姫様、海の男祭りを開催します。
「姫様。子爵が兵を集める募集をしたそうです」
スキル『風の噂』を使ったウインドが、緊張した面持ちで報告する。
「姫様。子爵領を燃やし尽くしましょうか?」
フレアが嬉しそうに手を挙げる。
「いえ、水攻めにしましょうか?」
アクアも負けじと前へ出る。
「なら私は地割れを」
「風で吹き飛ばしましょう」
四天王たちが次々と物騒な案を口にする。
私は深いため息をついた。
「あんたたちさ、戦争になると思ってるの?」
「「「え?」」」
一方、ボエ子爵の館。
「子爵様。兵が集まりません」
執事の報告に、ボエ子爵は机を叩いた。
「何故だ!?」
「皆、オーボ港の方が待遇が良いと言っております」
「ならば給金を倍にしろ!」
「できません。借金の返済がございます」
「ならば無理やり徴兵しろ!」
執事は静かに首を横へ振った。
「それも難しいかと」
「何故だ!」
「徴兵すべき若者の大半が、すでに姫様のしもべとして雇われております」
「……なんだと?」
「住宅付き。最低賃金保証。成果報酬あり。休日あり」
執事は指を折りながら続ける。
「子爵領へ戻る理由がないそうです」
ボエ子爵の顔から血の気が引いていった。
「それに民がオーボ港に行ってしまったため、税収が減り借金の支払いができません」
「ぐぬぬ......」
「もはや戦争どころではありませんな......」
「兵はいない! 金もない! どうしろというのだ!」
「こうなったら王に泣き寝入りするしかございませんな......」
オーボ港、姫様の館にて。
「姫様。子爵が国王の元に行った模様です」
スキル『風の噂』を使ったウインドが報告をしてくる。
「好きにさせれば?」
私は紅茶を飲みながら答える。
「もし国王が軍を差し向けてきたら?」
フレアが聞いてきたので、
「目的はこの港街のインフラでしょ? 手荒なことはしないはずよ」
私はそう言って紅茶を一口飲む。
「かといって、好き放題させるのもどうかと思いますが」
「その時はその時。まずは今日の仕事を片付けましょ」
私はそう言って書類に目を通したのであった。
子爵の直訴を受けた王城では、悪魔姫への対応が連日議論されていた。
悪魔姫が攻めてきて軍を起こすなら話は簡単だが、悪魔姫がオーボ国よりも善政を敷いたから話がややこしいのだ。
軍を起こせば、今度はこちらが侵略者として見られてしまう。
かといって、放置すれば本来自国の領民は悪魔姫のもとへ流れ続ける。
毎日のように移住者は増え、「国に残るより悪魔姫に仕えた方が豊かになれる」という噂は、王国中へ広がっていたのだった。
国王は重々しく息を吐く。
「……悪魔姫が持つ文明は、我らでは真似できぬ」
宰相が険しい表情で口を開く。
「今は港だけで満足していても、発展を続ければ次は土地を求めるやもしれません」
「詰んでいるではないか」
会議室に重い沈黙が流れる。
やがて宰相が、おそるおそる口を開いた。
「……これは提案ですが、今のうちに国を差し出すのはいかがでしょうか?」
「なんだと!? せめて同盟ではないのか?」
「悪魔姫と手を結んだと知れれば、王家の威信は失われます」
「何も知らぬから好き放題言えるのだ!」
宰相は肩を落とした。
「……いっそ好き放題暴れてくれた方が、ずっとマシでしたね」
「……悪魔姫に使者を送れ」
「は?」
「これ以上遅れれば、交渉する余地すらなくなる」
王城は、誰も予想しなかった決断へと動き始めていた。
オーボ港、姫様の館。
「姫様。海の男祭りをご存知ですか?」
アクアがそんなことを聞いてきた。
「祭りかぁ」
私は天井を見上げる。
そういえば祭りなんかしばらく行ってないなと考え込む。
「どんな祭りなの? 名前からして、豊漁を祈るついでに鍛えた男たちがぶつかり合う祭りって感じだけど」
「いいえ。屈強な男たちが上半身裸でステージに立ちます」
「相撲?」
「いいえ。筋肉を披露しながら決めポーズを取ります」
「ボディービル大会じゃない!」
「ちなみに優勝賞品は、この地方でしか獲れない希少魚『メダカ』です」
「筋肉の頂点を決める大会の賞品がメダカなの!?」
「家庭で唯一飼育できる魚として重宝されているみたいです」
「筋肉と観賞魚の関連性が一ミリも分からないんだけど!」
「祭りの開催を許可してよろしいですか?」
「楽しみを無下にする理由はないわね」
「では明日やります」
港中へ鐘が鳴り響く。
「海の男祭り開催決定ーっ!」
「準備が早すぎるでしょ!」
こうしてオーボ港にて、海の男祭りが開催された。
「えー、何が楽しいかわからないけど、楽しんで」
いきなり開催のスピーチを頼まれたので適当に話をしたのだが、
「姫様が我々を楽しむようおっしゃられている!」
と、勘違いされて拍手喝采が起きてしまった。
VIP席で観戦を!と言われて仕方なく座らされ、ステージ上には日頃鍛え上げている漁師たちが集まってくる。
「何人ステージにあがるのよ?」
歯止めがきかない状況に隣に座っている七海に聞くと、
「ざっと百人です」
「予選会しなさいよ!」
「やりましたよ?」
「やってこの数?」
「ポセイドン様が落選しました。見た目が海の男にふさわしくないとのことです」
「あの人、海王よね?」
ある意味悲しい事実を聞かされながらも大会ははじまる。
所狭しと男たちが観客に肉体美をアピールする中、七海が話しかけてきた。
「姫様。国王の使者が来ましたが、スケジュールが空いていませんので、ここで謁見してよろしいですか?」
「どう考えてもおかしいでしょ」
「では出場者としてステージに立つよう伝えておきます」
「参加させてどうするのよ」




