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白銀の王と歌姫のお話~アマーリエは恋がしたい~  作者: コトリちゃん


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20/24

18.ぽっかり空いた場所

 いつものように裏庭で昼食をいただき、今しがた歌も歌い終えたところです。


 しーん……。


 今日もよいお天気です。

 澄み渡る青空を映して、目の前に広がる湖は、いつにもまして碧く見えます。


「アマーリエ様、お茶をお入れいたしますね」


 ビビが私を気遣うように、優しく声をかけてくれました。

 けれど、私の胸にはぽっかりと穴が空いたようで、そこを風が通り抜けていくみたいに、どうにもスースーして仕方ありません。


「ねえ、ネーヴェはいつ戻るの?」

「そうですね。三、四日はかかるかと存じます」


 私の目の前に、よい香りの紅茶と、アーモンドののったタルトが置かれました。


「ネーヴェは、アーモンドが好きよね……」


 タルトを小さく切り分け、ひと口食べてみます。

 いつもなら、私が食べているのを見て、狼姿のネーヴェが隣で「あーん」と可愛らしく口を開け、自分にもくれとねだるのですが……。


 はぁ……。


 思わずこぼれたため息に、ビビがくすりと笑いました。

 それから、少し迷うように視線をさまよわせたあと、こんなことを尋ねてきます。


「アマーリエ様は、その……もう、ネーヴェ様を好いておられますか?」

「ええ、もちろん!」


 私は即答しました。


 好きよ。大好き。

 だって、可愛いもの。


 ビビはなぜか少し残念そうに「そうでございますか」と答えると、まるで幼子を見るような目で私を見つめて笑いました。


 私、何かおかしなことを言ったかしら……。


「北方の森へ行ったのよね?」


 今朝、ビビから聞いたのです。

 ネーヴェは急遽、大陸の北部に広がる針葉樹の森へ向かったのだと。

 それから、もうひとつ。


「今日が満月なの?」

「いいえ、明日でございます。アマーリエ様のお誕生日が、ちょうど新月でしたから」


 なるほど。

 あれから、もう二週間ほど過ぎたのですね。


「ネーヴェ様たち狼の種族は、満月の前後になると霊力が漲りすぎてしまうのです。それが、アマーリエ様のおそばを離れた理由でもございます」

「霊力が漲ると、どうして私のそばを離れなくてはいけないの?」

「それは……」


 ビビはわずかに言葉を詰まらせました。


「ネーヴェ様がお戻りになったら、ご本人に直接お尋ねくださいませ」


 まあ。

 教えてはくれないのですね。

 私はビビが入れてくれた紅茶をひと口含み、こくんと飲み込みました。

 いつもなら、気持ちのよいふわふわを撫でている左手が、今日は何もない隣の椅子の上をさまよっています。


 はぁ……。


 人間、一度贅沢を覚えてしまうといけませんね。

 あんなに長い間、一人でやってきたのです。

 たった数日、ネーヴェがいないからといって、私ったら……。


 私がアーモンドのタルトをフォークで意味もなく粉々にしていると、来客に応対するため、ビビが屋敷の中へ入っていきました。

 しばらくして戻ってきたビビは、少し困った顔をしています。


「あの……本邸の家令が、こちらを」


 ビビが差し出したのは、差出人として侯爵様のお名前が記された封筒でした。


 何かしら?

 あまりよい予感はしません。


 私はビビからペーパーナイフを受け取り、封を切って、中から一枚のカードを取り出しました。

 それは侯爵様から届いた、本邸での晩餐への招待状でした。


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