姫様、世界と契約します。
「では悪魔姫よ。対価とは具体的に何を望む?」
老王の問いに、会場中の視線が私へ集まった。
私は肩をすくめる。
「別に無理難題を押しつける気はないわ」
そう言って机の上に一枚の紙を置いた。
「まず一つ目。食料を輸出できる国は、食料で支払って」
「食料?」
「うちは人口が増えてるの。今は足りているけど、将来の備蓄はいくらあっても困らないわ」
各国の王たちが頷く。
食料なら金がなくても払える国は多い。
「二つ目」
私はもう一枚紙を置く。
「鉄鉱石、石炭、銅、木材。そういう資源を持つ国は資源で」
西方の王が目を見開いた。
「鉱石でもよいのか?」
「加工する技術はうちにあるもの」
ざわめきが広がる。
「三つ目」
「将来返済」
会場が静まり返った。
「今払えないなら借金でもいい。十年でも二十年でも。国が豊かになってから返してくれればいいわ」
「そんなことまで……」
誰かが思わず呟いた。
私は首を横に振る。
「勘違いしないで」
その場の空気が引き締まる。
「返済できなくなったら土地を取るとか、そんなことはしない」
各国の王たちが顔を見合わせる。
「じゃあ何を担保に?」
タンバリ国王が尋ねる。
私は当然のように答えた。
「信用よ」
「信用?」
「一度約束を破った国とは、二度と取引しない」
会場が静まり返る。
「それだけ?」
「それだけ」
私は頷いた。
「商売ってそういうものでしょう?」
老王が静かに笑った。
「……面白い娘じゃ」
「とても人類の敵と言われた古の悪魔姫の提案とは思えん」
隣の王が苦笑する。
するとタンバリ国王が腕を組んだ。
「しかし、それではスターフィールドばかりが損をするのではないか?」
「そうかしら?」
私は微笑んだ。
「道路ができれば物流が増える」
「病院ができれば人口が増える」
「上下水道が整えば疫病が減る」
私は一人ずつ王たちを見る。
「豊かになった国は何を買うと思う?」
誰も答えない。
「テレビ」
「薬」
「農具」
「建材」
「機械」
私は指を折った。
「全部うちの商品よ」
「……!」
ようやく理解したらしい。
「つまり、先に豊かになってもらった方が、長い目で見ればうちも儲かるの」
老王が大きく笑った。
「はっはっは!」
「これは商売人の発想じゃ!」
「違う?」
私は首を傾げてさらに聞いた。
「国家経営って商売みたいなものでしょう?」
その時だった。
南方の若い王が立ち上がる。
「質問がある!」
「どうぞ」
「もし我が国が契約を結んだ場合、技術者も派遣してくれるのか?」
私は即答した。
「派遣はしないわ。うちの技術者を他国に常駐させたら、スターフィールドの仕事が回らなくなるもの。技術が欲しかったら、うちに派遣して勉強して持ち帰ることね」
今度は西方の王が口を開く。
「学校は?」
「もちろん学べるわ。ただし教師を送るんじゃない。あなたたちが生徒を送り込んで勉強してもらうの。これは医師も同じ。自分たちで育てることが一番大事よ」
誰も口を挟まない。
最初に口を開いた老王は静かに立ち上がった。
「我がレンガ王国は受けよう。鉄鉱石で支払う形で良いか?」
続いて別の王も立ち上がる。
「我が国は木材を」
「我が国は羊毛を」
「香辛料ならある」
次々と声が上がる。
タンバリ国王だけが黙っていた。
やがて深く息を吐く。
「……負けた。」
「悪魔姫よ。貴様の言う通りだ」
国王はゆっくり頭を下げた。
「タンバリはスターフィールドとの復興契約を正式に締結したい」
私は小さく微笑んだ。
「契約成立ね」
その瞬間。
ヴィオラは静かにメモ帳へ書き込んだ。
『スターフィールド初の国際復興契約締結』
後に、この日が――
スターフィールドが軍事ではなく、経済によって世界へ影響力を広げ始めた日として、歴史書に記されることになる。
スターフィールド。ミナエモン城(仮)
「世界会議、お疲れ様でした」
七海は紅茶を私に出して労いの言葉をかける。
「ほぼ一人だったから大変だったわ。これは十年分くらいの働きね。明日から有給を請求するわ」
「却下します」
「ですよねー」
「他国から学びに来た者は派遣扱いとして社宅を提供します。賃金は研修扱いですので、スターフィールドのしもべの九割としました。派遣期間は三年までです」
「なるほどね。それにしても、アレどうにかならないの?」
私は地図を見て一人で笑っているオカリナを見て聞くと、
「ついに大陸が姫様のものに......魔族の再興の夢がついに......」
「だから別に私のものになってないってば」
「いいえ。世界中が姫様のしもべとなる第一歩です。七海よ、この日を『世界征服記念日』として祝日にしないか?」
「しません」
七海は即答した。
「では『大陸制覇記念日』では?」
「してません」
「『経済侵略成功記念日』」
「侵略もしてません」
オカリナは残念そうに肩を落とす。
私は思わずため息をついた。
「どうしてうちには極端な人しかいないのよ……」
それでも、世界が豊かになれば私の仕事は減る。
世界平和なんて、そのついででいい。
私が欲しいのは、名誉でも権力でもない。
働かずに、のんびり暮らせる毎日。
それだけなんだから。
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そして物語は、世界を巻き込む新たな時代へと進んでいく。
……はずなのだった。




