第3章 れんげちゃん親衛隊
某野球部員の会話。
「なあ、みたか、あれ?」
「見た見た」
「なに、アレ?」
「店員さん、可愛いよなぁ」
「俺、メッチャ好み」
「お前の好みは顔より胸の方だろ」
「ウルセェよ」
「いや、分かる、分かるぞ」
「でもな、顔も実は好みっていうか、宗旨替えするわ」
「お姉さん、だよな」
「お姉さん、だな」
「俺、あんなお姉さんに、おもてなしされてぇ」
「いいな」
「いいよな」
「行くか」
「行く!」
「お供します、キャプテン!」
~ ・ ~
某土木作業員たちの会話。
「主任、あれ、見ました?」
「見たねぇ」
「いやぁ、可愛い娘でしたね」
「だよなぁ。最初、目を疑ったもんな」
「なんだよ君たち。そんな見え透いた手に、安々と乗ってしまうのかい?」
「いやまあ、そうなんですけど」
「あの容姿なら、乗ってみるのも悪くはないかな、とは」
「甘い話だとしても、一度は触れてみたいですよね」
「触れたらダメだろ。手が後ろに回るぞ」
「固い、固いなぁ、主任」
「綺麗な女の子との会話は、全野郎どもの夢、夢なんですよ!」
「そんなにリキまなくても」
「いやぁ、力みますって」
「だよなぁ」
「まあ、確かに、気になるよな」
「行きますか」
「行きましょう!」
「よし、みんなで行ってみるか」
~ ・ ~
某イーグル宅配センターにて。
「あそこのラーメン屋、お前の担当区域だよな」
「あ、はい」
「この間の非番の時に通りかかったんだが、なんかキレイな女の子が、ホワイトボードを掲げていたんだよな」
「ああ、知ってます。所長もご覧になられたんですか」
「うん。最近になって、あそこへの荷物、急に増えだしたよな」
「はい、そうなんですよ」
「あそこのラーメンって、旨いのか?」
「いや、俺は食べた事ないんで、分かんないですけど」
「そうか、だよな。いや、呼び止めて悪かった」
「はい」
そうは答えたワタナベだが。
実は彼も、気になって仕方がなかった。
彼女とは、もう何度も会話を交わしている。
本当に重い荷物しか注文が来ないのだが「いつもありがとうございます」「重かったでしょう? お水、いかがですか?」なんて、素敵な笑顔で声を掛けてくれる女の子。
はっきり言って、一目ぼれである。
ラーメンが劇的に旨いのも、知っている。
本当に、本当に旨かった。
食べた事ないだなんて、嘘をつきたくなる位である。(ひどいヤツである)
しかし、もう少し、もう少しだけ、彼女を独占していたい。
自分だけが知っている、特別な娘であって欲しいのである。
だが、そんな夢のような時間は、間もなく終わるらしい。
ホワイトボードを掲げて、宣伝だなんて。
なんて一生懸命で。
なんて愚か者なんだ。
だって君の可愛さが、美しさが、ステキさが、世の中に出回ってしまうじゃないですか!
ワタナベは、ため息を吐いた。
いや、これからが本番、本番なのだ。
俺という行動力抜群で頼れる兄貴のような存在が、君に恋しているのだという事をなんとか分かって貰いたい。
幸いなことに、担当配送先というアドバンテージを、俺は持っているんだ。
しかも、俺の実家は元ラーメン屋。ノウハウを知り尽くしているんで、彼女との会話に困ることはない。
よし、何としても彼女を口説き落とす、落として見せる、見せてやるぞ!
ワタナベは、人知れず、闘志を燃やすのであった。
~ ・ ~
某作業員たち。
「なに、あのラーメン」
「メチャクチャ、旨かったなぁ」
「いや、以前に食べた時とは、比べ物にならなかったね」
「主任、前にあの店に行った事、あるんですか?」
「うん、まあ、何度かね」
「なんだ、そうならそうだと言って下さいよ」
「いや、以前の味は、他人様にお勧めできるものではなかったからね」
「そうなんですか? あんなに旨かったのに」
「ああ。ただ、以前の味のベース自体は、変わって無かったね」
「味のベース?」
「うん。私は独自に“アイのあるラーメン”と呼んでいるんだが」
「なんですか?」
「いや、若い人は分からなくてもイイんだよ」
「そうなんですか? ラーメンなんか、旨ければそれでいいじゃありませんか」
「まあ、そうなんだけどね。私の他にアレが分かるのは…そうだな、一人、常連がいたな」
「へえ、常連が付くような店だったんですね」
「あ、さっき、店の中でなんか話していた、若い男の事ですか?」
「ああ、そうだね。彼は多分、分かると思うね。そして、あの店に急にやって来た、彼女もきっと、アイのあるラーメンの事が分かるんだろうね」
「…なんですか、それ?」
「あはは、分からなくてもイイんだよ。でもなあ、あのラーメンが、まさか、こんなに旨かっただなんて、なぁ…」
「ひどいなぁ、主任。ちゃんと説明して下さいよ」
「そうですよ、自分だけ分かった振りなんかしちゃって」
「はは、スマンスマン。ちょっと説明しにくいんだよな、これって」
「そうなんですか?」
「まあ、あの店に通えば、君たちも分かるかもしれないね」
「そりゃもう、通いますよ!」
「安いし、速いし、なんたって旨い! しかも可愛い彼女が元気に接客してくれて、威勢のいい店主が出迎えてくれる。そりゃ、通うに決まってるでしょ!」
「だよなぁ。でも、並ぶことになりそうだなぁ」
「ですよね。でも、並ぶ価値ありですよ」
「仕事に影響が出そうだな」
「そこは、主任の差配で何とかして下さいよ」
「お願いします!」
「まあ、客の回転は速そうだからな…何とかしてみよう」
(終わり)




