姫様、狙われます。
テナー王国、玉座の間。
「ついに国を手に入れたわね!」
透き通るような青髪をなびかせながら女は玉座に座る。
その隣で、白髪の少女が飛び跳ねた。
「これで毎日贅沢三昧できるね!」
「高級寿司!」
「高級ステーキ!」
「働かなくてもお金が入る生活!」
チセリと少女は満面の笑顔を浮かべた。
「チセリ様」
側近が恐る恐る手を挙げる。
「なに?」
「国庫にお金なんかありませんよ」
「え?」
「先代の王が『面倒だから増税しない』を続けた結果です」
「え?」
「公共事業も最低限」
「え?」
「軍も最低限」
「え?」
「貯金も最低限です」
「最低限しかないじゃない!」
「面倒なことは全部後回しにしてきました」
「今までどうやって食べてきたのよ?」
「木の実を食べたり、巨大猪をみんなで狩っていました」
「縄文時代?」
「いいえ。先週までの話です」
「弥生時代に突入したの?」
「仰っている意味がよくわかりませんが、騎士団長ユウタを中心に一狩り行く毎日でした」
「じゃあそのユウタってのを連れてきてよ」
「それが今、スターフィールドに行っておりまして、不在なんです」
「なんで?」
「密偵任務です」
「狩りに行ける中心人物にそんなことをさせないでよ! どうやって食べていくつもりよ?」
「だって悪魔姫が治める国ですよ? 怖くて誰も行きたがりませんよ」
「悪魔姫?」
「はい」
「その国、お金持ってる?」
「生活水準は高いと聞きますが」
「スターフィールドに行くわよ」
「判断が早すぎません? それに行ってどうするんですか?」
「テナー王国みたいにスターフィールドももらうに決まってるじゃない」
「もらうって、古の悪魔姫を討つつもりですか? 正直テナー王はやる気がありませんでしたが、悪魔姫はそうはいきませんぞ?」
「そうよ。この蒼穹の魔女が世界の頂点に君臨して、贅沢三昧の限りを尽くすのよ」
「ですが、悪魔姫は魔王と肩を並べるくらいの強者です。どうやって倒すつもりですか?」
「私の固有スキル蒼穹魔法があれば明日の天気を言い当てることができるわ」
「言い当てたところで、倒せる要素が皆無じゃないですか」
「失礼ね。一週間後までなら大体当たるわ」
「誤差みたいな成長をしないでください」
「安心なさい。私がついてるから」
それまで贅沢の限りを妄想していた少女が側近に言った。
「レミィ様.....」
レミィ・ルナール。
腰まで届く白銀の髪。
宝石のような赤い瞳。
年齢は十五歳ほどに見える小柄な少女である。
その姿だけ見れば、どこにでもいる可愛らしい少女だった。
ただし一つだけ違う。
六百年前、発明家が魔王に献上した魔導具の杖。
それがレミィだった。
「魔王様。この杖があれば相手のレベルを見ることができますぞ!」
発明家は自信満々に言った。
魔王は杖を受け取る。
そして一言。
「……見てどうする?」
「さあ?」
発明家も首を傾げた。
結果。
レミィは生まれて三分で魔王城の物置にしまわれた。
そして時は流れ。
「まだ数年生きられたのに、昼寝したら永眠したと勘違いって意味がわからない!」
チセリが魔王城に転生して現れた。
「あぁ、長生きのギネスとれたなぁ、きっと。でも、私何歳まで生きたんだっけ?」
そう呟きながら自分がどこに生まれ変わったのか探索する。
「廃城みたいね」
そして、かつて物置だった部屋に入ると、
「なんかこの杖だけ新品未使用ね」
チセリは埃一つ付いていない黒い杖を手に取った。
その瞬間。
「見つけてくれてありがとう!」
杖が喋った。
「うわぁ!?」
チセリは反射的に杖を投げ捨てた。
ガシャーン!
壁に激突した杖はそのまま床へ転がる。
「酷い!」
杖が抗議した。
「杖が喋ったら誰でも投げるわよ!」
「私はレミィ!」
すると黒い杖は淡い光に包まれた。
次の瞬間。
そこには白銀の髪を揺らす少女が立っていた。
「レミィ・ルナール!」
少女は胸を張った。
「魔王軍最高傑作の魔導具だよ!」
「そう」
チセリは冷めた目を向ける。
「何ができるの?」
「相手のレベルが見られる!」
「見てどうするの?」
「さあ?」
チセリは無言で杖を拾った。
そして元あった棚へ戻そうとする。
「待って!?」
「いらない」
「なんで!?」
「レベル見てもお腹は膨れないもの」
正論だった。
レミィは慌ててチセリの足にしがみつく。
「ご飯食べさせてくれるなら役に立つよ!」
「例えば?」
「レベルが見れる!」
「それさっき聞いた」
こうして六百年ぶりに発見された魔王軍最高傑作は、
発見から五分で再び物置送りになりかけたのである。
しばらく物置と呼ばれた部屋で二人は今後どうするか話し合うことにした。
「私、天使から三つの加護をもらったんだよね」
チセリは正座をして真剣に話を聞くレミィに、指を折って説明をする。
「未来の予測能力が欲しい」
「可愛い女の子に生まれ変わりたい」
「史上最強の相棒が欲しい」
自分で言って不安が頭をよぎる。
「へぇ、チセリには明日、何が見える?」
レミィに言われて目を瞑るチセリ。
「明日、この辺の天気は雨だなぁ」
「すごい!」
「役に立つのこれ?」
「役に立つよ!」
レミィは即答した。
「洗濯物が濡れない!」
「規模が小さいわね」
「あとあらかじめ傘を持てる!」
「もっと小さいわね」
「あと野宿の場所を変えられる!」
「急に現実的になったわね」
しかし思っていた以上に、この能力は旅路では役に立った。
「今日は川沿いで寝よう」
レミィが言った。
だがチセリは首を振る。
「駄目」
「どうして?」
「夜中に大雨が降る」
「え?」
空は快晴だった。
雲一つない。
それでもチセリは山の上へ移動した。
そして夜。
土砂降りだった。
川は氾濫し、さっきまでいた場所は完全に水没した。
「すごい!」
レミィが目を輝かせる。
「すごいでしょ?」
チセリも少し得意げだった。
「じゃあ明日は?」
「晴れ」
「明後日は?」
「曇り」
「一週間後は?」
「雨」
「便利!」
「便利ね」
二人は初めて加護の有用性を認めた。
なお。
その頃には所持金がゼロになっていた。
「レミィ」
「なに?」
「私たちどこに向かって旅してるのよ?」
「お金持ちになれる場所!」
「具体的には?」
「知らない!」
こうして当てもなく旅を続けることになったのだった。




