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自己愛性ハーレム勇者 〜元の世界が俺の価値を理解できなかっただけ!〜【R15版】  作者: シュキラ
ミナトの章~村の英雄~

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04.英雄の日常②

 陽が西に傾き始めた頃、ミナトは土と汗を流そうと、川の上手にある『温み淵』へ足を向けた。


 川底の岩の割れ目から、地熱で温められた湯がこんこんと湧き出している場所だ。冷たい川の水と混じり合って、晩秋でも人肌ほどの温かさを保ち、あたりには白い湯気がゆらゆらと立ちのぼっている。岸の平たい大岩も地熱を帯びてほんのりと温かく、村の女たちはここで洗濯をし、ついでに身体を洗っていく。


 近づくにつれ、湯気の向こうから、きゃあきゃあと弾んだ声と水音が聞こえてきた。


「きゃっ、つめたっ! ちょっとカヤ、そっちは川の水が混ざってるとこでしょ!」

「あははっ! ぼーっとしてるフィオが悪いのよ! ほら、ネルも!」

「もう、二人ともはしゃぎすぎ……ひゃんっ!」


 ばしゃんっ、と盛大な水しぶき。

 柳の枝越しに覗くと、岸には洗い終えた洗濯物の籠が並び、湯気の立つ浅瀬で、三人の娘たちがじゃれ合っていた。


 黒髪を一本に結った、日焼けしたしなやかな身体の娘――狩人の娘、カヤ。

 亜麻色の三つ編みを垂らした、おっとりとした豊満な娘――機織りの娘、ネル。

 そして、赤毛にそばかすを散らした、小柄で元気な娘――フィオ。


 いずれも若い、まだどこにも嫁いでいない娘たちだ。

 三人とも、水浴び用の薄い麻の肌着を一枚まとっただけの姿だった。頭から湯を浴びた薄布は肌にぴたりと張り付き、それぞれの身体の線を、隠すどころかかえって際立たせている。

 陽に焼けたカヤの引き締まった肩。身をよじるたびに豊かな胸を揺らすネル。裾が腰までめくれ上がっていることにも気づかず、水をすくって投げているフィオ。


「……っ」


 思わず息を呑んだミナトの気配に、狩人の娘らしく目ざといカヤが、真っ先に気づいた。


「あれっ……勇者様!?」

「えっ、ほんとだ、勇者様!」


 胸元を隠すどころか、三人は顔をぱあっと輝かせ、湯を跳ね上げながら駆け寄ってきた。


「ベン爺さんの畑の大岩、指一本で弾いて粉々にしたって、村中その話で持ちきりですよ!」

「土だらけじゃないですか。ほら、一緒に温まりましょ!」


 とんでもない尾ひれのついた噂を訂正する間もなく、カヤとフィオに両腕を取られ、ネルに背中を押されて、ミナトは湯気の中へと引き込まれた。

 シャツを脱ぎ捨てて腰まで浸かると、冷えた身体に心地よい温もりが染みていく。

 フィオが「うわぁ……」と感嘆の声を漏らして、ミナトの胸板にぺたりと手を当てる。カヤも、ためらうようにミナトの腕に触れて――それから、湯の熱のせいだけではなく、頬を真っ赤に染めた。


「勇者様……。私たち、夜のお勤めの順番には、まだ入れてもらえないんです」


 背中に柔らかな身体をそっと預けながら、ネルがそう打ち明けた。耳元にかかる吐息が、湯よりも熱い。


 勇者の寝所に誰が上がるかは、村長の妻のマルタを中心に、村の女衆が取り仕切っている。

 順番は、娘も妻も分け隔てのない輪番だ。名を連ねた女なら、ひと月もしないうちに番が回ってくる。

 ただし、輪に加われるのは、成人の儀を済ませた翌年から――と決まっていた。

 この春に成人したばかりの三人の名が輪に書き加えられるのは、来年の春になる。

 そしてもうひとつ、村の女たちが皆で決めた約束事がある。

 ――勇者様ご自身が望んで抱いた女なら、順番は問わない。

 勇者を独り占めしないための輪番であって、勇者の心まで縛るためのものではない。誰もが納得している決まりだった。


 ネルは恥ずかしそうに、けれどはっきりと言葉を続けた。


「来年の春まで待たなきゃいけないって、分かってはいるんです……。でも、勇者様が望んでくださるなら、順番は関係ないって……。今日ここで会えたのは、きっと、山の神様のお導きだと思うんです」

「わ、私たち、三人とも……まだ、男の人を知らないんです」


 フィオがそばかすの頬を真っ赤にして、ミナトの腕にしがみついた。


「最初の人は……勇者様がいいって、三人でずっと話してたんです……っ」


 三人の娘の、まっすぐで切実な眼差し。

 ミナトは黙って、カヤの濡れた黒髪に手を差し入れ、その唇をそっと塞いだ。


 ***


 柳の枝が風に揺れ、湯気が白く立ちのぼる。

 夕暮れの温み淵には、ほかに誰の姿もなかった。


 ――湯気が、四人の姿を、白く包み隠していった。


 ***


 谷の空が、少しずつ茜色に染まり始めていた。


 地熱で温まった平たい大岩の上に、三人の娘は肩を寄せ合って座り込んでいた。

 誰も、すぐには立ち上がれなかった。

 濡れた髪はぐしゃぐしゃで、目元には涙の跡が残っている。それでも、三人とも、こらえきれないように口元をほころばせていた。


 カヤが、ミナトの首筋に顔を寄せて、そこにちゅうっと強く吸い付いた。


「……えへへ。私の、印です」


 首筋に、赤い痕がくっきりと残る。

 それを見たネルが、自分のお腹にそっと手を当てた。フィオも、真似をして、両手を重ねる。


「……勇者様と、ひとつになれたんだね、私たち」

「ふふ……まだ、夢みたい……」

「勇者様の、赤ちゃん……来てくれるかな……」


 三人は顔を見合わせ、それから、くすくすと声を上げて笑った。

 心の底から、幸せそうに。


 ミナトはその隣に腰を下ろし、湯気の向こうに傾いていく陽を眺めた。


 ***


 ようやく四人が湯から上がったのは、陽が西の山の端にかかる頃だった。


 フィオはまだ足腰が立たずにネルの腕にしがみつき、ネルはお腹にそっと手を当てて、ほうっと満ち足りた吐息をこぼしている。カヤは、ミナトの首筋に残した自分の痕を眺めて、満足げに目を細めていた。


