姫様、国をあげそうになります。
旅をしてテナー王国に住み着くことにしたのだが、二人は貧乏だった。
「それにしても、転売ヤーって売れなきゃ地獄ってよく言ったものね」
チセリは空き家の床に寝転がりながら天井を見上げた。
部屋の隅には売れ残った商品が山積みになっている。
未来予知を利用して売れそうな物を買う。
そして値上がりした頃に売る。
我ながら完璧な商売だった。
そう。
売れるまでは。
「売れた試しがほとんどないじゃない」
レミィは不満そうな顔をしている。
絶望的にチセリには商才がなかったのだ。
「もともと専業主婦だったし、あげくに四十年近く老後を満喫してたからなぁ」
しかも最後の方は自宅と庭くらいしか行き来していなかった。
「でもチセリ。あなたはレベル110だから大丈夫よ!」
「レベル110ねぇ......」
チセリはそう言われてもパッとしなかった。
レミィの固有スキル、レベル判定は、
『死んだ時の年齢』
を指しているだけだからだ。
チセリが強いわけではない。
元々、長生きしただけである。
しかも二人ともこの事実に全く気づいていなかった。
「というかチセリ。あなたレベル110なら国ごと乗っとれる力があるんじゃない?」
「ウサギすら捕まえられなかったわよ」
「大丈夫よ。やるだけやってみようよ!」
その結果、なぜか住み着いていたテナー王国を乗っ取ることになった。
本人にも理由はよくわからない。
「国を下さいって試しに言ってみたら、まさか一つ返事で、はいどうぞって答えられるなんて思いもしなかったわ」
「ユウタがいない隙を狙ったか、この魔女めって誰かが言ってたよ」
「魔女なんて初めて言われた。そんなふうに見える?」
「いや、全然」
「じゃあ何に見える?」
「無職」
「やめなさい。でも夕飯作らないと。余ってる食材でなんとかするかあ」
「また山菜? 飽きたんだけど」
「贅沢は敵なんだから戦時中は我慢してよね」
「戦時中だったんだ......」
――そして現在。
「スターフィールドに行って国を奪うわよ」
と、チセリは決意したのであった。
なんとかなるだろう。
ならなかった時は、その時考えればいい。
そう決めて二人はスターフィールドに向かったのだった。
一方スターフィールド。
「で、クーデターの首謀者がこっちに向かってるって?」
私は七海に確認すると、紅茶を飲みながらいつも通り、まるで日常のように答えた。
「はい。」
「何人?」
「二人です。」
「二人?」
「はい。」
「クーデター?」
「クーデターです。」
ミナエは頭を抱えた。
「姫様。国を奪った首謀者。是非僕に戦わせて下さい」
ユウタは私に頼み込むが、
「毒抜きパスタを食べながら言われても説得力がないわ」
「ちゃんと臨時のバイトとして侵入者の警戒していますよ」
「おかわり三杯目よね?」
「ここだとおかわり自由だからな」
「ただの食いしん坊じゃない」
私は呆れたが、七海に聞いた。
「で、そんなやばい人たちを国に入れて大丈夫なの?」
「心配いりません。テナー王国は縄文時代みたいな暮らしですから。しかも唯一の狩猟者がここにいますし」
「クーデターと聞いて次は戦争だの考えないわけ?」
「はい。姫様はお忘れかと思いますが......」
七海が言い切る前に、村の警備員がやって来ては、
「森の入り口で毒キノコにあたった者二名を救助しました。なお、テナー王国の魔女を自称しておりますが、どうしますか?」
「......こういうことです」
私はまた、頭を抱えてしまったのだった。
翌日。スターフィールド玉座の間。
チセリは怯えていた。
目の前でこっちを見ている古の悪魔姫と呼ばれる存在は禍々しい雰囲気を出していたのだ。
まるで睨まれた瞬間心臓を止められる気がして生きた心地がしなかった。
「大丈夫よ。チセリ。古の悪魔姫のレベルは45。側近に至っては24。110のあなたの敵じゃないわ」
レミィがチセリの脳に直接呼びかけてくるが、
「レベルでどうにかなる相手じゃない」
汗をだらだらかいて、極力目を合わせないようにしていた。
「どうしたの?」
玉座の私が優しく声をかけると、
「ひっ」
チセリは反射的に悲鳴を上げた。
本当にこの二人がテナー王国を乗っとったのだろうか? という疑問しかない。
「はい。間違いなくこのチセリ、レミィの二名がテナー国王を追放した首謀者です」
「で、どんな政治をしてるの?」
「二日しか経ってないのはございますが、民には家庭菜園や山菜取りを奨励しております」
「で、何しにうちに来たのよ?」
「スターフィールドを乗っ取りに来たそうです」
「ふーん」
私は紅茶を飲んだ。
「まあ、別にあげてもいいんだけど」
そうすれば、私は快適なスローライフを送れるし。
「え、本当ですか?」
チセリは思わず身を乗り出した。
「愚か者め。姫様のつまらないギャグに決まってるだろう」
オカリナが鎌を抜いて答えた。
夢のスローライフがギャグ扱いされて泣きそうになる私。
「姫様。こんなふざけた奴らは処刑すべきです」
オカリナが進言するが、
「大元帥。待たれよ」
裕美子も元皇女という形式上、この場にいたのだが、影からルシアが現れた。
相変わらず裕美子の影で生活しているのか、食生活が改善されたのか白かった顔が血色良くなった感じがする。
「このレミィと名乗る少女。私が過去に開発し、魔王様に献上した魔導具です」
「え?」
そう聞き返してレミィが固まったのだった。




