姫様、魔王を就職させます。
「……ちなみに」
私はハーブティーを一口飲んでから聞いた。
「配達員さん、無事だったの?」
「はい」
魔王は笑顔で頷く。
「帰り際に『今後ともスターフィールド運送をよろしくお願いします』と営業までしていかれました」
「メンタル強っ!」
「あと、配達完了の評価を五つ星でお願いしますとも」
「そこまで言っていくの!?」
思わず頭を抱えてしまった。
「ところで、復活したのに何故|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》へ行ったのですか?」
聖香が不思議そうに尋ねる。
「目覚めたからには、働かないと食べていけませんから」
「そうじゃなくて、魔王なら世界征服とか企むのが普通では?」
魔王は困ったように笑った。
「簡単に言わないでくださいよ」
「え?」
「征服ってことは、攻め込むんですよ? 兵力を集めて、補給を維持して、勝ったら今度は領地を再開発して、民に仕事を与えて、部下には褒賞も出さなきゃいけない」
「……たしかに」
「責任者なんですよ?」
「うん」
「絶対ストレスで胃に穴が開きます」
「そこなの!?」
魔王は真剣な顔で頷いた。
「それなら兵卒として命令を聞いて働いた方が気楽です。テレビを見ましたが、スターフィールドは福利厚生もしっかりしていますし、この洞窟も一応はスターフィールド領内ですし」
「あなた、魔王としての自覚あります?」
「自覚したらストレスで禿げそうです」
私は思わずため息をついた。
「また変なのが増えたわね……」
私はため息をついて履歴書を見る。
「ま、スターフィールド領内に住んでいる以上は、確かに働く義務はあるわね。ちなみに、ここにいる魔族はあなたの命令に従うの?」
「魔王として従ってくれております」
「じゃあ決まりね」
私は玉座を指差した。
「この洞窟をスターフィールド救急対策本部にするわ」
「救急対策本部?」
「火事や洪水、魔物被害、遭難者の救助。平時は訓練と洞窟の管理、緊急時だけ出動してもらうの」
魔王の目が少し輝く。
「なるほど。前世でいう消防や自衛隊ですね」
「そんな感じね。待機中は交代で領内の見回りをしてくれるとありがたいわ」
「それなら私にもできそうです」
少し考えたあと、魔王は小さく頷いた。
「その仕事なら、人助けですし嫌いではありません」
「感謝状をもらうのも好きなんでしょ?」
「はい」
即答だった。
「額縁まで用意しています」
「収集癖なの!?」
聖香が呆れたようにため息をつく。
「姫様。この方、本当に魔王なんですよね?」
「履歴書を見る限り、地域貢献に熱心な公務員なのよね……」
トランペット村にあるミナエモン城。
私が帰城してからすぐ、大雨が降り始めた。
最初は恵みの雨だと思っていた。
しかし夕方になる頃には雷鳴が轟き、各地の川が一気に増水した。
七海が慌ただしく執務室へ駆け込んでくる。
「姫様!」
「何?」
「南部で土砂崩れが発生しました! 避難が間に合わず、村人二十名ほどが孤立しております!」
「被害は?」
七海は手元の報告書へ目を落とした。
「魔王軍が現場へ急行。孤立していた村人二十三名を全員救出しました」
「怪我人は?」
「重傷者三名、軽傷者七名。ユリエル先生と救護班、魔王軍の魔導士により、治療を終えております」
「土砂は?」
「魔王様自ら土魔法で復旧され、現在は通行可能となっております」
ここでミナエが一言。
「……仕事が早すぎない?」
七海は当然のように答えます。
「現場まで飛行で五分ですので」
さらに続けて、
「魔王様は救助後、住民から感謝状をいただいて大変喜ばれていたそうです」
「もう貰ったの!?」
「はい。額縁も持参されていたとか」
「持ち歩いてるの!?」
「なお、チセリさんが一部始終を生中継していたそうです」
「勝手に!?」
「各国では『魔王が人助けをしている』と大変話題になって混乱しております」
「世界の魔王像を壊すの早すぎるわ!」
「なお、このニュースを受けて、各国首脳による緊急会議が招集されるそうです」
「議題は?」
「『スターフィールドを友好国とするべきか、それとも脅威と見なすべきか』だそうです」
「テレビ一日で外交問題になったじゃない」
「すでに緊急会議においても取材を申し込んでいるそうです」
「誰が?」
「チセリさんです」
「仕事が早すぎるわ!」
どちらにせよ、魔王復活は時間の問題で世界中にバレるだろう。
災害時、私は安全な城の中で見ているだけでいいし、救助は魔王軍がやってくれる。
「うん。採用して正解だったわ」
私が満足そうに頷くと、
七海は静かに微笑んだ。
「姫様」
「何?」
「救急対策本部の最高責任者は姫様です」
「……え?」
「当然、最終判断は姫様にお願い致します」
「責任者は魔王じゃないの!?」
「組織はスターフィールド所属ですので」
「また管理職が増えただけじゃない!」
「あと、先ほど申し上げた緊急会議ですが、姫様と従者一名の出席を求められております」
「……断れない?」
「世界各国の首脳が集まるそうですので」
「テレビ放送一日でサミット開催って何なのよ!」
七海は静かに一枚の封筒を差し出した。
「この日ですが、私は休みですので別の方を連れて行って下さい」
「休みって......」
「テレビ中継をお菓子を食べながら観戦しております」
「完全に視聴者じゃない!」
「ですが、どなたを連れて行きます? オカリナ様だと警戒されて本末転倒かと」
「おすすめは?」
「慈愛の女神リィナ様が適任かと」
「前科八犯連れて行くの?」
「見た目は慈愛の女神です」
「中身が問題なのよ!」
「前科は自己申告制ですので。」
「隠す気満々じゃない!」




