猫カフェみたいになってるで」
(違う……そういう増え方じゃない)
恵子は胸の奥がざわざわして、
カーテンを急いで閉めた。
閉める直前、
5匹全員が、
同じタイミングで首をかしげた。
呼吸が止まりそうになった。
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夜10時前。
美咲は寝室へ行き、静かになった家。
リビングだけに明かりが灯る。
恵子は落ち着かず、温かいお茶を淹れようとキッチンに向かっていた。
そのとき——
庭から砂のこすれる音がした。
「……風?」
カーテンの隙間からそっと見る。
外灯の薄明かりの下、
庭の中央に白い影が見えた。
5匹の白猫が、
家ぎりぎりの位置まで近づいていた。
庭と家の境界線、
ほぼ“ゼロ距離”だった。
「……嘘でしょ……」
白猫たちは微動だにせず、
ただ家を、
恵子を、
じっと見ている。
恵子が立ち上がると、
5匹全員が“わずかに”顔を持ち上げた。
その一致した動きは、
もはや自然ではなかった。
一歩、後ずさる。
5匹は動かない。
でも視線だけが、
ピタリと恵子に固定されていた。
恵子の喉が震える。
(もう……これ以上は無理)
カーテンを閉めかけたその瞬間——
白猫たちは全員、
同じタイミングで恵子の方へ顔を向けた。
完全に、
揃って。
可愛らしさは一切なく、
ただ、不気味さだけが残る表情だった。
恵子は震える手で、
カーテンを一気に閉じた。
閉める直前、
5匹の白猫は、
一斉にまばたきをした。




