姫様、三権分立します。
私から溢れ出た絶望の波動が神のドレスと共鳴した。黒い靄はゆっくりと集まり、一人の人影を形作っていく。
そして。
「四天王の一人、ルールーでございます」
少年が少女かわかりにくい子供が礼儀正しく私に頭を下げる。
「四天王、何人いるのよ?」
私の記憶が正しければ六人目だ。
「姫様から生まれた者は皆、気持ちは四天王なんです」
「肩書きじゃなくて気持ちだったんだ」
「姫様に従わない者を惨殺するのが私の特技でございます」
「オカリナみたいなこと言わないで。悪事を働く人を捕まえてくるだけでいいのよ」
「承知しました。では、まずは法を整備してください。姫様の作った掟に刃向かう者を捕まえてご覧に入れましょう」
「その法がまだ働かざる者食うべからずしかないのよ」
「つまり働いていない者を捕まえてくればよろしいのですね?」
「その言い方だと休憩中の人も捕まえてきそうね」
「姫様以外、休む必要性がわかりません。姫様のためなら死ぬまで働き続けるべきかと考えますが」
「これはこれで教育が必要そうね。七海、この子の教育お願い」
「承知しました。まずは”惨殺”という単語を封印するところから始めます」
危険思想を持つルールーを七海に預け、私は|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》に向かうことにした。
ここで受付嬢をしているフォルテに司法への職替えをお願いしにきたのだ。
「あんた元・裁きの神だったわよね?」
「借金返済のためにここで受付なんかさせられているがのぅ」
「裁判所を建てるから、裁判長やって」
「……ほう?」
「受付より向いてるでしょ?」
「姫君よ。裁判所ってなんじゃ?」
「犯罪人がいて、検察と弁護士がいて討論して、あなたが裁くのよ」
「妾の力があれば検察と弁護士なんか必要ないが?」
「それじゃ、あなたの独断と偏見になっちゃうじゃない」
「妾に偏見などないぞ。神じゃからの」
「それを決めるのは裁く側じゃなくて裁かれる側なの! 判決を聞いて誰もが文句を言わない、納得するものにしたいの」
「妾の判決に文句なんか言わせん」
「なら受付嬢のままね」
「検察と弁護士の意見も必要じゃな!」
「手のひらクルクルじゃない。本当に裁きの神なの?」
「生活がかかっておるからの」
「神でも生活には勝てないのね……」
フォルテはこれで何とかなる。
問題は立法だった。
考えれば考えるほど適任者は七海である。
しかし、彼女を立法に取られると私の参謀は悪魔大元帥である脳筋のオカリナになってしまう。
絶望でしかない。
その瞬間だった。
私から再び絶望の波動が溢れ出し、神のドレスと共鳴する。
黒い靄が渦を巻き、ゆっくりと新たな人影を形作っていく。
「はじめまして姫様。ボクはレクス。こう見えても四天王の一人でございます」
もはや四天王の肩書きはどうでもよかったが、
「あなた、ルールーそっくりね」
「姉をご存知ですか!」
「姉弟設定あるんだ......」
「ですが姫様。姉は許しがたき存在なのです! 姉は法より拳を優先します!」
「なんで生まれたばっかりなのにそんな設定あるのよ......」
「ボクは姉と違い、合法的に世の中を姫様のものにしてみせます!」
「あんたも教育が必要ね」
こうして私はレクスを連れ帰って七海にまとめて教育するようお願いしたのであった。
翌日。
会議室にて、時間前に七海、ルールー、レクスが先に座っていた。
私の顔を見るなり、七海は疲れた表情で言ってきた。
「しばらくは二人の教育をしながら仕事をしてもらうことにしました」
詳しく話を聞くと、教えるたびに二人の喧嘩が始まったらしい。
「スターフィールドに必要な法律を考えてきました!」
レクスは大量の書類を私に見せてくる。
「私だって違反者をどう捕まえるか考えてきました!」
負けじとルールーも大量の書類を見せてくる。
「え、これを私が読んで採用するかどうか決断するわけ?」
すると、二人は仲良く声を揃えた。
『お願いします!』
結局仕事が増えたではないか。
「待たせたようじゃ......な」
会議時間前だが遅れて入ってきたフォルテは子供たちを見て怯んだのがわかった。
「どうしたのよ」
「姫君よ。とんでもない奴らを作り出したのぅ」
「子供じゃない」
「見た目は子供でも妾なんか瞬殺される力を持っておるじゃないか。妾はこの二人の意見を聞いた上で裁かなくてはならんのか?」
「そうね」
「どちらの言い分を聞いても逆恨みされて妾は殺されるではないか」
「大丈夫よ。『無闇に殺してはいけない』って法律に書いてあるわよ」
私はレクスが書いてきた一枚の提案書を見せて安心させようとする。
「ちょっと待て! 小さな字で、死ぬギリギリまではOKって書いてるぞ!」
慌てて見返すと、本当に米粒より小さな字で「※ただし死ぬギリギリまでは可」と書いてあった。
「妾、受付嬢のままが良かったのう」




