姫様、呪われし歌姫を救います。
営業終了後。
「姫様、本日の売り上げです」
マスターが帳簿を抱えて事務所へ入ると、
ソファで昼寝……いや、夕寝をしていた私がゆっくりと目を覚ました。
「……ん、お客さん帰った?」
「はい。本日の売り上げです」
「原材料費、ランニングコスト、人件費を除いても上々の利益ね」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、マスターの取り分はこんだけね」
「いつも思いますが、姫様の取り分が少なすぎませんか?」
「私は寝ているだけだもの。それよりも2号店の計画を相談しない?」
「ハイ。酒を交わしながら」
私たちは高らかに笑うと、フレアが現れた。
「姫様。セイレーンがお越しです」
「呪われた歌姫だっけ?」
「ハイ。夜になると歌えなくなるという、よくわからない島の統治者でもあります」
「ふむ」
私は考える。
呪いを解ければ、セイレーンは勝手に夜歌い出すのできっと騒音問題で民からの評判は下がるだろう。
となると、次の統治者は......。
「姫様。ここは他の大陸です。スターフィールドではございません。変な野心は持たぬよう......」
「経済を支配したらスターフィールドに恩恵をもたらすと思っただけよ」
「それにしても、水洗トイレなどを島中に広めない理由はなんですか?」
「私のために作ったからに決まってるじゃない」
「せめて喫茶店のためにと嘘でもいいから......」
「この島で唯一、水洗トイレ、美味しい料理、素敵な音楽を独占してるから、こんな生活ができてるのよ?」
「姫様.....」
「独占禁止法がない世界って素晴らしいわね」
「姫様、その発想は悪役そのものです」
「悪魔姫だから問題ないわ」
「というか用がないなら帰りませんか?」
「帰ったら働かないといけないじゃない!」
私は文句をぶつけると、
「お呼びいただけないので、自分から参りました!」
待ちきれなかったであろうセイレーンが事務室に押しかけて来たのであった。
「不法侵入じゃない!」
「何ですかそれ!」
「この島に法律を作ることを要求するわ!」
「先ほど『独占禁止法』とかいう物騒な言葉が聞こえましたが……?」
「というか、何の用よ?」
「この喫茶店だけ文明が違うことに文句を言いに来たんです!」
「トイレが汚いんだから仕方ないじゃない!」
「島中をこうしてください!」
「嫌よ。トイレが汚かったから、自分のために作っただけだもの」
「善良な喫茶店の店長を騙したんですね!」
「その店長も今は金の亡者よ! あっ!」
「.....どうされました?」
「2号店を作るから文明が広がるわよ。感謝してよね」
「そうやって支配領域を広げるつもりなんですね!」
「文明を広めてほしいのか、嫌なのかどっちなのよ?」
「文明だけ置いて帰ってください!」
「じゃあ文明ごと持って帰るわ!」
私とセイレーンがにらみ合っていると、
「姫様。我々が来た目的は呪われし歌姫の謎を解くことでは?」
フレアが諭してきた。
「夜歌えないとかいうくだらない呪いでしたって報告して終わりよ?」
「でしたら、その”くだらない呪い”を解いてから帰りましょう」
「解く方法を調べなきゃいけないわね」
「それなら解明しております」
「えっ?」
「姫様が毎日昼寝をしている間に調査を終えました」
「他にやることなかったの?」
私は頭を抱えると、セイレーンがフレアにくいついた。
「呪いを解く方法を教えて下さい!」
「聖女の清き光を浴びると呪いが解けます」
「聖女ってどこにいるんですか?」
「オーボ港? もしかしたらもうスターフィールドに帰ってるかも?」
一ヶ月以上滞在したので、聖香の居場所が曖昧だ。
「オーボ港なら比較的近いですね。行きましょう!」
「行くくらいなら呼び出した方が早いですよ。ただし、お金が必要です」
「どれくらい?」
「姫様......」
フレアが困った顔をして私を見る。
「島の領有権をくれるなら呼んであげるわ」
「なんですって!?」
「そうしたら島に別荘作れるし、なんなら文明を広げてもいいわ」
「そんなひどい……乗っ取る気満々じゃないですか!」
「七海も呼ぶわ。|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》の支所を作れば、治安も安心よ?」
「折角ここまで頑張ってきたのに!」
「あなたは何がしたいの? 統治じゃなくて好きなだけ歌いたいんじゃないの?」
「でも、夜歌ったから迷惑をかけて呪いをかけられたんですよ?」
セイレーンは不安そうな表情で尋ねる。
私は肩をすくめた。
「だったら、歌う場所を変えればいいじゃない」
「……はい?」
きょとんとするセイレーン。
私は満面の笑みで宣言した。
「二号店はカラオケボックスで決まりよ」
「か、からおけ……ぼっくす?」
「完全防音の部屋で好きなだけ歌えばいいの。外には一切聞こえないわ」
「そんな建物があるんですか!?」
「作ればいいじゃない」
私は当然のように言い放つ。
「歌いたい人は歌える。聴きたい人だけがお金を払って聴く。誰にも迷惑をかけない。これで解決よ」
セイレーンはぽかんと口を開けたまま固まっていた。
「そんな方法……考えたこともありませんでした」
「問題を解決する方法なんて、一つじゃないのよ」
私は立ち上がり、大きく背伸びをする。
「よし、聖香を呼びましょう」
そう言って私は絶望の波動を放った。
しばらくして聖香と七海が影から現れた。
事情を説明すると、聖香は静かに頷いた。
「それでは、浄化いたします」
柔らかな光がセイレーンを包み込む。
夜を縛り続けていた呪いは音もなく砕け散り、光が静かに消えた。
セイレーンは恐る恐る口を開く。
「……あ」
小さく歌声を響かせる。
今まで夜になると決して出せなかった、美しい歌声だった。
「歌える……!」
瞳いっぱいに涙を浮かべながら、セイレーンは夜空へ向かって歌い始める。
その歌声はどこまでも優しく、どこまでも澄み切っていた。
こうしてセイレーンの呪いは解けた。
その後、|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》の支所が設立され、二号店として完全防音のカラオケボックスもオープンした。
昼は島の統治。
仕事が終われば、毎晩カラオケボックスへ直行。
採点機能が評判となり、今ではセイレーンの歌声は、この島一番の人気となっている。
「ドリンクバーが海水一番搾りしかないって、なんとかならないの?」
帰り際、私は店員に文句を言った。
「申し訳ございません。種類が増えるのは、もう少し先になりそうです」
「早くコーラが飲みたいわ……」
そんなことをぼやきながら、私は新しく完成した二号店を後にした。
私は七海と聖香に言う。
「帰ろうか、スターフィールドに」
四天王たちは私に言う。
「土産はいいのですか?」
「海水一番搾り?」
「ただの海水ですよ?」




