17.継承
「――じゃ、そろそろお仕事しよっか」
ニコが、ぴょん、と立ち上がった。
しゅるり、と。
緑の光の鞭が、ミナトの首に、胸に、腕に、脚に、蛇のように何重にも巻きついて――締め上がった。
「ぐ……っ!?」
地面に引き倒された。剣を握った右腕ごと胴に縛りつけられ、身動きひとつ取れない。
鞭が触れたところから力が抜け、熱が吸われ、指先が冷たく痺れていく。
「はい、捕まえたっと。にゃははっ」
黒く変色した右腕をだらりと垂らし、左手一本で鞭の柄を握ったニコが、上から覗き込んでいた。
「逃げ癖のある子には、お縄だよー。今度は逃がさないからね?」
「な、何を……っ」
「何って、決まってるじゃん」
ナティアが石垣から飛び降り、ミナトの前に立った。
「あんたを王都へ連れて帰る。王に背いた罪。神器を持ち逃げした罪。それから――この数年間、あんたが通った街や村でやったこと」
声が、かすかに震えた。
「全部、裁きの場で償わせる。あんたに殺された人たちの家族の前で、ひとつ残らず」
(……は?)
知らない。
持ち逃げ? 殺した? この数年で何をやったって?
この身体で目を覚ますその前のことなど、何ひとつ知らない。
「し、知らない……っ!! 俺は何も知らない……っ!!」
「あーはいはい、とぼけても無駄」
「違う、違う違う……っ!! 俺じゃない!! 俺は、リーフじゃ――!!」
「ガラム。足、持って」
「……ああ」
ガラムがミナトの足首を掴み、ずるずると泥濘の上を引きずり始めた。
***
ずるり。ずるり。
焼けた村が遠ざかっていく。
村長の家の炭の山が。女たちと寝た、あの家が。俺の村が。
(――嫌だ)
頭の中が、ぐちゃぐちゃに掻き回されていた。
――償え、だと?
全部、この身体の前の持ち主がやったことだ。なのに、俺が裁かれる?
この身体で手に入れたものを全部失くして――今度は、処刑でもされて、この身体ごと取り上げられるのか?
(ふざけるな。これは――俺の身体だ)
この数年間、この身体で生きてきた。
化け物を斬った。勇者様と呼ばれた。女たちを抱いた。子を作った。
この身体は俺のものだ。この剣も俺のものだ。俺が手に入れたものは、全部、俺のものだ。
(誰にも、渡して、たまるかァァァッ……!!)
――どくん。
縛りつけられた右腕の中で、剣が脈打った。
三つの光は、もう、どこにもない。共鳴するものなど何もない。
それでも剣は脈打った。ミナトの心臓と同じ拍子で。腹の底で煮え滾る、どす黒い何かと同じ拍子で。
――光った。
青ではなかった。青の芯に、黒い炎が渦を巻いていた。
「――はにゃ?」
ニコの間の抜けた声。
巻きついていた緑の鞭が――ほどけた。
剣から溢れた光が鞭の糸に絡みつき、編み目をほどくように、一本一本するすると引き剥がしていく。ほどけた光の糸が、ばらばらと宙に散って消えた。
ミナトは立ち上がった。
足首を掴んでいたガラムの手が離れていた。ガラムが目を見開き、半歩後ずさる。
「……なんだ、今のは。神器が、神器を解いた……? そんな事象、聞いたことも――」
「嘘……」
ニコが、手の中の鞭の柄を見下ろしていた。
その顔から、初めて本当に笑みが消えていた。
「ウチの鞭が……あれ?」
ナティアが弓を構えた。だが、引き絞らなかった。
空色の瞳が、じっとミナトの顔を見つめていた。
「……おかしい。何よ、あの黒い光。継承の剣の光は、あんな色じゃない」
「……それに、だ」
ガラムが低く言った。
「リーフなら、今頃泥の中で泣いて命乞いしてる。追い詰められたら地べたに這いつくばって、靴でも舐めるやつだ。剣を握って俺たちに向かってくる度胸なんざ――」
ない、と、ガラムは言えなかった。
ミナトが、剣を構えていたからだ。
両手で柄を握りしめ、腰を引き、切っ先を小刻みに震わせて。
さっきまで勝手に動いていた身体は、なぜか、ぴくりともミナトを導こうとしなかった。
