8.触れていいとは言いましたけど!
ネーヴェの毛並みは最高でした。
ふわふわでサラサラでもふもふ。
語彙力が残念なのは大目に見てください。なにしろ私はこれまで動物に触れたことがないのです。
だから、この触り心地をなんと表現して良いのかが分からないのです。
ネーヴェはというと、何かに耐えるようにじっと目を瞑って、私に撫でられるがままになっています。
私はまず顎を撫で上げ、尖ったお耳を揉みました。
ひとしきりお耳の感触を楽しんだあとは何度も何度も背中を撫でました。
調子に乗って、指先で、手のひらでその毛並みを堪能しました。
それから、膝に乗っていたネーヴェの前足に両手をかけて抱き上げました。
『うわっ』
ネーヴェが驚いて声を上げます。
パタパタと後ろ足を動かす姿が、これまたなんと表現してよいのか……可愛らしくて堪りませんっっ!
私は思わず、抱き上げたままのネーヴェのお腹に唇を寄せました。
狼といっても、小さな子犬のような姿なのでひたすら可愛いのです。
ネーヴェからはお日様の匂いがしました。
ふわふわのお腹に鼻を埋めて思う存分嗅ぎまくります。
私はネーヴェの可愛らしいお腹に何度も何度もキスをしました。
お腹に寄せた唇からネーヴェの体温が直に伝わってきて、それがまたとても心地よく感じられます。
『ちょっ、待って、アミィ。そんなことされたら、さすがにヤバいから!』
ネーヴェが狼狽える様子がおかしくて、でも可愛くて。
彼を胸に抱きしめると、ボフっと背中からベッドに転がりました。
仰向けになって、私の胸の上にネーヴェを乗せている状態です。
『あーっ、もう、これは僕のせいじゃないからね、アミィが悪いんだよ』
突然、ネーヴェがそう言ったかと思うと、彼の身体が白く光りだしました。
すると、
ひと回り?
ふた回り?
いや、どんどん大きくなって、気がついたら私よりも大きくなっていました。
大きな白銀の狼が今、仰向けに寝転んだ私に跨って、私を見下ろしています。
――ペロン
と、まず舐められたのはなぜか耳たぶで――
ひゃっ!
ゾワッとして鳥肌が立ちました。
思わず身を捩ったら、前足でガッと肩を押さえつけられました。
『ダメだよ、アミィ。あれだけ僕に触りまくったんだから今度は僕の番だよ。ほら、さっき好きなだけ触れていいって言ったよね?』
こっ、声が!!
声がさっきまでと全然違います!
低くて甘い、大人の男の人の声です!
たしかに、さっき小さくて可愛いお顔の狼にそんなことを言ったような気がします。
でも、これでは話が違います!
大きくなったネーヴェが、その鼻先を私の首すじに近づけて、スンスンと匂いを嗅いできます。
「んんっ」
くすぐったくて、思わず声が出ました。
途端に、先程の自分の行動がこんなに恥ずかしいことだったのだと気がついて頬が熱くなりました。
『アミィ、すごくいい匂いだね』
蕩けるような声でそう言うと、今度は私の首すじをペロンと舐めました。
「ひゃっ!!」
狼にのしかかられて首すじを舐められる。
きっと、傍からみれば恐ろしい絵面でしょう。
でも、大型犬とじゃれる飼い主の姿に見えなくもない?
などと一瞬、思考が現実逃避してしまいました。
いや、そんなことを考えている間にも、大きくなったネーヴェは私の夜着の胸元に鼻先を突っこんできます。
「あ、やだっ、ちょっと、ネーヴェ?」
私は彼を止めようともがきますが、何かのスイッチが入ってしまったのか、ネーヴェは退いてくれません。
両手で彼の前足を退けようと押しているのですが、太い前足はびくともしません。
夜着の合わせ目に鼻先を差し込まれ、ネーヴェの吐息が素肌に触れました。
「んっ……!」
自分の口から飛び出した聞いたこともない甘い声に、恥ずかしくなって両手で顔を覆いました。
――コンコン
そこへノックの音が聞こえました。
本邸から、メイドか誰かが朝食の支度に来てくれたのかもしれません。
助かりました!
「どうぞ!」
私は、気が逸れたネーヴェをなんとか押しのけて、扉の向こうの救世主に入ってくるよう返事をしました。




