姫様、港を買います。
オーボ港にある冒険者ギルド。
「呪われし歌姫の謎を解くだけでなく解決までしちまうなんてな」
セイレーン島での出来事を報告すると、ギルドマスターは驚いていた。
「あの島に行ったらカラオケボックスがあるわよ。ストレス発散に行ってみるのもありよ」
前回より一回り大きい革袋が机に置かれる。
今度こそ金貨に違いない。
後から聞いた話だが、あのセイレーンは神話級の精霊だったらしい。
そのセイレーンの治める島を平和的に発展させたのだ。
「じゃあ、約束通り報酬の銅貨千枚だ!」
「ちょっと待ちなさいよ。あれだけのことをしたのよ? 金貨千枚の間違いじゃないの?」
「謎を解くまでが任務だ。それから先はおまえさんが勝手にやったことだ」
「それってサービス残業扱いじゃない!」
「だが喜べ。冒険者ランクをDに格上げだ」
「神話級の精霊相手でも飛び級はないのね」
異世界でもサービス残業からは逃げられないらしい。
スターフィールドでは成功報酬だけでなく、特別成果報酬をつけるよう提案しよう。
「で、あれだ。オーボ港にも付けてくれんか?」
「何をよ?」
「ゴブリンの村には当たり前にある水洗トイレだ。あれは素晴らしい」
「かまわないけど、ゴブリンはあなたがたの敵でしょ? なんで知ってるのよ」
「それがだな......」
ギルドマスターが同行している聖香を見る。
聖香はコホン、と咳払いをして、
「姫様たちがセイレーン島に行っている間、私はゴブリン村からあの不動産屋に通勤してました」
「歩くだけで片道一時間よ?」
「水洗トイレはゴブリン村にしかありませんので仕方がありません」
「通勤時間より質の良い住居を選んだわけです」
「駅近物件みたいに言うわね」
「みんなが不思議がるので、ゴブリン村へ連れて行って試してもらいました」
「そうしたら噂が一気に港中へ広まってしまってな……」
どうやら聖香が連れて行ったのはギルドマスターらしい。
そりゃ、討伐対象の村にトイレを借りに行くのは並大抵の勇気じゃできないだろう。
「これを見てください」
聖香は書類を見せてくる。
ゴブリン村の周辺の土地の権利書。
銅貨一枚同然の値段で買えたらしい。
「土地を買ったの?」
「はい。ゴブリン村の周りの土地なんか価値がなかったのに今は爆上がりです。おかげで働かなくても食べていけそうです」
「あなた、聖女よね?」
「大丈夫です。不動産バブルが弾ける前に売り切りますから!」
「不動産屋に染まりすぎでしょ!」
「そのうち土地を売ってくれという方が現れるでしょう」
「もう帰りたいんだけど」
「ですが問題がございます」
「何よ?」
「その値段交渉ですが、私が値段を釣り上げるのは聖女としてはいかがなものかと」
「じゃあ買値で売りなさいよ」
「それも嫌なので姫様が交渉して、悪魔的に値を釣り上げてください」
「悪魔姫の使い方を間違えないで」
そんなやりとりをしていたら恰幅のいい中年男性が現れた。
「子爵様だ」
ギルドマスターが紹介をしてくれる。
「マスター。この娘たちか? ゴブリン村の周りの土地の所有者は」
「はい。冒険者ランクDになったミナエさんと、聖女であられる聖香さんです」
ランクDと聞いてボエ子爵は鼻で笑った。
「そうか。俺はボエ子爵だ。早速だがゴブリン村の周りの土地を買わせていただきたい」
「買ってどうするのよ」
「その後村からゴブリンを追い出し、大きな街を作る」
「ゴブリンを追い出したらトイレのメンテナンスをしてくれる人材がいなくなるわよ?」
「ならばゴブリンを奴隷として迎えよう」
それを聞いて、私は絶望の波動をどうにか抑える。
「土地は金貨一万枚でいいわよ」
「一万枚だと!?」
「ゴブリン村の発展を考えると安いくらいよ」
「しかし......」
「嫌ならセイレーンに売るわ」
ハッタリをかましてみる。
「......わかった。借金してでも買おう」
こうして取引が成立した。
翌日、私たちの前に金貨一万枚が届いた。
「姫様。良かったのですか?」
聖香が聞いてくると、私はその金貨をギルドマスターの前に置いては、務めていた不動産屋の店長を呼び出した。
「もう、私が何者かはわかってるわよね?」
絶望の波動は隠さない。
「はい。古の悪魔姫様であられることは十分承知でございますが、それ以前に優秀なセールスレディでございます」
「このお金でこのあたりの土地を買えるだけ買うわ」
「一万枚あればかなり広い土地を買えますが」
「入居してない不動産も全部買いあげる。あなたは今後は私の下で働きなさい」
「かしこまりました」
店長が深く頭を下げる。
私はゆっくりと視線をギルドマスターへ向けた。
「あなたも今後は私の下で働きなさい」
「……それ、断ったらどうなる?」
私は微笑んだ。
「さあ?」
その黄金の瞳は、一切の感情を映していなかった。