剣など握ったこともない男の、ひどく強張った構えだった。
「……なんだ、その構えは」
ガラムの太い眉が寄った。
「まるでド素人じゃねえか。ガキの頃から毎日毎日、同じ型を叩き込まれてきたやつが、そんな――」
「……あんた」
ナティアが、一歩前に出た。
「あんた――誰?」
「俺は……リーフなんかじゃ、ない……っ」
剣の光が、どくん、と膨れ上がった。
「俺は、ミナトだ……っ!! 足立区出身! 大和田湊だ!! 今はこの村の勇者様だ!! 俺は勇者になったんだ!!」
どくん。
「この身体は俺のものだ!! この剣も俺のものだ!! この村も、女たちも、サリヤも――全部、俺のものだったんだ!!」
どくん。どくん。
「それを、どいつもこいつも横から奪いやがって!! 俺のせいにしやがって!!」
――どくんっ。
剣が、燃え上がった。
ミナトが「俺の」と叫ぶたびに。腹の底の、どろどろとした、俺の、俺の、俺の、という声に応えるように。
青い芯に黒い炎を纏った光が、四つの光がひとつになったときよりも、さらに強く膨れ上がっていく。
「……ミナト……?」
ナティアが、聞いたことのない響きを確かめるように繰り返した。
「ちょ、ちょっと待って。ねえ、待って」
ニコが、ミナトのほうへ一歩踏み出した。
黒い瞳がまん丸に見開かれていた。困惑と、ほんの少しの――。
「ねえ、あんた、ほんとにリーフじゃないの……? それって、どういう――」
ミナトの腕が、動いた。
――ひゅっ。
草を鎌で刈るような、軽い音だった。
ニコの言葉が途切れた。
首から上が、短い黒髪ごと、くるくると宙を舞った。
大きな黒い瞳をまん丸に見開いたまま。唇を「どういう」の「う」の形にすぼめたまま。
首を失った小柄な身体が二歩、三歩とよろめき、断たれた付け根から血が噴水のように噴き上がる。左手から鞭の柄がぽとりと落ち、身体は膝から、くしゃりと泥濘に崩れた。
ぼとん、と頭が落ちた。
ころころと転がって、ナティアの足元で止まった。
――あっけなかった。
何十本もの触手に打たれても笑っていた娘が。
たった一振りで。何が起きたのかも分からない顔のまま。
ミナトは、剣を振り抜いた姿勢のまま立っていた。
(……あ)
剣が勝手に動いたのか。自分が振ったのか。
分からなかった。
分からなかったが――胸の奥で、すうっと、何かが軽くなった。
――俺を引きずっていこうとしたやつが、いなくなった。
「……ニコ?」
ナティアの唇から、かすれた声が漏れた。
「ニコ……え、ニコ……?」
足元の顔は、答えなかった。
ガラムが、立ち尽くしていた。岩のような巨体がぐらりと揺れ、大槌の柄を握る指が白くなるほど震えている。
ナティアの頬を、涙が伝い落ちた。
空色の瞳が、ゆっくりとミナトに向いた。
――怒りだった。涙に濡れた、灼けつくような怒り。
そしてその奥に、もう底というものがどこにもない、軽蔑があった。
「……リーフでも、そうでなくても」
震える指が、弓を引き絞る。
「あんたはクズよ。リーフと同じ」
黄色い光が、核を貫いたときよりもさらに眩しく凝縮されていく。
「――殺す」
ガラムが大槌を振りかぶった。鉄の頭が白に近い赤に灼けていた。
涙で歪んだ顔のまま、吠えた。
「殺してやるァァァァァッ!!」
***
黄色い光の矢と、赤い光の槌が、真正面から迫ってきた。
(――死にたくない)
思ったときには、腕が動いていた。
剣を横に倒し、頭上に掲げる。
光の矢と光の槌が、同時に、剣の腹に叩きつけられた。
黄色。赤。そして、青と黒。
四つの光がぶつかり合って――。
世界が、白く弾けた。
***
――白かった。
上も下も、何もなかった。炎も煙も血の泥濘も、音も匂いも熱も。
ミナトは、そこに立っていた。
足元を見下ろす。裸足ではなかった。すり減った黒い革靴。膝の抜けた灰色のスラックス。
皺だらけのワイシャツ。緩んだネクタイ。袖口にボールペンのインクの染み。ぽってりとたるんだ腹。
