2.開かれた扉と前世の記憶
『こういう歌も厳かでいいわねぇ・・・』
私は頭の中で、その誰かに語りかけました。
(あの、ちょっといいかしら?)
『え?』
(私はこの身体の持ち主ですけれど、あなたはどなた?)
『え? えっ?! ちょっと、待って、えっ?!』
その誰かは、ひどく混乱しているようでした。
でも――
『あなた、もしかしてアマーリエなの? 私、どれだけあなたに伝えたかったか!
あのね、私は美歌っていうの。ああ、もう苗字は思い出せないけど、私の記憶、あなたに全部あげるから、ね? これからはいっぱい……いっぱい、歌ってね……私……歌、だい……すき……』
美歌の声はだんだん小さくなっていき、やがて何も聞こえなくなりました。
不思議なことですが、私、途中で彼女の正体に気づいてしまいました。
美歌は――かつての私。
見えていた景色は、前世を生きた彼女の記憶なのでしょう?
そう理解した途端、美歌の記憶は今を生きる私のものとなりました。
◇
さて、私がすっかり落ち着きを取り戻した頃、神父様の声が聞こえてきました。
「では最後に、誓いのキスを」
あらまあ、大変です!
いつのまにか、結婚式も終わりに近づいていたのです。
旦那様となる侯爵様が、私のベールをめくり上げました。
初めて、お互いの顔を見つめ合うこと数秒――。
その深い緑色の瞳が一瞬見開かれたのは、決して私が美人だからではありません。
きっと、この瞳の色に驚かれたのだと思います。
もしくは髪色でしょうか。どちらもこの国では珍しい色ですからね……。
でもすぐに無表情に戻った侯爵様は、私の額に申し訳程度に口付けると、さっとベールを下ろしてしまいました。
誓いのキスだというのに唇を避けたのは、侯爵様の優しさでしょうか?
なにはともあれ。
私の頭の中では、前世の自分と一つになるという、なんともドラマティックな出来事があったわけですが、そんなことは誰にも気づかれておりませんよ。
私は無事に結婚式を終えることができました!
晴れて私は、ロンバルディ侯爵夫人となったのです。
愛と歌にあふれた新婚生活。
きっと、そんな毎日が待っているはずです――




