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プリンセス・サーバンツ 〜スローライフ希望だったのに魔族の姫として働かされてます〜  作者: みずほたる
念願のスローライフを送ったら、討伐対象になりました。
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姫様、スローライフを送りました。

世界サミットから一週間後。


私は城のテラスで、テント一式とハンモックを設営していた。


「姫様。何をされているのです?」


参謀長官・七海が呆れたように尋ねる。


「これからはここで暮らそうと思って。食事と飲み物だけ毎日運んできて」


「野宿に目覚めたんですか?」


「キャンプと言ってよ。ようやくスローライフが始められるんだから」


「承知しました」


七海はそれだけ言って去っていった。


爽やかな風。


木々のざわめき。


ゆらゆら揺れるハンモック。


「……最高」


そう思って目を閉じる。


——五分後。


「……」


「…………」


「暇だわ」


立ち上がってしまった。


「姫様。念願のスローライフはもう終わったのですか?」


わかっていましたと言わんばかりの表情で、七海は大量の書類を私の机へ積み上げた。


「姫様がサボっていた五分間で届いた分です」


「たった五分!?」


「世界的超大国ですから」


「いつの間に超大国になったの?」


「これは昨日発行された世界地図です」


七海は地図を広げると、


「この大陸にスターフィールドって書かれているわね」


「世界サミットで各国が最新版の世界地図を作成した結果、この大陸で実効支配しているのはスターフィールドだけと判断されたようです」


「まあ。言いたいことはわかるけど」


「前世で言えば、日本列島全体を一つの国が統一したような認識です。」


「今まで大陸が世界全部じゃなかったということね」


「世界は広いってことです」


「てか、大陸って世界から見たら小さいのね。でもなんで黒く色塗りされてるの?」


「魔族領だからです。つまり、これからはこの大陸は世界各国から討伐対象になります」


「スローライフを願ったら世界から敵視されるってなんなの!?」


「姫様が何もしなくても、世界は姫様を放っておきません」


「私の夢って、そんなに罪だった?」


古の悪魔姫(デビルプリンセス)を野放しにするほど世界は平和じゃないってことです」


「それにしても、この大陸だけで魔王、勇者、聖女、神様が勢揃いしてるのよ?」


「世界から見たらラスボス島ですね」


「そんな名前つけないで!」


「もっとも、未知の土地というだけで恐れられている面もあります。」


「つまり?」


「正しい情報を発信すれば、敵ではなく観光地として認識される可能性があります。」


「……それで?」


「そこで、こちらです」


「旅行ガイドブック?」


「はい。安心して観光客が来るようになれば、国も潤います。『恐ろしい魔族の国』ではなく『行ってみたい国』になれば、討伐の口実も減るでしょう。」


私は一枚目を捲ると、簡単なガイドマップが書かれている。


「ようこそラスボス島へ!って認めちゃってどうするのよ!」


「まずは悪役らしさを受け入れることからです。」


「悪役確定なの!?」


「現在、ラスボス島の玄関口はコンダクタ領の海岸です」


「港開発しちゃったからね」


「派遣されたポセイドン様をはじめ、深海竜が制海権を握っておりますので、一般の船が近づくのは極めて困難です。」


「それでこれまで情報もなかったのね」


「はい。お寿司のネタ探しに必死でしたから」


「世界を隔離した理由が食欲なの!?」


「姫様がお寿司を食べたいと言った結果です」


「私のせい!?」


確かに言った覚えはある。


……あるけど、それで世界を隔離するなんて誰が想像するのよ。


私は半ば呆れながら、次のページを捲った。


『ようこそ、ラスボス島へ!』


世界で最も危険――と言われている、世界で最も平和な島。


・犯罪発生率 ほぼゼロ

・就職率 100%

・週休二日制

・残業ほぼなし

・魔王と写真撮影できます


「最後の一行いらないでしょ」


「人気スポットです」


「人気なんだ……」


「観光で来てそのまま就職してくれたら島の発展がますます期待できます」


「だからガイドブックなのに求人票みたいなのね」


私が思わず額を押さえた、その時だった。


「姫様、観光課長がお見えです」


七海の声と同時に、テラスの扉が静かに開いた。


入ってきたのは、一人の女性だった。


二十代半ばほど。


長い栗色の髪を後ろで一つにまとめ、紺色のスーツに身を包んでいる。


胸元には『観光課』と刻まれた銀色の名札。


片手には分厚い企画書。


もう片方には旅行雑誌の束を抱えていた。


眼鏡の奥の瞳は知的だが、その笑顔は営業職らしく柔らかい。


入室すると同時に深々と頭を下げる。


「お初にお目にかかります。スターフィールド役所、観光課長の風見ひよりと申します。」


「観光課なんて、いつの間にできたの?」


「姫様がスローライフを送ってる間に作りました」


「五分で!?」


「予算はすでに執行済みです」


「仕事が早すぎる!」


「姫様、問題があります。観光客は港町に着いても、そこから行く場所がありません」


「一番近くても、馬車で一週間かかるアンダンテの首都ね」


「はい。ちなみにトランペット村までは半月かかります」


「観光客を呼び込む気ないわね」


「ですので、魔導列車を早く完成させる必要がございます」


魔導列車。


裕美子とルシアを中心に開発中である。


港町からアンダンテ、テナー、トランペット村、ホルンまでを結ぶ予定だ。


「列車が完成すれば、その日のうちにアンダンテやトランペット村を巡り、夜にはホルンで宿泊できます」


「一日でそこまで行けるの?」


「はい。観光は『移動時間との戦い』ですので」


「ちなみに魔導列車はいつ完成しそうなの?」


「全線開通は五百年ほどを予定しております。」


「長期計画すぎる!」


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