生白くて、指の節が太い……。
(……俺の、手だ)
大和田湊の手だった。
終電を逃した夜のオフィスで、ひとりきりでキーボードを叩き続けていた、あの手だった。
「……あの」
振り返ると、男が立っていた。
鋼のように引き締まった肉体。若く整った、美しい顔立ち。
この一年、毎朝、青銅鏡の中に見てきた顔だった。
だが、表情が違った。
男は背中を丸め、両手を腹の前でもじもじと揉み合わせていた。視線が落ち着きなく、ミナトの顔と足元を行ったり来たりしている。鋼の肉体を、借り物の服のように窮屈そうに縮こめて。
同じ顔なのに、まるで別人の――ひどく気弱そうな男だった。
「……ど、どうも」
男が、へらり、と媚びるような愛想笑いを浮かべた。
「あ、あの……リーフ、です。この身体の、本来の持ち主で」
不思議だった。
初めて会ったはずなのに、まるでそんな気がしない。
鏡で毎日見ていたからとか、そういう話ではない。
へらりとした愛想笑い。上目遣いに顔色を窺う目。揉み合わせる落ち着きのない手。
――知っている。
会社の給湯室で。駅のトイレの鏡の前で。毎朝、毎晩、見てきた。
(……俺、だ)
顔立ちは何ひとつ似ていないのに、その顔は、元の世界の大和田湊のものだった。
***
「……お前が、リーフか」
「は、はひっ」
声が裏返った。
「あいつらが言ってた。持ち逃げだの、裏切りだの」
「……え、えへ。いや、その……はは、ははは」
胸ぐらを掴もうとした瞬間。
「ひっ――ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
リーフは両腕で頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。
鋼の肉体を亀のように丸めて。
ミナトは、手を下ろした。
「……お前のせいで散々なことになってるんだぞ。村は化け物に潰されて、それが俺のせいだって言われて、知らない罪で王都に引きずっていかれそうになってて……」
「す、すみません、すみません……そうなんですね。俺、あなたが見た景色を全部は見れてないんで」
「あ――それで、一人、斬った。黒髪の、ちっこいのだ。にゃははって笑う」
リーフが、腕の隙間からそろりと顔を上げた。
「……ニコ、を?」
しばらく黙っていた。
それから、その唇の端が、ひくり、と吊り上がった。
ひどく小さな、ひどく醜い笑みだった。
「……そ、そっか。ニコ、死んだんだ。ざまあないや」
くつくつと、喉の奥で笑う。
「あいつ、ずっと俺のこと笑ってたんですよ~。訓練でへまするたびに、にゃははって。小便ちびったときも、にゃははって。……ナティアとガラムの前で、ずっと」
ぺろり、と乾いた唇を舐めた。
その目が、とろん、と濁った。
「でもね……あいつの水浴び、いつも覗いてたんです、俺。井戸の裏の、板の隙間から……えへ、えへへ」
リーフの手が、無意識のように自分の太腿をさすっていた。何度も、何度も。
「……結局、一回も触れなかったなぁ。もったいないなぁ。首、斬っちゃう前に、一回くらい……」
(……こいつ)
気持ちが悪い、と思うべきなのだろう。
だが、湧いてきたのは嫌悪ではなかった。
ミナトも見ていたのだ。燃える屋根の上で弓を引く、ナティアの背中を、脚を。
――同じだ。
「……サリヤってのが、いたんだ」
ぽつりと言った。
「俺の女だ。俺の子を産んだ女だ。ほかにも、村の若い女はみんな俺のものだった。毎晩とっかえひっかえ、俺の寝床に来てたんだ」
リーフの動きが、ぴたりと止まった。
「……み、みんな、ですか。な、何人くらい……」
「数えたことねえな」
ごくり、とリーフの喉が大きく鳴った。
「じ、自分から、来てくれたんですか。無理やり、とかじゃなく」
「自分からだ。勇者様、勇者様って、自分から寝床に来てな。旦那持ちの女まで、旦那のほうから頼みに来た。子どもができねえから抱いてやってくれって」
