21.そのころネーヴェは……
(ネーヴェ視点)
北方の森は、思っていた以上に荒れていた。枯れた木々が朽ち、その隙間に枝や蔓草が複雑に絡み合っている。
人の手が入らず、陽の光も届かない。
まあ、手つかずの自然だと思えば、別に問題はないんだけどね。
ただ、僕がこうして呼ばれたのは、この森から息吹が感じられなくなったからなんだけど……。
愛し子であったアミィのお母さんが生まれ育ったこの国は、十年ほど前にとうとう滅んでしまった。
内乱だったっけ?
ここは寒さの厳しい土地ではあったけれど、広大な針葉樹の森が広がっていて、精霊の数も多かった。
だから、精霊の血を引く子供が生まれることも多かったんだ。
その中にはもちろん、銀色の髪を持つ愛し子もいた。
愛し子は女神アウローラ様の加護を受けて、歌うことで周囲を豊かにしていくからね。
この国の人々は愛し子を大切にしてきたし、寒冷地でも育つ作物を植え、たくましく暮らしていたはずなんだよ。
アミィのお母さんの身に、一体何が起きたのか……。
それはまた今度、この辺りに暮らしていたバムスに確認してみようか。
でも、この国は何年続いたんだっけ?
百年か、二百年か……。
人間は、瞬きの間にいなくなってしまうからね。
アミィに出逢えた奇跡に、ちゃんと感謝しないと……。
僕は今、針葉樹の森を見渡せる小高い丘に立っている。
満月の光を浴びて、身体中に力が漲っていた。
霊力を練り上げ、目の前に広がる森をすべて包み込む。
そして、僕は願った。
『この森にもう一度、力強い息吹を』
白銀の光が、僕の身体から放たれる。
さあっと風が吹き抜け、木々を大きく揺らしていく。
風が通り過ぎたあと、目の前の景色は一見、何も変わっていないように見えた。
けれど、よく見れば違いがわかるかな。針葉樹の緑が、ほんの少しだけ明るくなったんだ。
あ、ほら。新しい息吹に引かれて、早速精霊たちが集まってきたね。
もちろん、動物たちだって喜んでくれている。
ああ、アミィ。早く会いたいな……。
顔を見て、抱きしめて、一緒に眠りたいよ。
それから珊瑚色の唇にキスをして、あの柔らかな胸に顔を埋めたいし、なんだったら夜着を脱がせて、身体じゅうを舐め――
ああーっ!!
駄目だ、これ以上はまずいから!
僕の見た目は、まだ十歳そこそこ。
子供の姿でそんなことをしちゃ駄目だし、アミィと番える大人の姿になるまで、まだ二週間ほどかかるんだよ。
あ、でも、あと二週間か……。
アミィ、僕がいなくて寂しがっているかな?
泣いていないかなぁ?
ああ、早くアミィと番いたい。
あの美しい顔を羞恥に染めたい。
あの白い肌に、赤い花を咲かせたい。
アミィの中に――
って、やっぱり駄目だな、満月は……。
力が有り余って、ちっとも疲れないし。
このままアミィのところへ戻ったら、今度こそ我慢できなくなって、アミィを困らせてしまうかもしれない。
そうだ。
もう少しほかの森も回って、力を使ってから帰ろう!
少しくらい遅くなったほうが、アミィも僕のことを気にかけてくれるかもしれないし?
アミィ、早く僕のことを好きになってくれないかなぁ……。




