謎のイケメンの正体は……
結局何も起こらず、私は面食らった感じで場内を歩いていた。
「私の勘違いだったのかな?」
そうぶつぶつと呟きながら、城内を歩く。
確かに遠目で見る限り、ベルモットは好青年といった出で立ちで国を滅ぼすようなことを画策しそうには見えなかった。
「でも……気をつけておいた方がいいよね。……ってあれ?」
はっとしてあたりを見渡せば見慣れない回廊だった。
「ぼーっとして迷い込んじゃったかな? 怒られないうちに帰らないと……」
そうしてそそくさと立ち去ろうとした時だった。
「はあー! まあったく拍子抜けしちゃうわあ。ハッピネスの人間ってどいつもこいつも頭の中、お人好しのいい子ばっかりね」
耳に飛び込んできた、少し甲高い声。
あれ?でもさっきこの声聞いたような……。
そうして振り向いた先にいたのは。
(べ……ベルモット?)
先ほどまで瞬いような笑顔を振り向いていたというのに、どこか蠱惑的な笑みを浮かべている。
(な……何をしているんだろう)
不安を感じてそっと、物陰に隠れながら近づいていく。
おそらく客人用の居室だ。
しかし客人はほとんど帰ったはずだった。それに大使には他に居住用の屋敷があてがわれているはずだ。
だというのに彼は黒い執事風の衣装を身につけた男性と話し込んでいる。
おそらくベルモットの使用人なのだろう。
(一体どうして?)
談笑しているにはあまりにも空気が不穏だ。
胸騒ぎがして、そっと柱の陰に隠れて様子を伺う。
「それで守備はいかがですか? ベルモット様」
「問題ないわよ、セバス。これなら簡単にことが運びそうだわ」
(こと……?)
不穏な単語に体がこわばった。
ベルモットの瞳がきらりと光る。
「フロイデの侵略計画。近いうちに実行に移せそうね」
(侵略!?)
声がうっかり出てしまいそうになるのを、慌てて口に手を当てて防いだ。
(こ、このままじゃバッドエンドルートに突入しちゃうんじゃない?)
「絶対に阻止しないと……」
とりあえず誰かを呼ばないとと思った。その時。
「……あっ!」
バランスを崩して倒れ込んでしまった。
「い、いたた……。ま……まずい」
「おや? どうなされましたリーザ嬢。ここは立ち入り禁止の場所。いくら高貴な貴女ですら簡単に入ることは許されないはずですが……」
私の姿に気づいたベルモットがさっと手を差し出す。
先ほどのように王子様のような笑顔を貼り付けて。
しかし、それに引っかかるような私じゃない。
「ち、近寄らないで!」
ベルモットの手を跳ね除けると急いで自分で立ち上がる。
「貴方の目論見は分かっておりますのよ! ベルモット様」
「ほう……? 目論見、と言いますと?」
「白々しい。ハッピネスを侵略しようとは言語道断ですわ! 人を呼び、貴方を断罪します」
ピシッと人差し指を突きつけるも、ベルモットはどこ吹く風といった様子で首を傾げた。
「……どうやって?」
「ど、どうやって……って。そんなこと」
分かりきってるじゃない?と言いかける前に、ベルモットが私に近づいてくる。
手首を掴まれてぐっと引き寄せられる。
青い瞳が私の目を射抜く。その視線の強さに思わず息を飲んだ。
「……っ!」
「ただのご令嬢と、やっと同盟を取り付けた帝国から来た大使……。両国の平和と繁栄を願う王族からすれば、どちらの言葉を信用するか明白でしょう?」
「そ……そんなことない」
「ありますよ。ですが私も来て早々、噂を立てられるのはごめんでね。このまま帰ったほうがいい。今見たことを水に流すというのなら……」
「できるわけないわ! それにいつまでそんな口ぶりなの? もう私には正体バレバレなんだから!」
そう啖呵をきると、一瞬驚きに見開いた瞳が急に優しくなる。
「……くく」
「……え?」
「アハハハっ!」
驚きに固まる私をよそにベルモットの笑い声が響く。
「ふふっ、いいじゃな〜い? 気に入ったわ、アナタ。前評判じゃあちょっと残念なご令嬢って聞いていたけど、なかなかに聡明。周りがアタシに潤んだ瞳で釘付けになってるっていうのに、アナタだけはアタシのことめちゃくちゃ警戒した瞳で見つめてたもんね?」
「え……」
「ちょっと早とちりさんみたいだけど、その度胸は合格。……決めたわ!」
にこりと笑うけれどその笑顔がなんか怖い。
その私の直感は見事に的中することになる。
「アタシと一緒にこの国滅ぼさない?」
まるで『美味しいカフェがあるから今度行こうよ!』というようなそんな軽さで、このオネエは私に言ってのけたのだった。




