姫様、裁判所に行きます。
『働かざる者食うべからず』
それだけだったスターフィールドの法律に、新たな四つの法律が追加された。
『盗む暇があるなら働け』
『殴る暇があったら働け』
『騙す暇があったら働け』
『争う暇があったら働け』
私としては『姫様を無駄に働かせるな』も追加したかったのだが、七海に却下されてしまった。
法律が定着して一か月。
スターフィールドでは大きな事件もなく、平和な日々が続いていた。
そのせいか、七海とルールー、レクスは次々と新しい法律案を作り始めた。
そんな新たな法律案の山に私はうんざりしていたのだったのだが、
「今日の午後からでしょ? 初公判」
「はい。私たちは見に行く義務がございますので早めに行きましょう」
「ちなみに、どんな裁判なの?」
「顔を白塗りした男性が、最近オープンしたハンバーガー屋でピクルスを残した罪に問われております」
「え?」
「食材を粗末にする行為は重罪にしましたので」
「重すぎない!?」
「食料不足を防ぐため、食べ物を故意に捨てる行為は禁止した方がよろしいです」
「ピクルス一枚で法廷行き!?」
「なお、傍聴希望者は二万人を超えております」
「ピクルス一枚で!?」
「本人は『ピクルスが嫌いだった』と供述しております」
「好き嫌いを供述する裁判なの!?」
「店側は『最初から抜くと言ったのに注文時に断られました』と主張しております」
「ただの注文ミスじゃない!」
「被告は和解を希望しております」
「それなら解決ね」
「そうでしょうか?」
「だってくだらない問題でしょ」
「まあ、確かに裁判そのものは些細な事件です。しかし、被告人が有名人なんです」
「リィナ?」
「いえ、織田信長様です」
「なんで!?」
「本能寺で明智光秀様に襲われた話はご存知ですか?」
「死体は見つからなかったんだっけ?」
「事情聴取によると、明智軍の旗印を見た瞬間、『もう助からない』と死亡判定を受けて転生したそうです」
「え? 死亡判定って受けたら死体って消失するの?」
そうなると生前の私たちは皆は行方不明ということになってしまうのだが。
「そこらへんはわかりませんし、わかったところでどうしようもできませんからねぇ」
それもそうだ。
「姫様、そろそろ向かって並ばないと、いい席に座れませんよ」
「私、姫なのに並ぶの?」
「特別枠なんかスターフィールドにはございませんよ」
スターフィールド裁判所。
「随分と大きな建物ね」
私はつい見上げてしまう。
「1万人が傍聴できます」
「多すぎるでしょ!」
「姫様。トランペット村には海の家しか娯楽がないのはご存知ですよね?」
「裁判所を娯楽施設にしてどうするのよ? 関係者が知ったら怒り狂うわよ?」
「大丈夫です。巨大デパートのワンフロアが裁判所ですから」
「裁判所を映画館扱いしてどうするのよ」
「隣はフードコートです」
「裁判の途中でポテト買えるの!?」
「はい。『判決ポテトセット』が人気です」
「絶対違う人気の出方してる!」
「ほら見てください。敗訴Tシャツを着ている若者がちらほらいますよ」
「意味わかって着ているのかしら?」
まるで言葉の意味を理解しようともせず勢いで買ってしまったパターンだろう。
「姫様。裁判所は地下二階みたいです」
「なんで地下なのよ!」
「騒ぐ人が多いので防音にしました」
文句を言いながらも建物の中に入ると、
『織田信長被告のサイン会は終了しました』
と、アナウンスが聞こえたと思いきや
『なお、これより今川義元原告のサイン会を行います。桶狭間グッズを銀貨一枚以上お買い上げの方に限ります』
「今川義元様もサイン会するみたいですね」
「ハンバーガー屋の店長が何で今川義元なのよ! 織田信長に桶狭間の戦いで敗れた人よね?」
「敗れたというか打ち取られましたけどね」
「え、織田信長は和解を希望してるとかいってなかった?」
「はい。ですが今川義元様は『桶狭間の件はまだ納得していない』とのことです」
「そっちの和解じゃない!」
「裁判が楽しみですね」
「不安しかないわ!」
地下二階に行くと、
本日開催!
原告 今川義元(ハンバーガー屋店長)
VS
被告 織田信長(無職)
~世紀のピクルス裁判~
「裁判を何かの格闘技と間違えてない?」
「私は天下人であった織田信長様が無職扱いになっているのが気になります。スターフィールドでは無職は罪ですから」
時間になると、フォルテが立派な木槌を持って台座に座ると咳払いを一つする。
「これより裁判を始める。原告、被告参上せよ!」
フォルテが木槌を叩くと、
いかにもハンバーガー屋にいそうな、顔を白塗りにした中年男性が現れる。
どうやら彼が今川義元なんだろう。となりには検察代表としてルールーがふんぞりかえっている。
その隣には、立派な鎧をまとった男が現れた。
おそらく織田信長なのだろう。隣には困った顔をしたレクスが座った。おそらく弁護人なんだろう。
「なんで顔面ボッコボコにされてるのよ」
「ルールー様は取り調べよりも拳が先に出ますからね」
「では、これより裁判を行うのじゃ。原告代理人。説明せよ」
「先日、そこの無職がハンバーガーを注文した後、ピクルスを食べた際吐き出したゆえ、食べ物を粗末した罪として、フルボッコにして捕縛しました。死刑を要求します」
ルールーが淡々と話をすると、レクスが立ち上がる。
「それは横暴です。人は誰にでも好き嫌いがあります。よって情状酌量として死刑に処すべきです」
いや、あんたも死刑を要求してどうする。弁護人でしょ。
「原告はどう思うのじゃ? 意見を述べることを許そう」
フォルテが聞くと、今川義元は、
「ピクルスなんかどうでもいい! 奴は前世にて余の命を奪ったうつけもの。首を刎ね、復讐を果たしたい!」
と、大声で叫ぶ。
「前世の出来事は時効じゃ。被告人は何か言うことはあるか?」
「是非に及ばず」
「意味がわからぬ。もっと具体的に述べよ」
「ハンバーガーという物を注文時にピクルスは『抜け』と申した。」
「しかし店員は『ぜひ一度お試しください』と勧めてきた」
「故に一枚だけ口にした」
「だが、やはり苦手であった。つまりワシは計略に陥れられたのじゃ」
「試食を勧めることは計略には該当せぬ」
フォルテが呆れた顔をする。
ルールーも、レクスも、ついでに義元も死刑を望んでいる。
法律だけを見るとフォルテも死刑と言いそうだ。
「まさに信長包囲網ですね」
七海が興味ありそうに状況を見ている。
「包囲する理由が全員バラバラなんだけど!」




