姫様、世界を震撼させています。
通称ラスボス島を支配する古の悪魔姫。
彼女が歌姫の島を征服した――。
そんな噂は冒険者ギルドを通じて世界中へ広がり、人々を震撼させていた。
「セイレーンといえば神話級の精霊だぞ?」
「悪魔姫はあのセイレーンを屈服させたというのか?」
世界の王たちは再び緊急会議をし、今後の対策を練ることにした。
「オーボ港の民もすでに悪魔姫に心酔しております」
「一滴の血も流さず支配下に置くとは……」
「歴代魔王でも成し得なかったことだぞ!」
「ですが、調査した結果わかったことがあります」
若き王は言うと配下があるものをテーブルに置いた。
「住民によると、これは水洗トイレというものだそうです」
「……これは便所なのか?」
「はい」
「なぜ便所を持ち帰った?」
「これは本物ではありません。取り外しができないためレプリカを作成し、お持ちしました」
「で、この便所がどうかしたのか?」
「落ちついてお聞き下さい。この水洗トイレは、排泄物を水の力で流します。実に衛生的です。しかも座るところがあります」
「それは確かに楽だが」
「さらに驚くことがございまして、この便座という部分ですが──」
「うむ」
「実物は、ほんのり温かいのです」
「……なに?」
「冬でも冷たくありません」
会議室が静まり返る。
「……悪魔姫は、民の尻まで支配したというのか」
「この水洗トイレに民は感動し、悪魔姫に心酔しているのです」
「生活改善で民に慕われる発想はなかった」
項垂れる国王たちだが、
「これを自分の国で生産すればいいのでは?」
「無理です」
「なぜだ?」
「構造が複雑すぎます。解析班は三日で全員匙を投げました」
「何か手はないのか? このままではこの水洗トイレを知った者たちが悪魔姫を慕おうとするぞ!?」
「......手はございます。悪魔姫は現在、セイレーン島からオーボ港に寄ってから帰還しようとしております。つまり、本拠地にはいません」
「だからどうしたのだ?」
「本拠地には慈愛の女神が代わりに国を治めていると聞いております」
「悪魔姫の代わりが慈愛の女神とは、世も末だな」
「ですが、慈愛の女神は金に目がなく意地汚く、前科があるそうです」
「慈愛とは?」
「ここは賄賂を送り、女神から水洗トイレの仕組みを聞き出しませんか?」
「女神に賄賂って、この世界大丈夫か?」
「問題は、賄賂の相場が分からないことです。賄賂を送ったことあります?」
この質問に国王たちは真面目な顔をして答えた。
「ない」
「ならば、彼に任せるしかありませんね」
スターフィールド、ミナエモン城(仮)
「妾は何故玉座ではなく、藁の上に座らされているのじゃ?」
リィナは不満そうに言うと、
「女神が姫様の椅子に座れるわけないだろう。おとなしく仕事をするフリをしろ」
オカリナはみかん箱に大量の書類を置く。
「ミナエの代わりという前に、神に対しての扱いが雑じゃないかのう?」
「七海から『何もさせるな』と厳命されている」
「妾、神なのに悲しみ」
リィナはいじけると、使用人がやって来た。
「リィナ様。エチゴヤと名乗る男が賄賂を渡したいと申しております」
「賄賂とはなんじゃ?」
リィナはオカリナを見ると、
「最近はいろんな文化が入って来ているからな」
「オカリナよ。お主も立ち会え。後で文句を言われたくない」
「ふむ。それならこうしようではないか」
「入るが良い」
しばらくしてリィナが言うとエチゴヤは入るなりギョッとした。
慈愛の女神の左右には幹部、魔王軍、役人、使用人たちがずらりと並び、部屋は人で埋め尽くされていた。
「妾たちだけでは不安でな。呼べるだけ呼んだのじゃ」
「さあ、エチゴヤよ。賄賂をよこせ」
堂々と言うオカリナに、千尋が顔をしかめる。
「え、賄賂?」
オカリナが聞く。
「千尋、賄賂を知っているのか?」
「もらったらダメなやつよ」
「ダメと言われたら欲しくなるのう。見るだけじゃダメかのう?」
「そうだな。中身を確認するだけなら姫様も怒るまい」
オカリナが背中から巨鎌を抜いて、
「賄賂を見せろ」
「ひぃっ! こちらにございます!」
小さな箱を差し出してきた。
「菓子ではないか」
「なるほど。最近の菓子は変わった名前なのじゃ」
すると千尋が、
「お菓子の下をめくってごらん」
言われた通りリィナが下敷きをめくると、
千尋は思わず叫んだ。
「やっす!」
「これは立派な贈賄ですわ」
いつの間にかルールーが現れた。
「つまり、この方はリィナさんを買収しにきたんですよ」
「妾を銅貨一枚じゃと?」
「高く評価されていますわね」
オカリナは鎌の先をエチゴヤに突きつけて、
「理由を言え」
「王に水洗トイレの作り方を聞いてこいと言われて」
「そんなことか。工場で働けばわかるぞ」
「え? 国家機密では?」
「姫様が行く先で毎回水洗トイレがないとうるさいからな。世界中に技術を広めてほしいと従業員に勧めてるくらいだぞ」
「そういえばゴブ太郎が故郷に広めたって言っていたのう」
「そうだったな。しかし、条件がある。|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》に登録しないといけないな」
再び場所は世界会議。
「エチゴヤが寝返りました」
「なんてことだ......」
「また一人悪魔姫に寝返ったか……」




