姫様、寝るために働きます。
スターフィールド国内でテレビ放送がスタートして一ヶ月が経った。
「スクリーンも中央公園の一台だけでしたが、今では飲食店から小型スクリーンの設置依頼が殺到しています。生産が追いつきません」
天気予報、昼ドラ、ニュース。
番組は次々と人気を集め、食事をしながらテレビを見るのが新しい文化になりつつあった。
テナー領を工業地帯にしたことで生産量そのものは増えている。
「やはり二交代制にして、生産数を増やすのが一番かと思います」
七海が提案する。
「夜勤なんかダメに決まってるじゃない」
私は即答した。
「姫様ならそうおっしゃると思っていました。一応、理由をお聞かせいただいても?」
「夜中になんかあったら私まで叩き起こされるじゃない」
「……やはりそうでしたか」
七海は一切驚くことなく頷いた。
「では工場を増設し、労働者を増やすしかありませんね」
「そうして。ただでさえ私だけ働きすぎなんだから」
「姫様は働きたくないのでは?」
「働きたくないけど、働かないともっと働くことになるの!」
「難儀なお立場ですね」
七海は少し同情した顔を見せる。
というのも――。
スターフィールドでは、農業関係者たちが日の出とともに畑へ向かい始める。
そんな朝早くから、
「姫様! 今日は素晴らしい朝です! 鶏が元気よく鳴いております! 風も気持ちいいです!」
と、オカリナから叩き起こされるところから始まる。
「いや、そんなことで起こさなくても」
「見て下さい。まるで太陽が姫様に世界征服を祝福してる様に見えます」
「見えないわ。私には二度寝を邪魔する太陽にしか見えないわ」
「むむっ、姫様の邪魔をするとは! 太陽を抹殺してきます!」
「朝から疲れることを言わないで」
目が冴えてしまったので早めの朝食をとるとチセリが訪ねてくる。
「姫様、おはようございます! 本日のニュース原稿です!」
「朝ご飯くらい静かに食べさせてよ……」
「それと昼ドラの台本もございます!」
「増えてるじゃない!」
そこへ、
「姫様、おはようございます。本日も会議が四件ございます」
「来た……」
七海が起きてきた瞬間、私の一日は始まる。
会議を終えたと思えば、今度は突発的な問題が次々と舞い込む。
気が付けば、仕事が終わるのはいつも夜遅くだ。
宿や居酒屋は夜まで営業しているため、何かあれば姫である私のところに話が回ってくる。
ちなみに、その頃には他の職員はとっくに勤務時間が終わっている。残っているのは私だけだ。
それでも深夜営業だけは禁止している。
私の睡眠時間だけは、国宝級の価値があるのだから。
「てか、くだらない問題が多すぎるのよ。夜のいざこざなんか毎回酔っぱらいが何かしでかしてばっかりなのよ。昨日なんて『誰が先に枝豆を頼んだか』で殴り合いになってたのよ!」
「くだらなくないですが?」
「いいや、くだらないわ。スターフィールドもついに治安を維持する警察官みたいのが必要になった時代がきたのよ!」
「警察官なんか配備したら、リィナ様が毎日捕まる未来しか見えませんが。毎晩逮捕した報告をしに警察官たちが押し寄せて来ますよ?」
「それは困るわね。寝ようとしている時に毎晩そんな話なんか聞きたくないわ」
「ですので、警察官と姫様の間に行政を置くのがよろしいかと思います。当然、行政だけを独立させるわけにはいきませんので」
「もしかして、三権分立をスターフィールドに置くつもり?」
「はい。司法・立法・行政を分けることで、姫様の仕事を大幅に減らせます」
「それ最高じゃない!」
「はい。今後は三権が実務を担い、姫様には最終判断だけをお願いする形が理想です」
「最終判断だけ? 本当に?」
「はい」
「ますます最高じゃない!」
「では次回の会議で、具体的な役割分担を決めましょう」
こうして私は、面倒くさい仲裁をしなくて済むと信じ、ウキウキしながら次の会議を待つのだった。
ところが翌週。会議の前日にて恐ろしい報告を受けた。
「姫様。調査したところ、スターフィールド国内に三権分立を理解している者は一人もおりませんでした」
「どういうことよ!」
「ちなみに、姫様はわかります?」
「なんとなく」
「……聖香様もそんな感じでした。つまり、教えられる人が私しかいません」
「つまり、どういうことよ?」
「私が全国民に教えることになります」
「……」
「正直、面倒くさいなぁと後悔しています。まあ、テレビ放送を使って一日一時間教育番組を組むようチセリ様にお願いすることにします」
「そっか。頑張れ!」
「民が理解するのに十年くらいかかりそうですが、それまでは姫様、これまで通りよろしくお願いします」
「あんな生活十年も続けたくない!」
折角、毎晩くだらない揉め事から解放されると期待していたのに。
期待していた分、ガッカリ感が半端なく、私の体内から絶望の波動がじわじわと溢れ出したのであった。




