18.ぽっかり空いた場所
いつものように裏庭で昼食をいただき、今しがた歌も歌い終えたところです。
しーん……。
今日もよいお天気です。
澄み渡る青空を映して、目の前に広がる湖は、いつにもまして碧く見えます。
「アマーリエ様、お茶をお入れいたしますね」
ビビが私を気遣うように、優しく声をかけてくれました。
けれど、私の胸にはぽっかりと穴が空いたようで、そこを風が通り抜けていくみたいに、どうにもスースーして仕方ありません。
「ねえ、ネーヴェはいつ戻るの?」
「そうですね。三、四日はかかるかと存じます」
私の目の前に、よい香りの紅茶と、アーモンドののったタルトが置かれました。
「ネーヴェは、アーモンドが好きよね……」
タルトを小さく切り分け、ひと口食べてみます。
いつもなら、私が食べているのを見て、狼姿のネーヴェが隣で「あーん」と可愛らしく口を開け、自分にもくれとねだるのですが……。
はぁ……。
思わずこぼれたため息に、ビビがくすりと笑いました。
それから、少し迷うように視線をさまよわせたあと、こんなことを尋ねてきます。
「アマーリエ様は、その……もう、ネーヴェ様を好いておられますか?」
「ええ、もちろん!」
私は即答しました。
好きよ。大好き。
だって、可愛いもの。
ビビはなぜか少し残念そうに「そうでございますか」と答えると、まるで幼子を見るような目で私を見つめて笑いました。
私、何かおかしなことを言ったかしら……。
「北方の森へ行ったのよね?」
今朝、ビビから聞いたのです。
ネーヴェは急遽、大陸の北部に広がる針葉樹の森へ向かったのだと。
それから、もうひとつ。
「今日が満月なの?」
「いいえ、明日でございます。アマーリエ様のお誕生日が、ちょうど新月でしたから」
なるほど。
あれから、もう二週間ほど過ぎたのですね。
「ネーヴェ様たち狼の種族は、満月の前後になると霊力が漲りすぎてしまうのです。それが、アマーリエ様のおそばを離れた理由でもございます」
「霊力が漲ると、どうして私のそばを離れなくてはいけないの?」
「それは……」
ビビはわずかに言葉を詰まらせました。
「ネーヴェ様がお戻りになったら、ご本人に直接お尋ねくださいませ」
まあ。
教えてはくれないのですね。
私はビビが入れてくれた紅茶をひと口含み、こくんと飲み込みました。
いつもなら、気持ちのよいふわふわを撫でている左手が、今日は何もない隣の椅子の上をさまよっています。
はぁ……。
人間、一度贅沢を覚えてしまうといけませんね。
あんなに長い間、一人でやってきたのです。
たった数日、ネーヴェがいないからといって、私ったら……。
私がアーモンドのタルトをフォークで意味もなく粉々にしていると、来客に応対するため、ビビが屋敷の中へ入っていきました。
しばらくして戻ってきたビビは、少し困った顔をしています。
「あの……本邸の家令が、こちらを」
ビビが差し出したのは、差出人として侯爵様のお名前が記された封筒でした。
何かしら?
あまりよい予感はしません。
私はビビからペーパーナイフを受け取り、封を切って、中から一枚のカードを取り出しました。
それは侯爵様から届いた、本邸での晩餐への招待状でした。




