姫様、妹を押し付けます。
「でも、ま、いっか」
千尋は気にしない様子でメロンを一口食べた。
「企画の話は村のあちこちで宣伝されてるし」
「そうだ。女神が犯罪者だということも、ここでは、一般常識だ」
それを聞いてユウタは眉をひそめた。
「その割には偽物買わされていたんだぞ?」
「よく考えたらそうだった。今すぐ女神を捕まえなければ。姫様の承諾を得に行こう」
「というか、もう一つ気になってることがあるんだけど、家の外騒がしくない?」
「死の竜のことを忘れていた。貴様、どうしてくれる!」
「お前がメロン食べたいって無視したせいだろう!」
「このままでは、人間はどうでもいいが姫様に怒られてしまう!」
オカリナは立ち上がると、
「食器はそのままでいいからな」
と、慌てて出て行った。
「それにしても……」
残された千尋はユウタに、
「どう見ても姫様に似てないんだけど。汚い字で「ひめさま」って書いてるだけじゃない。よく騙されたもんだね」
と、皿を見せて笑ったのだった。
「オカリナさん!」
死の竜に向かっている途中で、ヴィオラを先頭にエルフ集団が合流した。
「突然、ドラゴンが村に現れまして。何者かが召喚したと思われます。住宅街ではなく誰も住んでいない森林地帯で暴れているのが不幸中の幸いです」
思っていたよりも被害が大きいようだ。
オカリナは必死に飛びながら考えていた。
生まれて数百年。
まさか初めての戦闘相手が、自分が飼っていた鶏だとは。
近づくにつれて、誰かが死の竜の前にいて、話をしているように見える。
見覚えのある金髪。
焼けた肌。
露出の多い服。
そして――
「あんた、アタシの縄張りで何好き放題してくれてるの」
ギャル化した古代竜だった。
「……」
オカリナは空中で固まった。
「貴様、何故ここにいる」
「ウチに害をなすなら当然じゃん?」
古代竜がどれほど強いかは知らない。
だが、あの二匹が暴れれば住宅街が吹き飛ぶ。
そうなれば姫様に怒られる。
それだけは絶対に避けなければならなかった。
オカリナは巨鎌を両手に持つ。
一瞬でケリをつける。
しかし、この死の竜は、キャサリンと名付け、短い間とはいえ共に暮らしてきた。
姫様からいただいた大切な鶏なのだ。
「私に......斬れるだろうか?」
「何を躊躇してるのじゃ」
迷っていたらリィナが隣に現れた。
「このままではスターフィールドが死の街になるではないか。そなたは悪魔大元帥じゃろう? まあ良い。妾が奴を浄化すれば解決する話じゃ」
リィナはそう言うと、両手を合わせて何かに祈りだす。
神のオーラが輝き出すのだが、途端にどんどん小さくなる。
「危なく妾が浄化されそうになった」
「どんだけ性根が腐ってるんだ?」
「で、いつまでアタシらは待ってればいいの? とっとと終わらせたいんだけど?」
何故だろう。これから戦うはずなのに、二匹とも待ち合わせをしている友人同士のように見えた。
「......あんたもさー、いつまでもそんなデカい身体のままじゃなくて、アタシみたいになれないワケ?」
古代竜がそう言うと、死の竜は首を傾げた。
「えーとね。核にこう力を込めて...」
古代竜が説明すると、巨大な身体が闘に包まれ、みるみる人間の姿へ変わっていく。
それを見てリィナがオカリナに言う。
「まるでオカリナの妹じゃな」
「私が姫様からいただいた鶏に進化する魔力を吹き込んだからな」
「お主が騒動の元凶か!」
「魔族は騒動を起こすもんだろ?」
「ミナエが聞いたらまた頭を抱えるぞ」
こんな二人を無視して、古代竜は死の竜に問う。
「で、アンタはこれからどうしたいワケ? ないなら、ウチで働く?」
「働く?」
死の竜――いや、少女となったキャサリンは首を傾げた。
「うん。働けばお金もらえるし」
「お金?」
「ご飯も食べられる」
「ご飯!」
キャサリンの目が輝いた。
「っていうか、アンタは何が得意なワケ?」
「ゾンビと化すブレスを吐くことかな?」
「警備員とか向いてるんじゃない?」
「だめに決まってるでしょ」
古代竜の後ろに私はいた。七海から騒ぎの報告を聞き、ずっと様子を見ていたのだ。
「あら、姫様じゃん。おひさー」
古代竜が振り返って手を振る。
「あんた、元々オカリナにあげた鶏でしょ?」
私はキャサリンに聞くと、
「はい。たくさん卵を産むようにオカリナ姉様から進化の魔力を吹き込まれて死の竜にクラスチェンジしました」
「なら、鶏の気持ちがわかるでしょ? 養鶏場を作るから管理しなさい」
「はい」
「でも、この森林破壊の修復費は給料から天引きするわ」
「と、言いますと?」
「オカリナの家に住むことで、家賃タダにしてあげるわ」
「姫様。私の家に住めと申されますか?」
「元々住んでいたじゃない。それにこの騒動はオカリナが元凶じゃない」
「......かしこまりました」
オカリナがしょんぼりするとリィナが、
「良かったではないか。姉と慕ってくれる者ができて」
「あとリィナ」
「なんじゃ?」
「偽物を本物と偽って商売をしていたと報告を受けているわ。制裁金は覚悟しておくことね」
「食べていくには仕方がないのじゃ」
「慈愛の女神が言う台詞じゃないわね」
「慈愛はあるぞ? だから少し安く売ったのじゃ」
「詐欺師の値引きアピールなんか初めて聞いたわ」
「ぐぬぬ……」
「ちなみに売上はいくら?」
「金貨五百二十枚じゃ」
「没収ね」
「慈愛がないのじゃ!」
「慈愛の女神が慈愛を求めてどうするのよ」
こうして、鶏から死の竜に進化した騒動は幕を閉じたかに見えた。
スターフィールド王城。
しもべたちは勝手にミナエモン城と呼んでいる。
「姫様お疲れ様でした。お客様が姫様にお目通りを願っております」
七海は帰ってきた私に話しかけてくる。
「なんでも、隣国テナー王国から送られてきた密偵と申しております」
「なんで密偵が正面から会いにくるのよ」