「だ、旦那の、ほうから……っ」
リーフの息が荒くなっていた。はっ、はっ、と犬のように。
頬が真っ赤に上気し、目が熱に浮かされたようにぎらぎらと潤んでいる。さっきまで頭を抱えて震えていた男とは、まるで別人だった。
「こ、子どもまで、できたんですか。その旦那持ちの女とも」
「ああ。翌朝、旦那が礼を言いに来た」
「う、わ……うわぁ……っ」
リーフは膝を両手で抱え込み、身体を前後に小刻みに揺すっていた。
口の端から、つう、と涎が一筋垂れた。
「……いいなぁ。いいなぁ、いいなぁ、いいなぁ……っ」
うわ言のように。
「俺なんか、ずっと、金で買うか、脅すか、どっちかだったのに」
膝を抱えたまま、ぼそぼそと続ける。
「逃げてから、ずっとそうでした。村に着いたら、まず女を数えるんです。若いのが何人。人妻が何人。乳飲み子を抱いてるのが何人。どの家に男がいないか。どの家の窓が低いか。……夜になったら、一軒ずつ」
ためらいのない声だった。
「だ、だって、神器があれば誰も逆らえないから」
それから、ふいに声が細くなった。
「……怖いんですよ、俺。追手も、ナティアも、ガラムも、魔骸も、全部……でも」
顔を上げたリーフの目が、また、とろりと濁っていた。
「――女を抱いてるときだけは、震えが止まるんです」
ぞっとするところなのだろう、ふつうなら。
だが、ミナトの胸に湧いてきたのは――分かる、という感覚だった。
誰も、くれないのだ。何も持っていない男には。
くれないなら――奪うしかないじゃないか。
ミナトは、カイルにしたことを思い出した。
崖の上で、あの誠実な、人のいい目が恐怖に歪んでいくのを見下ろしていたときの、胸のすくような感覚を。
「……お前も、苦労したんだな」
リーフが目を見開いた。
それから、くしゃり、と泣き笑いのように顔を歪めた。
「……は、初めて、言われました。そんなこと」
白い空間に、二人の男が並んで座っていた。
くたびれたワイシャツの、腹の出た男と。鋼の肉体を窮屈そうに縮こめた、気弱な男と。
「そ、それで、そのサリヤって子は……っ」
リーフが鼻息荒く身を乗り出した。
「村長の娘で、栗色の髪で……最初は指一本触れただけで真っ赤になってたくせに、子ども産んでから、胸がこう、一回り――」
「う、うわ、うわぁ……っ。そ、それで、それで……っ?」
「それと、アーシャってのが――あいつは旦那がいたんだけどな。まあ、いろいろあって、旦那がいなくなって」
「いろいろ」
「いろいろだ」
「……えへ。い、いろいろ、ですよね。分かります。俺も、いろいろ、ありました」
二人は顔を見合わせて笑った。
卑しく、後ろ暗く、それでいて、ひどく楽しそうに。
「……あ、あの。さっき、ナティアのこと、見ました……?」
リーフが、もじもじと指を揉み合わせた。
「見た」
「ど、どうでした。あいつ、また育ってました……?」
「いい女だった。脚が長くてな」
「で、でしょ……でしょぉ……っ」
リーフは両手で顔を覆って身をよじった。指の隙間から、濁った目が覗いていた。
元の世界で、こんなふうに誰かと笑い合ったことがあっただろうか。
ミナトは、思い出せなかった。
「……なあ。なんで俺なんだ。なんで俺が、お前の身体に入ったんだ」
リーフの笑みが、すうっと引いた。
「……その剣のせい、です」
自分の手のひらを見下ろす。
「継承の剣は、持ち主を生かすための剣なんです。持ち主の身体がどんなにぼろぼろになっても――たとえ一度死んでも。どんな手を使ってでも、その身体を生き長らえさせようとする」
「一度、死んでも……?」
「俺、あの日、死んだんです。あの化け物に胸を貫かれて。……追手から逃げて、逃げて、あの谷に辿り着いて。い、いい村だなぁって。若い女が多いなぁって。どの子から、って品定めしてたら……あいつが出てきて。……えへ。運、悪いですよね」
