第20章 陽丘病院
患者さんの急変というのは、よくある話だ。
そして、それは朝方によく起きる。
特に循環器系の疾患を抱えている患者は、目覚めが近づくにつれ、交感神経が活発化することで、血流量が増大し、循環器系に負担が掛かるのだ。
五味綿造さん。41歳。午前5時10分、急変。
蘇生措置を行うが、5時30分、死亡確認。
遺族への連絡は、全く付かないようだ。
元々、独り身。
しかも、ご親族との関係性が極端に悪かったらしい。
ただ、経営している店の関係者が窓口になって貰えるので、入院費や手術費、遺体の引き取りなどは問題ないようだ。
連絡を取ってみたら、即座に対応して貰えるようで、病院としては安心できる。
遠くの親族より、近くの友人の方がよほど、いざという時の頼りになるものだな。
~ ・ ~
午前9時。
お店のアルバイト先の男性が来院される。
患者さんの急変、死亡をお伝えすると。
その場で意識を失われた。
大丈夫、ここは病院。
看護婦たちが、待合室の患者さんを鎮めつつ、対応する。
大丈夫、精神的なもののようです。
あ、ちょうど、関係者が病院内におられるのですね。
空いてる入院室がありましたね。とりあえず、そこに寝かせましょう。
ストレッチャー、まだですか?
来ましたね。ハイ、一、ニの三!
~ ・ ~
遺体安置所の警備。
薄暗く、壁の向こうは御遺体が安置してある。
警察関係からの要請もあるし、いたずら目的、単なる興味本位もあれば。
恨みつらみで遺体の損壊を図るような輩もいるらしいので、病院関係者の守備範囲として、ここを守っている。
まあ、御遺体の搬送が終われば、お役御免だし、空の時はいなくてもいいんだけどな。
仕事自体は、慣れれば何という事もないんだけど。
悲しみに暮れる遺族を見る事だけは、どうにも慣れない。
自分の無力さを、思い知らされている気になるんでね。
「彼は身内だ。会わせてやって欲しい」
物言いの丁寧なサラリーマン。この人は知ってる。
もう物言わぬ遺体と化した故人の入院中、何度か訪れて来てる。
法律関係者らしく、遺言や相続の関係諸類を持ち込んでいたな。
入院室の清掃中、そんなものを目にしたのを覚えている。
中で、何か話している声がする。
と、騒ぎ始めたな。
大丈夫か、しっかりしろ!
覗いてみると。
今朝、待合室で意識を失ったとか聞いた張本人だと思う。
また、倒れたのか。
起こしても、起きないのか。
またかよ…
~ ・ ~
「この間、二回も気絶していたあの若い男の人、知ってる?」
「ええ、覚えてるわよ」
「あそこのラーメン屋さんの親父さんが亡くなって、その後を継ぐことになったんだって」
「ああ、入院して3日目で亡くなった人の?」
「そうそう」
「ふーん」
病院関係者にとって、死は身近なもの。
でも、今、自分たちはこうして生きていて、患者たちと向き合っている。
「明日、開店なんだって。ちょうど、非番でしょ?」
「何よ、付き合えっていうの?」
「女一人でラーメン屋さんって、入りづらいのよ」
「……しょうがないわね。じゃあ、ラーメン代はそっちのおごりなのね?」
「えー! 美味しいラーメン屋かどうかなんて、分かりもしないのに?」
「なによ、マズければ奢らなくてもいいって訳?」
「そういうことじゃないんだけど。しょうがないなぁ、付き合ってあげますか」
「よろしく!」
(終わり)




