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敵のスカウトになんか、屈しません!

 パーティはつつがなく進行していった。

 農園で採れた野菜やお肉などを使った料理もゲストには好評でこれなら新しい商売にも繋がりそうだし、何よりもみんな喜んでくれているのが嬉しい。


 そろそろアルフレッドが挨拶する頃だ……。


 学園の後援となっているアルフレッドだが、次期皇位継承者なわけでそのスピーチは割と重要らしい。

 ゲストの視線が一気に中央に集まる。

 アルフレッドが緊張した面持ちで面前に立つ。


「今日は……本当にお集まりいただきありがとうございました。ハッピネスを支える優秀な人材を育てる……という目的のもと、建てられた学園で私はその後援をいたします。しかし、今回の立役者は私ではありません。全ての企画はこのリーザ・シャルトワースによるものです」

「へっ……」


 いきなり名前を呼ばれて、間抜けな声が出てしまうのは仕方ない。

 だって当初の予定では、お金こそ私が出すものの美味しいところはアルフレッドが全部持っていく予定だし、それにハッピネスを讃えて再度乾杯するはずだったのだ。

(私が呼ばれるなんて……一言も……? はっ!)

 まさか、また変なフラグを立てたとか?

 ひやりと背中に冷たいものが走る。

(で……でもこの状況じゃあ簡単には逃げられない……っ)


「リーザ……こちらに来てくれ」

「は……はひっ!」


 アルフレッドに手を引かれて私はゆっくりと中央へと案内される。

 まるで婚約破棄イベント時みたいだ。

 ゲストの皆様も一体何が起こるかと固唾を飲んで見守っている。

 そして、私も。

 正直まな板の鯉よろしく、体をカチコチにしながら突っ立っているままだ。


「リーザ……、お前が俺の隠していた真意に気づいて……ここまでしてくれたこと。本当に感謝する」

「そ……そんなめっそうもございません。わ、私は当然の行いをしたまででアルフレッド様がそこまで気にするようなことでは」

「俺が若干自暴自棄になっていたというのに、お前は俺のことをちゃんと見ていてくれた。だというのに……俺と来たら公衆の面前で婚約破棄をしてお前に恥をかかせた」

「いえいえ! それはゲーム進行に必要なこと……ではなく! アルフレッド様のお気持ちがまず大切なのですから、当然のことですわ!」

「そのことなのだが……」


 アルフレッドが私に向き合う。

 その瞳の真剣な眼差しに思わず、胸がきゅっとなる。


 あれ? 冒頭のアルフレッドってこんな切ない表情するキャラだっけ?

 え……ちょっと待って待って! 一体これなんのイベントなの?

何が始まるの?


 緊張と戸惑いで私の頭はパンク寸前だ。

 そんな余裕のない中で、アルフレッドはぐっと近づいてくる。


「あ……あのっ!」


 めちゃくちゃ近くないですか?

 と話すつもりだったのに絶句した。


「もう一度、俺の婚約者になってくれないだろうか?」

「へ……?」


 い……いまなんと?

 婚約者? もう一度?


「都合のいいことを言っているのは十分に承知だ。だが俺はお前以上に俺のことを考えてくれる女性が他にいると思えない。お前は自分がふさわしくないと言った。しかしそれでいえば、俺の方がお前の生き方に添えるだけの人間だと思えない……。しかし」


「え……っ、えっ。ちょ、ちょっと待って」

「しかし、お前を諦めることなどできない。俺がまだ未熟だが、それでも俺はお前に隣にいてほしい。どうか、俺の婚約者にもう一度、なってはくれまいだろうか?」

「あ……ああああの」


 顔から沸騰しそうなくらいに熱い。

 これはあれだ、アルフレッドルートで告白されるときのイベントなのだ。

 形は違うがヒロインはアルフレッドの悩みに寄り添い、告白される。

 その時のフルボイスイベントがもうこれまた最高で、何回やったか分からない。

 それを目の前でやられてしまっては卒倒しそうになるのも無理はない。

(そうだ……、アルフレッドに告白されて……。主人公はもちろんです……っていうのよね。それで……ハッピーエンドを迎えるんだ)


「も……もちろ」


 言いかけた途中でハッとする。

(ん……ちょっと待って!!!ダメだダメだ!)

 だって私、今悪役令嬢じゃん! ハッピーエンドにならんわ!

