姫様、屋台を改革します。
ヴィオラの他に、屋台の責任者たちが勢ぞろいしたのち、
「姫様。本日はよろしくお願いいたします」
「じゃあ、まず何を売る予定なの?」
「毒キノコ焼き」
「毒キノコ串」
「毒キノコ汁」
「毒キノコパン」
「毒キノコ飴」
「まじで毒キノコしかないじゃない!」
「そう言われましても毒キノコしか採れない村ですので」
私は思わず立ち上がった。
「だからって全部毒キノコにしなくてもいいじゃない。今だって食材はホルンなりテナーなり取り寄せているでしょ」
「トランペット村の祭りとして地産地消を目指しておりますが、実は他にもございます」
「あるの!?」
「毒キノコの盛り合わせです」
「増えたようで増えてない!」
「もちろん、毒は完全に抜いておりますし、食中毒には十分注意しております」
「ネーミングが毒されてるのよ!」
私が頭を抱えていると、オカリナが大きなホワイトボードを室内へ運び込んできた。
「ありがとう。じゃあ、今日は屋台の基本から教えるわ」
私はペンを取り、一つずつ書き込んでいく。
『食べ歩きしやすい』
『いい匂いで人を呼ぶ』
『子どもでも買える値段』
『調理が早い』
『また食べたいと思わせる』
「こんなところかしら?」
屋台の責任者たちは、一斉に腕を組んだ。
「なるほど……」
するとオカリナが私に聞いてきた。
「つまり、毒キノコ料理は祭りに向いていないということでしょうか?」
「ダメよ」
「他所から来た人間どもを根絶やしにするチャンスではありませんか?」
「根絶やしにしてどうするのよ!」
「じゃあ何をする場所なのです?」
「人を笑顔にして、『また来たい』って思ってもらう場所よ」
オカリナは真剣な表情で頷いた。
「……なるほど」
一拍置いてから、力強く言い切る。
「餌付けですね?」
「違うわ!」
私は言うと、リィナが入ってきた。
「オカリナもまだまだじゃのう」
「女神のくせに姫様の考えがわかると言うのか?」
「当然じゃ。慈愛の女神じゃからな」
「ならば言ってみろ」
「祭りという名のぼったくり商売をして金稼ぎじゃ」
「慈愛とは?」
私は相変わらずのリィナにあきれると、
「ミナエよ。食べ物はお主らに任せて妾には飲み物を任せよ」
「何を売るつもりなの?」
「最近開発された水100%じゃ」
「果汁100%に謝りなさいよ」
「他にアルコール100%の飲み物も考えとる」
「死んじゃうわよ」
「大丈夫じゃ。これはお酒ですというラベルをきちんと貼るからのう」
「アルコールすぎるわよ」
「姫様。飲み物については後ほど検討するとして、まず主力商品を決めませんか?」
七海が軌道修正してくれる。
「そうね。まずは、焼きそば、たこ焼き、わたあめあたり?」
「チュロス、フランクフルト、焼き鳥などもよろしいかと」
七海が付け加える。
「そうね。その辺が定番かしら」
屋台の責任者たちが一斉に首を傾げた。
「ヤキソバ?」
「タコヤキ?」
「ワタアメ?」
「チュロス?」
「フランクフルト?」
「……そうか。こっちにはないのね」
考えてみれば当然だ。
この世界で祭りの屋台なんて、ほとんど見たことがない。
「姫様。タコ焼きというのは、タコを焼けばよろしいのでしょうか?」
「まあ、間違ってはいないけど」
「では丸ごと一匹焼きます」
「豪快すぎるわよ!」
「焼きそばというのは?」
「麺を野菜や肉と一緒に炒めるの」
「毒キノコも?」
「入れなくていい!」
「わたあめとは?」
「砂糖を綿みたいにするのよ」
責任者たちがざわつく。
「砂糖を……綿に?」
「姫様がまた訳のわからないことを言い始めたぞ」
「聞こえてるわよ!」
するとヴィオラが手を挙げた。
「姫様。一つよろしいでしょうか?」
「なに?」
「せっかくトランペット村で祭りをするのですから、村の名物も一つくらい残したいです」
それも一理ある。
全部よそから持ってきた料理では、トランペット村で祭りをする意味が薄くなる。
「そうね。毒キノコ料理も一つくらいなら残していいわ」
「本当ですか!」
屋台の責任者たちの表情が一斉に明るくなる。
「ただし!」
私はホワイトボードに大きく書いた。
『毒キノコという名前を使わない』
「なぜですか!?」
「当たり前でしょ! 祭りに来て『毒キノコ焼き』なんて書いてあったら、誰が買うのよ!」
「美味しいのに……」
ヴィオラが残念そうに呟く。
「味の問題じゃないの。名前の問題よ」
「では、『死なない毒キノコ焼き』では?」
「もっと怖くなったわよ!」
「安全な毒キノコ串」
「毒って言葉から離れなさい!」
「元・毒キノコ」
「前科みたいになってる!」
「姫様」
オカリナが手を挙げる。
「『人間も安心! 生存率99.9%キノコ』はいかがでしょう?」
「残りの0.1%はどうなるのよ!」
「誤差です」
「命を誤差にするんじゃない!」
頭が痛くなってきた。
「もう普通に『森のキノコ焼き』でいいじゃない」
室内が静まり返る。
「…………」
「何よ?」
「姫様」
ヴィオラが申し訳なさそうに口を開いた。
「それでは毒キノコだと伝わりません」
「伝えなくていいのよ!」
どうしてこの村の住民は、そこまで毒キノコを前面に押し出したがるのだろう。
七海が淡々とホワイトボードに書き加える。
『森のキノコ焼き』
「では、これをトランペット村の名物として試作しましょう」
「決まりね」
ようやく一品決まった。
長かった。
ただキノコを焼くだけなのに。
「では姫様」
ヴィオラが満面の笑みを浮かべる。
「隠し味に毒キノコを――」
「元から毒キノコでしょうが!」