自嘲するように笑う。
「俺の魂は、もう身体に戻れないくらいちぎれちゃってて。だから剣が探したんです。俺の代わりを。――俺と同じ形の魂を」
「同じ、形……」
「世界のずっと向こう側まで探して、見つけたんです。ちょうど同じときに、死にかけてた魂を」
――思い出した。
午前三時のオフィス。誰もいないフロアに、ミナトのデスクのライトだけが点いていた。
締め切りの資料。終わらない修正。課長からの深夜のメール。
胸の奥がぎゅうっと締めつけられて、息ができなくなって、キーボードの上に突っ伏して――。
朝まで、誰も気づかなかった。
「……そうか。俺、あのとき死んだのか」
「た、たぶん。……ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ」
「……く、くせ、です」
リーフがへらりと笑い、ミナトもつられて笑った。
同じ笑い方だった。
***
白い空間が、揺らぎ始めていた。
リーフの輪郭がぼやけ、指先から、髪の先から、白い光の粒になってほどけていく。
「……おい」
「あ、もう時間みたいです」
リーフは、消えかけた自分の手をぼんやりと眺めた。
「俺の魂のちぎれたかけらが、身体の奥にずっと引っかかってたんです。だから、ときどき身体が勝手に動いたんですよ。剣を振るときとか」
あの日、黒獣を斬ったとき。ヘルガの炎の中で。触手を躱したとき。
「でも、もう残りかすもほとんどなくなっちゃいました。さっき、あの剣があなたの声に応えて、あんなに強く光ったから。……たぶん、俺の残りは全部、あなたのほうに流れていったんだと思います」
「……消えるのか、お前」
「……は、はい」
こくり、と頷いて、へらりと笑った。
「こ、怖いですけどね。ほんとは、すごく。……あーあ。最後に一回くらい、女の子をめちゃくちゃにしたかったなぁ……」
冗談ではなかった。その目は、本気で名残惜しそうだった。
「……でも、しょうがないです。だから」
消えかけた光の粒の手が、ミナトの手を握った。ひどく弱々しい力だった。
「これからも、俺の身体を頼みます」
気弱そうな顔だった。卑屈な顔だった。どうしようもないクズの顔だった。
――自分と、同じ顔だった。
「……俺たち、ずっと認めてもらえなかったじゃないですか」
「……ああ」
「だから――探しましょうよ」
リーフの目に、光が滲んでいた。
「俺たちを認めてくれる場所。俺たちが俺たちのままで、ちゃんと欲しいものを手に入れられる場所。女の子が、ゴミを見る目じゃなくて、ちゃんと笑って、自分から寄り添ってくれる場所。……あなたの村みたいな」
声が震えていた。
「あなたは一回見つけたんでしょう? だったら、きっとまた見つかります。どこかに、きっと、あるはずなんです」
ミナトは、その手を握り返した。
この身体の前の持ち主で、罪人。
それでも、元の世界でもこの世界でも、ミナトが出会った誰よりも――この男だけが、自分を分かってくれる気がした。
「……ああ。探そう。――俺たちの本当の居場所を」
リーフが笑った。
「よかった。……じゃあ、最後にひとつだけ」
もう半分以上が、光の粒になってほどけていた。
「俺のこと、全部あげます。俺の記憶。俺がどうやって育ったか。あの三人のこと。どうして逃げたのか。逃げたあと、何をしてきたか。……全部」
手のひらから、光がミナトの中に流れ込んできた。
「知っといてください。きっと役に立ちます」
――視界が、白く塗り潰されていく。
その向こうから、何かが押し寄せてきた。
知らない景色。知らない匂い。知らない声。
寒い屋根裏。痩せた子どもたち。四つの、光る武器。
そして――。
金色の髪を高い位置で一本に結った、まだ幼い少女の笑顔。
「――リーフ! 見て見て、あたし、弓、光ったよ!」
ミナトの意識は、リーフの記憶の奥底へと沈んでいった。




