PV3,000記念 女神様、美味しそうなキノコを見つけます。
「慈愛の女神リィナよ。どうか私たち二神の祝福を!」
知らぬ男たちが、妾に向かって必死に拝んでおる。
「うむ。金か食べ物を供えれば、祝福などいくらでも授けてやろう」
妾がそう言うと、男たちは一斉に激怒した。
「神のくせに金や食べ物を要求するとは!」
「そう言われても、妾も食っていかなければ身がもたぬのでな」
至極もっともなことを言ったつもりなのだが、どうも人間というものは、神は無償で祝福を与えるのが当然だと思っておるらしい。
実に嘆かわしい。
神と魔の争いが収束して六百年。
人間は好き勝手に生き始めていた。
王たちは己の豊かさだけを求めて民に重税を課し、そのせいで飢える人間が増え、神にすがる者ばかりになってしまった。
……まあ、人間から金や食べ物を恵んでもらおうという考えは、諦めた方がよさそうじゃな。
妾は腹の虫を鳴かせながら、祝福を与えることなく空へ飛び立った。
さて、これからどうしたものか。
人間から食い物を恵んでもらえる可能性が最も高い国――
聖法国ホルン。
神に最も近いと呼ばれた聖女が、魔族を抑え込むため昼夜祈り続け、結界を維持している国じゃ。
その結果、魔族の力は衰え、今では絶滅危惧種とまで呼ばれておる。
「聖香よ。飯をくれ」
妾が聖堂へ降り立つと、
「ご遠慮致します」
即答された。
「何故じゃ?」
「私は年中無休で祈り続けております。しかし、リィナ様は遊び回っているだけです」
「妾も慈愛の加護を与えて回っておる。じゃが、人間どもは礼の一つも寄越さぬのじゃ」
「加護の対価を要求する神を、慈愛の女神とは呼びません」
「慈愛にも運営費が必要なのじゃ!」
「運営費、ですか?」
聖香は祈る手を止め、淡々と話し始めた。
「リィナ様から加護を授かった直後、道端で銅貨一枚を拾った青年がおりました」
「妾の加護のおかげじゃな」
「しかし落とし主を探さず、そのまま懐へ入れたため、ネコババの罪で聖騎士団に捕らえられたそうです」
「ふむ」
「青年はリィナ様への謝礼として、一年かけて貯めた全財産を納めたそうですね」
「金貨十枚じゃったな」
「割に合わないと苦情が来ております」
「……それ、妾のせいなのか?」
「あと、聖堂の前で『愛』や『勇気』と書いた謎のお守りを売るのはやめていただけませんか?」
「あれは立派な副業じゃ」
「ご利益はあるのですか?」
「気持ちの問題じゃ」
「つまり?」
「あるわけないじゃろう」
「神が神殿の前で詐欺を働かないでください」
「聖堂の前が一番売れ行きがいいのじゃから仕方がないのぅ」
「だから苦情が私のところへ来るのです。ただでさえ、無駄に祈っていることがストレスでしかないんです」
「聖女が祈ることに無駄を感じたら駄目じゃろう」
「私が感じている魔族の数をご存知ですか? 二人ですよ?」
「ほう」
「南の森で野宿しながら妄想にふけこんでいる小娘と、コンダクタ皇国で発明の助手をしている変わり者の二人です」
「危険要素がないのう」
「そんな状況なのです。これ以上、私の仕事を増やさないでください!」
聖香が珍しく声を荒らげた、その時だった。
「なんじゃ、この闇の波動は!」
リィナは南の空を見上げる。
「南の森から?」
「ただの魔族ではないぞ。伝説級の魔族が誕生した感じじゃ」
「もしかして……古の悪魔姫!?」
「よかったのう。祈る相手が一人増えたぞ。妾はグッズの生産に励まなければ!」
「何を馬鹿なことを! 慈愛の女神ならば確認くらいしに行ってください!」
「え。妾はまず飯が食いたいのじゃが」
「森に行けば、何か生えてます!」
「あそこ、毒キノコしか生えてないはずじゃが」
「とにかく、私は祈らなければなりません! リィナ様は悪魔姫の討伐をお願いします!」
「妾でなんとかなるのかのぅ?」
聖香は再び祈り始め、こちらを見ようともしない。
本来ならば、悪魔姫が相手ならば創造神や破壊神と協力しなければならないはずだ。
だが、創造神は腰が痛いと家から千年も天界から出ないし、破壊神はどこにいるかわからない。
とりあえず様子を見にいくだけでも。
そうしたら聖香も食事くらい出してくれるだろうと南の森に飛んで行くことにした。
「さて、悪魔姫は近くにおるはずじゃが」
森につくと、警戒はするがそれ以上に、
「美味そうじゃのう」
道端に生えているキノコが気になって仕方がなかったのだった。
次に意識を取り戻した時、妾は湖に放り投げられておった。
これが、妾とミナエとの最悪で最高の出会いの始まりじゃった。




