姫様、帰る手段を模索します。
「さて、今日の三人分の給料と生活費を差し引くと金貨一枚です」
夜、ワンルームの家にてスターフィールドに帰るための話し合いが行われた。
「来月にはインセンティブが入るから、期待していいと思うわよ」
「私も除霊士という専門職の知名度が上がってコスパが良い仕事が増えて来たと思いますよ」
私と聖香の仕事は順調だった。
「大型船の運賃を貯めるにはまだ日数がかかりそうですね。一日銅貨一枚の働きしか貢献できない私には文句を言う資格はございません......足を引っ張り申し訳ございません」
こちらでは法律事務所以外働いたことがなく、この社会では適応力がなさすぎる七海がうまくいっていないみたいだ。
まあ、これも人生の学びだろう。
私と聖香は何も言わなかった。
「ところでスターフィールドって今誰が統治してるの?」
話題を変えると、聖香が思い出したかのように言った。
「リィナ様です」
「一番やらせたらダメな人じゃない! スターフィールドで唯一の前科者よ?」
「肩書きは慈愛の女神様ですので」
「肩書きで国を治めたら滅びるって前世で習わなかったの?」
「姫様がこんなにも不在になられるとは予想しませんでしたので、誰でもいいんじゃないかってなりました」
そう言われて私は頭を悩ませる。
「もうこれを機に裕美子様に言ってスマホを開発してもらいません?」
七海は言うが、
「それだけはダメよ。延々と私のスマホが鳴りっぱなしになるに決まってるんだから」
実はスマホの話は以前から出ていたのだが、私が拒否し続けている。
スマホの登場はスローライフの終焉を意味するからだ。
「せめて船だけでもあればウインドの風の力で移動はできると思うけど、漂流しちゃうわよね」
「船は用意できますよ?」
「え?」
「この地を治める神様がいるそうなんです」
「ふーん」
「何でも作れるらしいですよ」
「早く言いなさいよ! 話を聞いてる限り、船なんか簡単に作れそうじゃない」
私が今までは何だったんだと言わんばかりに言ったのだが聖香は、
「ただ、名前がハリボテの神なんですよね.....」
「確かに嫌な予感しかしないわ」
こうして結局、明日も働くことになり私は寝ることにした。
翌日。
「ミナエさん、聞きました?」
職場に行くと部下になったアキナが話しかけてくる。
当然何のことかわからないでいると、
「ラスボス島にいる古の悪魔姫を討伐するために、この街にも冒険者ギルドが作られるそうです」
「へぇ」
私は思わず笑ってしまった。
「その悪魔姫なら、私なんだけどね」
……もちろん口には出さない。
もし冒険者として参加できれば、タダでスターフィールドへ帰れるかもしれない。
「その冒険者ギルドはどこにあるの?」
「街の中心部に作られましたが、もしかして登録するんですか?」
「そうよ」
「なら、私も登録します!」
「不動産屋の受付嬢が魔王討伐する気なの?」
「受付なら受付らしく、受付します!」
「その前に、七海と聖香を連れてこないとね」
冒険者ギルド。新設されたことにより腕に自信がありそうな者でごった返していた。
「受付甲斐がありそうですね」
「気が狂うの間違いじゃないの?」
待ちに待ってようやく私たちの番になる。
「星野美苗。召喚士よ」
「新屋敷聖香。除霊士です」
「天音七海。八百屋のアルバイトです」
私たちは冒険者登録をすると、ギルドマスターが顰めっ面をして、
「二人はともかく、八百屋のアルバイトが冒険者になれるわけないだろう?」
「接客、商品管理、在庫管理、金銭管理、早朝勤務の経験があります。それに私は、野菜を切ることができます!」
「野菜でなく魔物を斬れ!」
「食品衛生法には勉強して詳しいのですが……」
「冒険者に必要か? それ」
ギルドマスターが首を傾げると、
「あの、私も登録したいんですが」
ギルドマスターはしばらく紙を見つめ、
「一応聞く。」
「何で魔王討伐に行こうと思った?」
「受付なら受付らしく受付したいんです!」
「意味が分からん」
「笑顔には自信があります!」
「魔物は笑顔じゃ倒せん」
「ベルも鳴らせます!」
「宿屋へ行け」
「ならば魔族領にも宿が必要になります。冒険者が戦闘職である必要はありません」
ギルドマスターは腕を組んだ。
「……確かに後方支援は必要だが」
アキナはすかさず一歩前へ出る。
「受付、案内、依頼の整理、会計、笑顔の接客。全部できます!」
「全部受付じゃねぇか」
そして私はギルドマスターに言った。
「この子、意外と仕事はできるわよ」
「戦えるのか?」
「戦えない」
「ダメじゃねぇか!」
それでもなんとか冒険者登録を済ませた私たちは壁に貼り付けてある、討伐依頼を見ることにした。
『古の悪魔姫。討伐金貨百万枚』
それを見て私は七海に小声で言う。
「ずいぶんふっかけたわね」
「伝説上の存在ですからね」
「オカリナだって金貨十万枚よ?」
「さすが悪魔大元帥ですね」
「リィナ、銅貨一枚なんだけど?」
「慈愛の女神様の扱いとは思えませんね」
「本人が知ったら泣くわよ」




