姫様、家を探します。
オーボ港から少し離れた宿にて。
「さて、これからどうするか考えないと」
私は財布から有り金を出す。
「銀貨三枚でよく旅行に行こうと思いましたね」
「足りなかったら誰かに持って来てもらうつもりだったのよ」
「私も金貨二十枚程度です」
「ラスボス島に帰るには?」
「まず誰も魔族の支配する国なんかに行きたがりませんし、大型船となると金貨二百枚は必要かと思います」
「稼ぐ方法を考えないといけないわね」
「問題は姫様です。悪魔姫を雇う物好きがいるかどうかですが」
「私、悪魔姫なのに雇われる側なの!?」
「神様だってうちで働いていたじゃないですか」
「履歴書に前職悪魔姫って書くの? 退職理由は一身上の都合により?」
「現職でしょう。それよりも姫様は資格とかあります? できれば国家資格がいいのですが」
「日商簿記と情報処理しかないわ」
「私も法学部時代に取得した資格くらいですね」
「この世界で役に立つの?」
「役に立つかどうかはともかく、履歴書の空欄は埋まります」
「そもそもこの世界に履歴書の概念があるの?」
「私としたことが、盲点でした」
「私は毒耐性や麻痺耐性があるけど、七海は人間だからなぁ」
「明日からサバイバル前提の生活を考えるのはおやめ下さい。私、アウトドア苦手なんですから」
翌日。私たちは漁村からの情報を頼りに小さな町へと向かった。
「ここなら仕事があるでしょう!」
私は期待を胸に膨らませると、七海は掲示板に貼られた求人票を一枚ずつ確認し、小さくため息をついた。
「姫様。介護か運送が大半です。まぁ、選ばなかったら仕事はありますが」
「どこの日本よ」
「ちなみに、姫様はどんな仕事がしたいです?」
「働きたくないんだけど」
「私の話、聞いてました?」
「ゲーム配信とか?」
「多分時代先取りしすぎです。とりあえず私は運送会社で事務員を募集していないか聞いてみます」
「じゃあ私は安く借りられる物件を探してみるわ」
こうして七海と別れた後、不動産屋を巡ってみることにした。
「お客様。もしよろしければ格安の物件がございます」
「水洗トイレは?」
「なんですか? それ?」
「生活必需品じゃない!」
私は絶望を覚えると身体から闇の波動が溢れ出す。
「ひぃぃっ!」
受付嬢は腰を抜かしたが、闇の波動は渦を巻き、一つの人影を形作っていく。
どうやら、スターフィールドから呼び寄せることはできなくても、この大陸で新たに召喚することは可能らしい。
そして闇はグラビアアイドルみたいな女性へと姿を変える。
「アタシが風の四天王ウインドよ!」
「水洗トイレと関係ないの来たわね」
「姫様。アタシは風の四天王。固有スキル『風の噂』がございます!」
「何の役に立つのよ?」
「街の噂話が風に乗って耳へ届きます!」
「じゃあ、この街で私にできそうな仕事は?」
ウインドは目を閉じる。
「……風の噂によると、四十歳過ぎからの再就職は難しいそうです」
「転生前の求人情報を拾ってこないで!」
私はウインドに怒ると、受付嬢がおそるおそる聞いて来た。
「もしかして魔導士の方ですか?」
どうやら私をそう勘違いしたようだ。
そりゃ悪魔姫がこんな小さな街に家探しに来ているとは思わないよなぁ。
「そうよ。私は召喚士ミナエよ」
受付嬢の顔色が変わる。
「一万年に一度現れるという……!」
「召喚士って、そんなに珍しいの?」
「ハイ。是非我が街をお救い下さいませ!」
街の郊外に来た私とウインド、そして不動産屋の受付嬢。
目の前にはいかにもという気配が漂う屋敷がそびえていた。
「姫様。風の噂によると、この屋敷は呪われております」
「つまり事故物件ね」
私とウインドの会話に受付嬢は小さく頷いた。
「この呪われた屋敷は十年以上、誰も住めないままです」
「つまり私に除霊しろってこと?」
「いえ」
受付嬢は申し訳なさそうに首を振る。
「住めるようにしていただければ……」
「ハードル高くなってない?」
「召喚士様は精霊や神を従えると聞いておりますので……」
それを聞いて私はウインドに聞いた。
「そういえば、あんたたちって精霊なの?」
「核は闇の精霊です」
「なるほど。じゃあ嘘ではないのね」
私は受付嬢へ向き直った。
「でも、私に除霊する義理は?」
「成功報酬は金貨百枚お支払いします!」
「入りましょう」
私は迷わず屋敷の扉を開けた。




