姫様、テレビ放送します。
「姫様。ユウタを領主にする前にやらなければならないことがあります」
七海は真剣な眼差しで言った。
「七海に任せるわ。私は超忙しいから」
「そうもまいりません。何せテナー領民や世界に向けて、スターフィールドがテナー王国を併合したことを正式に宣言しなければなりません」
「え? そんなの必要なの?」
「必要です」
「なんで?」
「国家が一つ消滅したからです。しかもテナー王国は王様が代替わりして一週間しか経っていません」
そう言われて私は考える。
贅沢したいがために国を奪い、贅沢したいがために国を売った。
そんな真相はまだ誰も知らない。
そのまま公表したらどうなるだろう。
ただでさえ治安が悪化しているテナー王国だ。
「国を乗っ取った連中が一週間で売り飛ばしました」
なんて話が広まったら、さらなる混乱は免れないだろう。
というか私でも暴動を起こす。
私は頭を抱えた。
すると七海が静かに口を開く。
「そこで考えた発表内容がございます」
「領民の感情に配慮し、事実を一部編集しております」
七海は私に一枚の紙を見せた。
『テナー王国が思ったよりもやばかったため、スターフィールドによる保護統治を開始しました』
「チセリ達が国を売った部分が消えてるじゃない!」
「領民の感情に配慮しました」
「配慮しすぎよ!」
「事実です」
「どこが!?」
「テナー王国が思ったよりもやばかったのは事実です」
「そこじゃない! 私がチセリたちを使って支配したみたいじゃない」
「魔女って呼ばれてますし、姫様の手駒で問題ありません」
「そうじゃなくて、私が悪者みたいじゃない」
「悪魔姫なんだから悪者でかまわないかと」
「私の目標はスローライフなのよ!」
「残業なしの週休二日の時点で十分スローライフだと思いますが?」
「私は週休七日がいいの!」
「働かずもの食うべからずって法律作ったの姫様自身じゃないですか」
「あれは国民向けよ! 私は山奥で仙人みたいな暮らしがしたいのよ?」
「姫様。そういうのは老後でいいじゃないですか」
「私の老後、多分七千年後よ?」
「安心してください」
「何が?」
「国が安定したら正月休みが作れます」
「それなら安定しそうになったら毎回治安が悪い領土併合問題を発生させないでよ」
「私は発生させてません」
「じゃあ誰よ!」
「姫様です」
「は?」
「順を追って説明します。姫様は水洗トイレを作るために自宅を建てたら千尋様など人が寄ってきて、村に発展させました」
「うん」
「発展したら国になりました」
「うん?」
「国になったら他国が寄ってきました」
「うん?」
七海は窓の外を指差した。
「結果がこちらです」
「納得いかない!」
「ですので姫様。魔女チセリを使ってテナー王国を支配したと世界とテナー領民に向けて発信しましょう」
七海は近くのメイドに耳打ちした。
メイドは一礼すると姫様の間を出て行く。
「で、姫様。発信方法ですが、ホルン領の時は一方的に書簡を渡しました。その数二百です」
「そうね。字は間違ったら書き直しだし、この身体じゃなかったら間違いなく腱鞘炎になっていたわね」
「そこで世界初、テレビ放送をします! これなら受信機を置いていただけるだけで簡単に情報を発信できます!」
「どこにテレビがあるのよ」
「裕美子様が開発してくれた試作機がございます。実験として打って付けかと」
「実験でやっていい放送内容じゃないんだけど」
「正直内容はなんでも良いかと思います」
「なんでよ?」
「むしろ人はテレビそのものにしか目がいきませんので」
「ちなみにだけど、24時間放送するつもり?」
「そこはテレビ局を作ってから考えましょう」
「なんでテレビ局を作る前にテレビが作られているのよ」
「裕美子様ですから。ちなみに番組表もありません」
「でしょうね」
「スポンサーもいません」
「でしょうね」
「放送倫理委員会もありません」
「作りなさいよ!」
私は言うと、七海はチセリに向かって、
「姫様が放送倫理委員会をご希望です。委員長としてお願いしますね?」
「なんで私が!」
「お天気キャスターだけだと生活がギリギリですよ?」
「全国のお天気キャスターに謝って!」
「でもすごいなぁ。チセリって死ぬ前は何してたの?」
「専業主婦よ」
「それがテレビ局長かぁ。すごい出世ね」
「いつの間に局長になってるのよ! 姫様。あなた古の悪魔姫って自覚ないよね?」
「大丈夫。リィナも慈愛の女神だってこといつも忘れてるから」
私は笑うと七海が、
「この国の幹部は全員そんな感じです」
「終わってるじゃない! それに私、嫌よ。テレビ局長なんて」
「チセリ様は専業主婦だったんですよね?」
「そうね」
「一日平均何時間テレビを見ていたのですか?」
「知らないわよ」
「少なく見積もっても十年以上の視聴経験があります」
「だから何よ」
「この世界にそれ以上のテレビ視聴経験者はいません」
「テレビが存在してないから当然でしょ!」
「つまり第一人者です。頑張りましょう!」
「私の意思どこにもないじゃない!」
「ご安心ください」
「何がよ」
「労働契約書は作成するよう先程メイドに伝えました」
「早すぎるのよ!」




