12.ちっちゃくてかわいい
うららかな昼下がり、場所はいつもの裏庭です。
目の前には、青空を映した大きな湖が広がっていますし、景色がいいのでつい長居してしまうのです。
今日もここでビビの用意してくれた美味しいお昼ご飯をネーヴェと一緒に頂きました。
この素敵な別邸に住んで五日目になりますが、ネーヴェはたしかに少しずつ成長しているようです。
今は、五、六歳くらいの姿だそうですが、背丈はまだ背丈は私の腰ほどしかありません。
ぎゅっと抱きついて私を見上げる時の可愛らしさと言ったら……。
まぁ、今はお昼ですから狼の姿ですけれど。
これはこれでモフモフがたまりません。
私が隣に行儀よく座っているネーヴェの頭を撫でると、つぶらな金色の瞳がこちらを見上げました。
『ねえ、昨日の夜に歌ってくれた曲も良かったね』
「朧月夜?」
『うん。なんか独特のメロディーだった』
たしかに……。
あれは美歌の国の古い言葉で歌ったのです。この国にはない、けれどどこか懐かしい、しみじみとした旋律でした。
昨日の夜は霞のかかったムーディなお月様でしたからね、美歌の記憶から迷わずあの歌を選んだのです。
昨夜の情景を思い出すと、今でもうっとりしてしまいます。
菜の花も、蛙も、私にはわかりません。けれど、月夜に見られる情景の美しさには共感できますからね。
昨日の夜といえば、その後、私は可愛いネーヴェのお願いをきいて一緒にお風呂に入ったのですよ。
最初は恥ずかしくて迷ったのですが、ビビがアドバイスをしてくれて、私は身体にバスタオルを巻いて入りました。
ネーヴェは最初、とても嬉しそうでした。
でも、身体を洗ってあげながら私が言ったひとことが、ネーヴェの心を傷つけてしまったようなのです。
その……ネーヴェのお股についている、男の子特有のアレですが。
私はその時、人生で初めてそれを目にしたのです。
可愛らしいネーヴェについているのですもの。アレだって私、心から愛くるしいと思いました。
だから言ったのですよ?
「ちっちゃくて可愛いわね」
って。
そしたら――
それまでキラキラと眩い笑顔を見せてくれていたネーヴェのお顔から、スゥッと光が消えてしまいました。
「……ネーヴェ?」
私は心配になって名前を呼んだのです。
けれど返事はありません。しばらく俯いていたかと思うと、ネーヴェは急に顔を上げてこう言ったのです。
「大人になったら覚えてて?」
って。
その時、ちょっと涙目だったのが気になっています。
私は世間知らずですから、きっと男の子のプライドに触れてしまったのですね……。
『アミィ、もうその話はやめて』
あら、考えが筒抜けに……。
危うく、またネーヴェを傷つけてしまうところでした。
「ごめんなさい、ネーヴェ」
『いや、謝るのもやめて。誤解は必ず解いてみせるから、番える日を楽しみにしていてね』
ネーヴェは今、狼の姿をしているので表情まではわかりません。
番える日というのは、ひと月後を指すようです。
正確にはあと二十五日なのですが……。
そういえば私、一応は侯爵様と結婚しているのですが、ネーヴェの番になることでなにか問題が生じたりしないのでしょうか?
ちらりとネーヴェを見ましたら、
『関係ないよ。アミィは僕のお嫁さんになるってずっと前から決まってたんだから。人間が勝手に決めた紙切れの約束事なんて知らない』
ですって。
まぁ、どうせ実の伴わない結婚です。
できるなら、私はこのままずっと可愛いネーヴェと暮らしていきたいです。
『ずっと可愛いままじゃいられないよ?』
少し成長しましたが、まだまだ小さな狼のネーヴェが、ツンと澄ましてそんなことを言っています。
ふふふ……。
ああ、幸せです。
さあ、今日は何の歌を歌いましょうか。




