予感
まるで黒船のように襲来したオネエ、もといベルモットとの一悶着から数日。
依然として相手の存在は気になるものの、ここ数日は何もなく拍子抜けした。
(諦めない……とか言っていたけど、私の思い違いだった?)
どちらにしてもベルモットの申し出を承諾してしまったらバッドエンドは避けられない。
推したちの幸せのために断固阻止してやらないとなのだ!
「ううう……、それにしても猫の手を借りたいほどだわ……」
ひいひい言いながら私は学園の敷地内を走り回る。
アルフレッドに構想を話してから数ヶ月。
今日は学園の完成記念パーティなのだ。
協力してくれた関係者だけではなく、講師の先生や、事前に試験をしアルフレッドに悪影響を及ぼさない身分の証明された貴族などなど……、ゲストがたくさん来る予定なのだ。
それに私にしてもここ一番の仕事の成果発表でもあり、アルフレッドから後援してもらってる手前。絶対に失敗など許されないので、念には念を入れて働きっぱなしなのである。
「リーザ様、こちらはいかがしますか?」
「あ! えっと、肉料理は左のテーブル! それとまだまだお皿もカトラリーも足りないわ!じゃんじゃん持ってきて!」
「かしこまりました!」
「装花なんだけど、ちょっとボリューム足りないかも。中央でアルフレッド様が祝辞を述べられる予定だからもっと引き立つように量を加えて!」
「はい!」
使用人たちにあれこれ指示を加えるだけでも一苦労だ。
でも絶対に失敗なんてできない……。
まあ、正直自分の商売とかそういう面もあるけど……二の次だ。
時間と手間暇をかけて、パーティを開くのにはちゃんとした理由がある。
(アルフレッドはここでめいいっぱい自分の幸せを追求できるんだから……、盛大にお祝いしてあげないとね)
思わず私も笑顔になる。
だからこそ、私も頑張れるというものだ。
「リーザ様、こちらはどうすれば?」
「あ……待って、これから向かうから!」
そんな風にきりきりと働いてようやく時間ギリギリに準備が終わったのだった。
学園内の大ホール。
会場内にきらびやかな衣装に包まれたゲストたちが次々に足を踏み入れる。
今回は私だけじゃなくて、アルフレッドも懇意にされている方々も呼ばれているらしい。正直慌ただしくて名簿を確認してはいないけど、大方人数は把握しているしまあ大丈夫だろう。
ウェルカムドリンクを受け取りながら談笑するゲストたちを眺めていると、後ろから声をかけられた。
「リーザ……」
「……っ! アルフレッド!?」
いきなりびっくりしたじゃない……という言葉は思わず飲み込まれた。
通常の衣装もかっこいいけど、今日は黒の絹でできた織物に金糸で模様の入ったジャケットに同じ柄のすらっとしたボトム。
前髪は後ろに撫で付けられていて、いつにも増してフォーマルな装いだ。
(こ……これはっ!)
私は知っている。
これは発売1周年を記念した限定グッズの衣装だ。
当時、ハマりたてだったにも関わらず少ないお小遣いをかき集めて販売サイトに張り付いてようやく買えた記憶が蘇る。
(はあ……っ! 尊い……っ! 推しの限定衣装……、尊すぎる……っ!)
感涙にむせびそうになるのを思わずぐっと耐える。
いきなり泣き出したらそれこそ不審者だ。
これもオタクあるあるだと思うけど、今は悪役令嬢だし、ましてやこれから大切なパーティなのだ! しっかり目に焼き付けて家に帰ってたらたっぷりと泣くことにしよう。
「どうした……? 一応、それなりの格好だと思ってきたのだが……、似合わなかったのだろうか?」
「いいえ! そんなめっそうもない! 非常にお似合いですよ! ほんと! 格好いいですよ! すごい! めちゃくちゃ課金したい! 絶対に通販戦争に勝ってみせるくらいに!」
「……」
「あっ!」
いけない……、ついまくし立てるように言ってしまった。
うわあ、やってしまったあ。
令嬢じゃなくて、オタクの本性が出て来ちゃってる感じだ!
アルフレッド、固まって絶句してるじゃん。
思いっきり目を丸くしてるじゃん!
これ早口で喋っちゃったからだよね!
「申し訳ございません。つい、取り乱してしまいましたわ」
絶対に引いたよね、これ?
だって、婚約破棄の時も私が何か喋ろうものならすごい勢いで睨みつけてたし。
最近、穏やかだっだけど怒らせちゃうかなあ。
や! やばい……なんかフォローしないと!
「あっ! あの、ですね! あああ、あくまで私の感想ですので! アルフレッド様は何を着ても着こなしてしまうというか……! ですから私の意見など気にせず……」
「嬉しい」
「へ……っ?」
思わず見上げると、アルフレッドが私をまっすぐに見つめている。
その頰は少し赤くなっているように見えた。
「正直……、お前に気に入ってもらえるかどうか。それを気にして……。今まで、身につけるものなど相手に失礼にならない程度でいいと。そう思っていた」
「あ……」
まあアルフレッドならなんでも着てもかっこいいもんね。
実際にかなり手の込んだ衣装だけどちゃんと着こなしてるし。
「だが……誰かに、気に入って欲しくて……それで身なりを選ぶなど。生まれて初めてだ。今まで無頓着だったことを後悔したくらいだ。……不思議だな、パーティは今までたくさんあったのに。誰かの目が気になるなど……、新鮮な感覚だ」
「あー、なるほど」
アルフレッド的には今から自分を応援してくれる仲間が欲しいのかも。
私が想像している以上にきっと、城内の貴族の圧力が大きいのかな。
新しい試みではあるし、アルフレッド的にはやっぱりここで魅力アピール的なことをしたいのかもしれない。
(アルフレッドだったらそんな心配必要ないとは思うけど……、きっとそれくらいにこの学園に期待してるし、気に入ってくれるってことだよね?)
私はアルフレッドの手をぎゅっと握る。
「……っ、リーザ?」
「安心してくださいませ! アルフレッド様! 心配などなさらずとも、アルフレッド様はいつでもかっこいいですし、何を着ても非常にお似合いですよ!」
「ほ……本当か?」
「ええ! もちろん、私は心からそう思います!」
「そう……か……」
アルフレッドの顔が綻ぶ。
その顔がなんだかとっても穏やかで、まるでアルフレッドルートで高感度マックスだったときに浮かべる表情のようだ。
「リーザ、俺は……」
「リーザ様、申し訳ございません。お料理の搬入の件なのですが……」
「あ! はーい! アルフレッド様、それでは後ほど! 心配なさらずとも、私が必ず成功に導いてご覧に入れますわ!」
「あ……ああ」
「はい! それでは後ほど!」
そうそう! パーティの準備はまだ残ってる。
去り際アルフレッドが少し寂しそうな顔してたような気がするけど、絶対にヘマはしないつもりだから安心して欲しい。
私は気合のガッツポーズを小さくかましながら使用人の元へと駆けて行った。




