姫様、世界をざわつかせます。
スターフィールドから海を越えた、遥か西の大陸。
人類各国の王や将軍たちが一堂に会し、緊急会議が開かれていた。
議題はただ一つ。
魔族の姫が統治する国家「スターフィールド」の急速な台頭についてである。
「報告します」
一人の情報官が地図を広げた。
「伝説の存在とされていた古の悪魔姫ですが、武力ではなく経済によってラスボス島を支配したとのことです」
「……経済だと?」
会議室にざわめきが広がる。
「はい。上下水道、医療、農業、生産技術。そのすべてが他国を大きく上回っております」
情報官は資料をめくる。
「すでに周辺諸国では、スターフィールドの技術を導入したことで生活水準が飛躍的に向上しております」
「馬鹿な……」
老王が顔をしかめる。
「魔族が剣ではなく商売で勢力を広げているというのか」
「その通りです」
情報官は静かに頷いた。
「各国は今や、スターフィールドの技術提供を受けることを前提に国家運営を考え始めています」
重苦しい沈黙が会議室を包み込んだ。
「それにしても……ラスボス島とは何だ? 魔大陸ではないのか?」
老王が眉をひそめる。
「先日入手した資料に、そのように記載されておりました」
情報官は一冊の本を掲げた。それはスターフィールド観光課が無料配布をしたガイドブックだった。
「こんな情報を自国から発信するなど……奴らは正気なのか」
「他にもございます」
情報官はページをめくる。
「毎週一回、『魔王と握手会』が開催されております」
「……そんな罠に引っかかる者がおるのか?」
「チケットは毎回即日完売です」
「何だと?」
「さらに、慈愛の女神が偽チケットを販売した疑いで書類送検されたとのことです」
会議室は静まり返った。
「……その島、本当に魔族の国なのか?」
「こちらが古の悪魔姫の写真というものです」
「これは絵なのか? それにしては綺麗すぎないか?」
「絵画ではありません。魔導写真機による撮影だと報告されています」
「写真機まであるのか!?」
「報告によれば、一般家庭でも普及が始まっているとのことです」
再び、会議室は静まり返る。
「……文明レベルが違いすぎる」
誰かが漏らしたその一言に、誰一人として反論できる者はいなかった。
「それにしても……」
老王は写真を一枚ずつ見比べながら首を傾げた。
「悪魔姫の態度がどれもやる気のないものばかりなのは何故だ?」
机の上に写真が並べられる。
あくびをしている悪魔姫。
会議中に寝落ちしている悪魔姫。
部下に叩き起こされている悪魔姫。
書類の山を前に現実逃避している悪魔姫。
「これが本当に伝説の存在といわれた悪魔姫なのか……?」
「村人に確認したところ、常にこのような様子とのことです」
「ますます分からん!」
会議室には困惑の声が響き渡った。
「もしかして、この人物が裏から悪魔姫を操っているのではないか?」
若き王が悪魔姫の隣に立つ女性を指差す。
「天音七海。参謀長官だそうです」
「参謀長官だと? こんなに若いのに? 化粧で年齢を誤魔化しているのではないか?」
「スターフィールドに化粧の概念はないそうです」
「なんだと! こんな美人見たことないぞ?」
老王は頭を抱えた。
「報告によれば、法律、税制、行政制度の整備にも深く関わっているそうです」
「……悪魔姫より、こちらの方が危険人物ではないか?」
誰かがぽつりと漏らした。
その一言に、会議室の誰も反論しなかった。
「……他に警戒すべき人物はおらんのか?」
「おります」
情報官は新たな資料を机に並べた。
「まずはこちらをご覧ください」
「……うどん屋ではないか」
「スターフィールドで営業している店舗です」
「店の資料を持ってきたのか?」
「問題は、こちらの店員です」
情報官が一人の少女を指差す。
「ウェイトレスが料理を盛大にぶちまけておるな」
「この娘――破壊神です」
「……は?」
「睨んだだけで星を砕くとも言われた、世界三大神の一人です」
「何故うどん屋で働いているのだ?」
「スターフィールドでは『働かざる者食うべからず』が憲法に定められております」
「破壊神が憲法に従っているのか……」
「なお、創造神も働いております」
「神も働かなければならない島なのか」
「慈愛の女神もです。ただし現在は詐欺容疑で裁判中ですが」
「慈愛とは?」
「なお、戦闘に関しては悪魔大元帥がおります」
情報官はオカリナの写真を置く。
「この子供が悪魔大元帥だと? しかし、何をしているのだ?」
「死の竜と共に、鶏の世話が日課だそうです」
「……この国の強者は全員こんな生活をしているのか?」
「報告では、そのようです」
「理解できん……」
参加していた王たちが頭を抱えていると、扉が乱暴に開かれた。
「急報! 悪魔姫が部下を引き連れて魔大陸を離れたそうです!!」
「なんだと! 行き先は!?」
「島から一番近い半島かと......」
「しかし、奴らはどうやって。あの辺は危険な生き物がいるはずなのに」
「空もあの辺は聖女の結界によって遮断されてましたからね」
「なお、聖女も現在は悪魔姫の傘下です」
「悪魔姫との争いに負けたのか?」
「祈るのが馬鹿馬鹿しくなって退職したそうです」
「聖女に退職の概念があったのか……」
すると別の人物が慌てて入って来た。
「急報! 悪魔姫一味が水神竜に乗って移動していることが判明しました! 網漁中、偶然網に掛かったそうです」
「……水神竜がか?」
「報告では、そのようです」
「世界観が雑すぎる!」