 そうなのだ。途中分岐を間違えると進行してしまう、バッドエンドの一つ。

 主人公がアルフレッドの好感度を選べないと、リーザと結ばれてしまう。

 しかしその後、ハッピネスは乗っ取られてしまいアルフレッドは不幸になってしまうのだ。

(無理じゃんそんなの!)


「お断りしますわ!」


 私はきっぱりと断った。途端にアルフレッドの顔が陰る。


「やはり……、気にしているよな。あれだけの面前でお前に恥をかかせたのだ。そう承諾してもらえるわけないよな」

「あ……いえ、そういうわけではなくてですね」

「しかし、俺は何年かけてでも償う。だから、頼む。俺の手を取ってくれリーザ」

「あ……の……、だからそういうわけではなくて……」


 どうしよう。

 まさかバッドエンドになるんで無理なんです! なんていえないし。

 アルフレッドは真剣な眼差しだし、納得するようないい言い訳が思いつかない。


「リーザ……」

「あ……、はひぃ!」


 アルフレッドの顔がぐんと近づいてくる。

 私の頭は完全にパニックだ。

 一体これなんなの?

 どういうイベントなの?

 唇が触れそう……! と思った瞬間。

 ぴしゃりとした声が響く。


「その辺にしておいたらいかがですか?」


 声のした方向へ一気に視線が集中する。


「べ……ベルモットぉ!」

 素っ頓狂な声をあげた私に、ベルモットがふんわりとした笑いを向ける。

「ど……どうして貴方が?」

「ふふ。私は殿下に招待されたゲストなのですよ、リーザ嬢。しかし、殿下。いけませんね。公衆の面前で淑女に関係を強引に迫るなど……」

 ゆったりとこちらへ歩いてはくるものの、その顔はなんだか怖い。

 ええ……? 一体どうしたと言うのだろうか。

 私とベルモットの間を遮るかのようにアルフレッドがすっと、間に入ってくる。

「すまないが、引いてくれベルモット卿。悪いが俺は本気なんだ……。いくら貴殿といえど……」

「いいえ……、聞き捨てなりません。何故なら……」

 ベルモットはにこやかながら氷のように冷たい微笑を浮かべながら近づくと、ぐいっとアルフレッドから引き剥がすように私を抱き寄せた。

「何故なら、私の恋人に手を出されたとあれば黙っていられないからです」

「は……?」

 え……?

 今、ベルモットは何て言った?

 こい……びと?

 しんと静まった会場が、次の瞬間吹き出したように人々の声が上がる。

「ええええええ!」

 令嬢らしからぬ声をあげてしまったがもはや仕方ないだろう。

 アルフレッドが目を丸くしながら私とベルモットの顔をそれぞれ見比べる。

「な……何を考えているのだベルモット卿」

「それはこちらのセリフですよ殿下。いくら殿下とて、人の恋路を邪魔するような真似は看過できません」

「恋路……だと?」

「はい?」

 私とアルフレッドの声が思わずハモった。

 え……? 一体どう言うことなの?

 恋路……? こい? 誰が? 誰と?

「ええ……、私とリーザ嬢は恋人なのですから」

「え……っ! ええっ?」


 はああああ??

 一体どういうことなの?


 な……何???

 いつの間に恋人になってるの! 

 私は知らんぞ! そんなイベントなかったぞ!

 ただ口をぱくぱくと空ける私にベルモットがそっと寄り添う。

「それに婚約破棄したのは貴方の方でしょう? アルフレッド殿下。いくらなんでも今更戻ってきて欲しい……なんて都合が良すぎるとは思いませんか?」

「……ぐっ」


 アルフレッドの顔が一層険しいものになる。

 ま……まあ確かに。

 婚約破棄したけどやっぱりお前が好きっていうのは流石にね……。

 いやいや、そういうことじゃない。

と言うか、いきなり何なのだ……!

 はっ! まさか新しいフラグでも立てようとしているのだろうか……??


「ちょ……ちょっと! 一体どう言うことですの? ベルモット様……むぐっ!」

「ああ……リーザ。かわいそうに。君がこんな風に好き勝手されてるなんて……。とてもじゃないが黙って見ていられなかったのだよ」


 抱きしめるふりをして口を塞がれてもごもご言いながらベルモットを睨みつける。

 顔こそ穏やかだけど、瞳が黙っててちょうだい!って言ってるのが分かる。

(く……っ! 好き勝手にさせられてたまるものか……!)