「勇者様。……今日のこと、私たち、一生忘れません」

「来年の春になったら……今度は、お部屋に伺いますね……!」

「わ、わたしも……っ! また、会いに行っても、いいですか……っ」


 濡れた肌着の上から上着を羽織り、洗濯物の籠を抱えて、三人は何度も振り返っては手を振りながら、それぞれの家へと帰っていった。

 日が陰った途端に、谷を吹き下ろす風がひやりと冷たくなる。ミナトも濡れた髪を手で絞り、村への道を引き返した。


 ***


 夕暮れの村に戻ると、すれ違う村人たちが次々に笑顔で声をかけてきた。

 狩りから戻った男が「今夜のおかずに」と仕留めたばかりの角兎を押し付け、機織りの老婆が新しい毛織りの肩掛けを「寒くなりますから」と手渡してくれる。

 村長の家に着く頃には、両手が貰い物で塞がっていた。


「あらあら、またこんなに」


 笑って角兎を受け取ったマルタが、さっそく香草と一緒に炙り焼きにしてくれるという。

 囲炉裏端では、畑の見回りから戻った村長が、膝を正して頭を下げた。白髪交じりの髭をたくわえた、穏やかな目つきの初老の男だ。


「勇者様、ベンの畑の大岩の件、聞きましたぞ。村の長として、礼を申します」

「大したことじゃないですよ。身体を動かしたかっただけですから」

「そう仰いますが、ベンのところは、あれで冬を越せるかどうかが決まるところでしたからな」


 その傍らで、リオを膝に乗せたサリヤが、じっとミナトの首筋を見つめていた。

 湯上がりの肌に、くっきりと残る赤い吸い痕。


「……サリヤ?」


 視線に気づいて声をかけると、サリヤは小さく息をついた。


「さっき、カヤちゃんたちが川から帰ってくるのと、すれ違ったんです。三人とも、すごく嬉しそうな顔をしてて……」

「……ああ。その、温み淵で、たまたま会って」

「三人とも、ですか?」

「……三人とも、だ」


 サリヤは、ほんの少しだけ目を丸くして――それから、ふっと表情を緩めた。


「……よかった。あの子たち、春に成人してからずっと、来年が待ち遠しいって言ってたんです。母と一緒に順番を書きつけてるから、私、知ってて。……ミナト様が自分で選んだのなら、誰も文句は言えませんね」


 そう言ってから、もう一度ミナトの首筋に目をやり、つん、と唇を尖らせる。


「……でも、印までつけていくのは、ちょっとずるいと思います」


 竈の前のマルタがこらえきれずに吹き出し、村長は聞こえないふりをして、黙って果実酒の壺の栓を抜いた。

 角兎の炙り焼き、芋と豆の煮込み、黒パン、それにベン爺さんのチーズと蜂蜜。

 村長が若い頃に街へ下りた話をし、マルタがそれに茶々を入れ、サリヤがリオに煮込みの汁を匙でほんの少し舐めさせる。リオが顔をしかめて舌を出すと、皆で笑った。


(……いい世界だな、本当に)


 囲炉裏の火を見つめながら、ミナトは心からそう思った。


 ***


 夜。

 自分の家に戻って暖炉に火を入れると、ほどなくして、表の扉が控えめに叩かれた。


 戸口に立っていたのは、七人の娘たちだった。

 夜気で頬を赤くし、肩掛けをかき合わせ、互いの袖をつまみ合うようにして身を寄せ合っている。

 誰もが緊張した面持ちで、それでも瞳だけは熱っぽく潤ませて、ミナトを見上げている。


「勇者様……今夜は、よろしくお願いします」


 先頭の娘が、消え入りそうな声で言った。

 ミナトは笑って、扉を大きく開いた。


「早く入ってくれ。外は寒いだろ」


 ***


 はじめのうちこそ、娘たちはぎこちなかった。

 暖炉の前で一人ずつ肩掛けを外すたびに、ほかの娘たちと顔を見合わせ、恥ずかしそうに笑い合う。

 ミナトが一人目の手を取ると、残りの六人が、きゃあっと小さな声を上げた。


 ――暖炉の薪が、ぱちりと爆ぜた。


 ***


 夜更け。

 暖炉の薪が崩れて熾火になる頃、ようやく寝室に静けさが戻った。


 七人の娘たちは、ミナトの腕に、胸に、脚に、思い思いにしがみついたまま、満ち足りた寝息を立てている。どの寝顔も、穏やかで安らかだった。


 ミナトは天井の太い梁を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。

 腕の中の温もりの重さが、心地いい。


(明日は……薪割りでも手伝うか)


 急ぐことは、何もない。

 明日も、明後日も、きっと今日と同じように穏やかで、満ち足りた一日がやってくる。


 暖炉の熾火が、とろとろと赤く揺れている。

 娘たちの温もりに包まれて、ミナトの意識は、深く、穏やかな眠りへと落ちていった。


 ***

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