姫様、放送事故です。
ニュース番組が終わって昼前。
「やはり昼の放送番組といったら昼ドラです」
裕美子は満面の笑みで言った。
「もうすっかりテレビ局員ね」
「私はあくまで開発研究をしたいだけで、テレビ局長はチセリさんです。冠番組も持っていますし」
「そうだったわね」
「ただ、まだ深海竜に回収されたままですが」
「早く助けてあげて!」
「それは回収班に任せましょう。それより今は昼ドラです」
「昼ドラって、ドロドロの恋愛もの?」
「いえ。せっかく異世界ですので、血みどろの恋愛ドラマを脚本していただきました」
「ドロドロの方が平和じゃない!」
舞台はどこかの洋館。
「……って、前に住んでた私の家じゃない!」
画面の中では、一人の女性がスターフィールドにまつわる怖い話を独り言のようにしゃべっているのだが。
「お腹がすいて食べた物が毒キノコだったんです」
女性は青ざめた表情で語り始めた。
「もう駄目だと思いました」
「普通そう思うわよね」
「ところが翌朝には毒抜き料理として食堂で売られていました」
「怖い話じゃなくて食文化の紹介じゃない!」
「さらに湖へ逃げたら巨大な古代竜が現れまして……」
「今度こそ怖い!」
「『お腹空いてない?』と声をかけられました」
「いい竜じゃない!」
「最後は悪魔大元帥に遭遇しました」
「それは確かに怖いわね」
画面が切り替わる。
『熊を追いかけていたら見失った!』
オカリナが必死に山を駆け回っている映像だった。
「全然怖くない!」
「このように、恐怖と笑いを融合させた新感覚昼ドラです」
裕美子は胸を張る。
「ジャンルが迷子じゃない! 恋愛とか血みどろの要素どこにあるのよ!」
「恋愛は視聴率が下がったので途中で打ち切りました」
「これ初回放送よね?」
「はい。視聴者参加型です。リアルタイムで視聴者の感情をスクリーンが検知して、マルチエンディングを迎えることができます」
「そんなことしたら、お蔵入り映像だらけになるじゃない! 大体オカリナの熊探しなんてさっきのリアルタイムの話よ?」
「使えるもんは何でも使えという監督の方針です。生放送素材は編集費が浮きますので」
「あとで監督を呼んできておいて」
「その様に伝えておきます。さあ姫様。お昼を過ぎた後は通販番組を用意しました。購買意欲が高まれば経済が回ります」
「なるほどね」
すると軍歌が流れ出す。
「何よこの曲?」
「音楽プロデューサーがこれだけは譲れないと申しまして」
「征服するまで昼寝しませんって歌っちゃってるじゃない! いつ戦時中になったのよ!」
「音楽プロデューサーのこだわりですので」
「その前にこれは通販番組だということを忘れないで!」
私はこの番組にもテコ入れをしないと、と考えていると、かわいらしい女の子が元気よく、
「まず紹介しますのは、聖法国に眠っていたとされる地獄の鎧の紹介です!」
見るからに呪われそうな、禍々しいオーラを漂わせる鎧が登場した。
「聖法国にあったらダメなやつじゃない!」
「なんとこの鎧、装備したら呪われることができます!」
「誰がそんなことを望むのよ!」
私は画面越しにツッコミを入れると、
「姫様。呪い耐性がある者なら優秀な装備品かと思いますが」
「七海さぁ、呪い耐性なんてレア中のレアよ? 多分だけど」
「申し訳ございません! アクセスが殺到して回線がパンクしております!」
「回線なんか存在してないじゃない! 何売れまくって今しか買えませんよアピールしてるのよ!」
「姫様。この通販番組。どうやって買えるのですか?」
そう言われたらこの世界には電話や通信がまだ存在していない。このテレビも魔力によって一方的に送られているに過ぎない。
部屋の空気が一瞬止まる。
「……」
「……」
「……」
裕美子はゆっくりとこちらを向いた。
「考えておりませんでした」
「一番大事なところじゃない!」
「テレビ番組を作ることばかり考えていましたので」
「研究者あるあるを発揮しないで!」
七海が静かに手を挙げる。
「一応、解決策があります」
「本当?」
「欲しいと思った方は、直接スターフィールドまでお越しください、というのはいかがでしょう」
「通販じゃなくて現地販売!」
「送料は無料です」
「歩いて来るんだから当たり前でしょう!」
「通販の意味がなくなってしまいましたね」
裕美子は真剣な表情で頷いた。
「それでは次回までに遠距離通信用魔導具を開発いたします」
「そんな簡単に言わないで!」
「完成すれば通販だけでなく外交や軍事にも革命が起こります」
「テレビ局が世界の文明レベルを引き上げようとしてるじゃない!」
私は深いため息をついた。
「この辺はこの先考えるとして、夕方のニュースを見てみましょう」
気持ちを切り替えて見ることにすると、
チセリがまだ回収されていないこと。
オカリナがまだ熊に逃げられていることが主に放送された。
「なんかテレビ局の不祥事のニュースしかないんだけど。こんなの全世界に放送なんかできないわ。チセリを早く回収して番組全体を練り直ししてよね」
「姫様。私は撮影機器とスクリーン開発の担当であってテレビ局員じゃないんですが」
「開発担当なら開発担当らしく局長救出装置も作ってきなさい!」