 しかし残念なことに私の腕ではとてもじゃあないが叶いそうにもない。


「もちろん……、リーザは殿下をお慕いしているでしょうがそれはあくまでご友人……幼馴染としてのものですよ。お気持ちは分かりますが、流石に横恋慕はいけませんよ殿下」

「し……しかし」


 まだ何かを言いたいらしい殿下をよそにベルモットは私の肩にそっと手を乗せた。


「さあ……、行きましょうかリーザ。そろそろお開きの時間でしょう?」

「はっ……!」


 慌てて時計を見上げるともう時計の針はすでに22時を指していた。

 確かに、呆然と見守っているゲストをこのままにしてはおけない。


「で……では! 皆様! これでパーティは終了とさせていただきますわ。是非、これからもシャルトワース家と学園にご協力のほどお願いいたします!」

「ふふ……! それでは皆様御機嫌よう!」


 ベルモットもにこやかに挨拶をする。

 いやいや……ちょっと。

 アンタはそこに便乗する必要なんてないでしょうに!


「あ……! 待ってくれ!」


 しかしアルフレッドの制止も聞かず、ベルモットは私の手を引いて、会場から颯爽と連れ出した。




颯爽と連れ出されて、私は控え室へと帰ってきた。


「プークスクス! 見た? あの王子の顔? すごい驚いていたわあ。はー……! ガツンと言ってやれて爽快だったー」


 のびのびしているベルモットに私は食ってかかる。


「ちょ……ちょっとどういうことなの? ベルモット」

「どう……って?」

「いやいやいや! いきなり恋人って何? そんなこと一言も言ってないでしょ? あんな面前で……一体どう言うつもりなの?」


 怒りと困惑で顔がかあっとなっているのが分かる。

 しかしそんな私の顔をベルモットは楽しそうに眺めるだけだ。


「……ふふっ。仕方ないじゃない? アンタこそ、あの王子にしてやられてばっかでいいの?」

「……どう言う……ことよ?」

「結局、アルフレッドは自分のことばかりじゃない? アンタはあの王子を支えようとしていたけどさ。そんなヤツに振り回されてもいいの? 勿体無いじゃない?」

「うーん……」


 確かにベルモットの言い分も一理ある。 

 しかし、アルフレッドルートの醍醐味は主人公一途なところを見せてそこから甘々な展開で蕩ける思いをすることなので私は特段気にならなかった。


「いやあ、それはもう。幸せならいいと思うんだけどなあ」

「はあ? ここにきて相手の幸せを願うっていうの?? 全くお人好しよね。アンタって」


ベルモットがくすりと笑う。


「ベルモットはアルフレッドが嫌いなの?」

「別に? そんなことないわ。彼は私の仕事上のパートナー。あくまで表向きは両国の友好だしね♬ ただ、アンタに対してやりたい放題なアイツがちょっと気に食わなかっただけ」


 そういうものなのだろうか?

 なんだかしっくりこないけど、正直ベルモットにはおとなしくしていて欲しい。


「やるならもうちょっとこっそりやってよ……。絶対に噂が広まっちゃうじゃん……」


 私がため息をつくと、ベルモットがにやりと笑う。


「いいのよ……。言わせておけば、まあアタシが表向き恋人ってことならへんな輩も手出しできないと思うのよね……」

「あー……まあ、そうだけど」


 それは返って変なフラグを立てなくて済むかもしれない。


「その方が、アンタをスカウトしている身としてはとってもありがたいしね! ねえ? 本当にアタシの恋人になってこっち側こない?」


 にやりとほくそ笑む顔はまるで天使のようにきらめいている。

 本当……、これが攻略キャラだったら、悪役令嬢じゃなかったら私は嬉々として提案を受け入れるんだろうなあ。

 (でも……、ハッピーエンドを目指す以上。私が取る選択は一つなんだからね……!)


「ゼーったいにお断りです!」


 きっと鋭い表情で睨みつける。

 悪いが、私はただのオタク女子高生ではないのだ。



 推しの幸せを守るため……

 私の破滅フラグを回避するため……

 ハッピーエンドを築くために日々研鑽を重ねる悪役令嬢なのだ



そんな強い表情の私をベルモットはきょとんとした顔をした後に、

ふっと蠱惑的な笑みを浮かべた。


「ふふ……っ! いいわ。アタシ、強気なコを落とすのもだーい好きなの♬ 覚悟しなさいな、リーザ・シャルトワース!」


相手は敵国の幹部……。

きっと他の人だったら怖気付いてしまうに違いない……。


(でも……私は屈したりしない)


だって私はハッピーエンドを目指すのだから。

絶対に、敵のスカウトなんかに屈しないんだからね!


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