姫様、テレビ放送を見ることにしました。
一週間後。
私は巨大な机の前に座らされていた。
「姫様。こちらがテレビスクリーンです。放送用のカメラで撮影したものが魔力を通じてこちらに映し出される仕組みです」
裕美子が丁寧に説明してくる。
「試験用としてここに一台、トランペット村の中央公園に一台、ホルン領の公民館に一台設置してきました」
ルシアが礼儀正しく言ってきた。
「仕組みはわかるんだけど大丈夫なの?」
「多分大丈夫です。あ、もうすぐ放送時間ですよ。天気予報からスタートします」
裕美子は楽しそうに言うと、スクリーンが光出したかと思うと、
「どこよ?」
真っ暗で何も見えなかった。
「コンダクタ皇国西にある海の底です。水深五千メートルくらいですね。それにしてもあそこからでも、綺麗に映ってます」
「もはや海底じゃない!」
「さて、天気予報を見ましょう」
と、裕美子は嬉しそうに言うが、
画面には真っ暗な海しか映っていない。
「天気予報どこ?」
「今からです」
ルシアが淡々と言う。
すると画面の中を何か巨大な影が横切った。
「なに今!?」
「深海魚ですね」
「テレビの初回放送で映すものじゃないでしょ!」
その時だった。
画面の端からチセリが現れた。
『あーあー。聞こえるかしら?』
「聞こえるわよ!」
『本日の天気です』
背景は深海。
「場所変えなさいよ!」
『スターフィールドは晴れ』
チセリの後ろを巨大な触手が通過した。
『ホルン領も晴れ』
「触手が気になって内容が入ってこない!」
『テナー領は曇りのち雨』
ゴボゴボゴボ。
泡が大量に映る。
「溺れてない?」
「大丈夫です」
裕美子は自信満々だった。
「なんで言い切れるの?」
「古代竜に頼んで防水結界(弱)を付けてもらいました」
「なんでケチるのよ?」
「予算がありませんでしたので」
私がさらに文句を言おうとすると突然。
画面が大きく揺れた。
『きゃっ!?』
チセリが悲鳴を上げる。
「何があったの!?」
ルシアがスクリーンを見ながら答えた。
「深海竜ですね」
「そんなのいるの!?」
『ちょっと! なんか来た!』
巨大な目玉が画面いっぱいに映った。
「姫様。中央公園の方から大歓声が聞こえます」
七海からそう言われて窓から見てみると、中央公園に設置したスクリーンに集まっていた住民達。
『おおおおおおお!!』
大歓声。
「本当に盛り上がってる!?」
「視聴率高そうですね」
裕美子が満足そうに頷く。
「これって天気予報よね!?」
『それでは最後に明日の天気です』
チセリは必死に原稿を確認した。
『全国晴れです!』
直後。
深海竜がチセリを咥えて泳ぎ去った。
『きゃあああああああ!!』
映像終了。
プツン。
画面が真っ暗になる。
部屋に沈黙が流れた。
「……チセリは?」
私は恐る恐る聞いた。
「回収班を向かわせています」
ルシアは平然としている。
「初回放送よね?」
「はい」
「なんで天気予報より深海竜の方が目立ってるのよ」
「むしろ皆様そちらしか見ていなかったかと。多分天気のことなんか誰も覚えていないかと」
「天気予報よね?」
「視聴率が全てです!」
私の疑問に対して裕美子は満足そうだった。
その時。
メイドが慌てて部屋へ飛び込んできた。
「姫様!」
「何!?」
「住民から要望が殺到しております!」
「苦情?」
「『来週も深海竜を映してください』とのことです!」
「テレビ番組の方向性がおかしい!」
こうして世界初のテレビ放送は、
天気予報番組ではなく、深海竜観察番組として大成功を収めたのであった。
「で、次の放送内容は?」
私は頭を抱えて聞くと、裕美子が番組表を確認して、
「ニュース番組です。教育も兼ねてますのでコメンテイター付きです」
不安を抱えながらスクリーンを見ていると、どこかのスタジオに場面が切り替わった。
「では、スターフィールドニュースです」
見たことのないアナウンサーが真面目な顔をして原稿を読み上げる。
「ホルン領の農村地区で熊が現れました」
とりあえず原稿を読めたことに安心する私。
すると聞いていたコメンテイターというか、その役に全く相応しくないオカリナが、
「熊を見かけたくらいでニュースにするな。スターフィールドが熊程度に恐れる弱小国家だと思われるじゃないか」
それに対し、これまたコメンテイターにふさわしくないリィナが、
「そうじゃな。熊鍋とすべく抹殺するだけの話じゃのう」
「貴様、慈愛の女神のくせにそんなコメントしていいのか?」
「大丈夫じゃ。妾が放送禁止用語を言ったらピーと変換されるらしい」
「そうか。ならば聖女に即駆除するよう姫様にお願いしよう」
「聖女って対魔族用の存在であって熊相手じゃただの小娘じゃぞ?」
「貴様、その言い方じゃ我々魔族が熊以下に思われるじゃないか」
「ならばお主が直接行って熊を退治して、妾に熊鍋を振る舞うのじゃ」
「わかった。私が熊を瞬殺し姫様に私の凄さをアピールし、褒めていただくことにしよう。姫様、見てますか? これから熊退治に行ってきます!」
オカリナが一方的にカメラにアピールするとどこかに行ってしまった。
「悪魔大元帥の肩書きが泣いてますね」
それを見ていた七海が冷静に言うと、
「言わないであげて」
と、私は頭を抱えることしかできないのであった。
その後は盗賊討伐やインフラ整備、新メニュー紹介など平和なニュースが続き、
「今回は無事に終わるか」
そう思った矢先だった。
「速報が入りました」
「オカリナ様、熊に逃げられました」
「悪魔大元帥でしょう!?」




