姫様、希望が叶った気がしました。
トランペット村に戻って来た私たち。
「お待ちしておりました姫様」
村の入り口にて村長に任命しておいたヴィオラが待っていた。
「どうしたのよ。こんなところで」
「城が完成しました」
湖の近くで建築中だった城がついに出来たらしい。
ヴィオラに案内されながら湖畔へ向かう。
建築中は何度か見ていたが、三ヶ月も離れていたせいで記憶より遥かに巨大に見えた。
そして。
「おぉ……」
圧巻の城につい声が出てしまった。
白亜の外壁は太陽の光を反射して輝き、青空を背景にいくつもの尖塔が天へ向かって伸びている。
中央には一際高い大塔。
その周囲を囲むように大小様々な塔が並び、まるで童話に出てくるお姫様の城そのものだった。
湖面には城の姿が映り込み、風が吹くたびに揺らめく。
石造りの城壁は堅牢そのものだが、全体的な造形はどこか優雅で美しい。
つい正直な感想を言ってしまう。
「なんか童話にでてきそう」
「姫様。引いてませんか?」
七海が冷静にツッコんだ。
いやだって。
どう見ても村長の家とか領主の館とかいうレベルじゃない。
王都の王城クラスである。
「これ本当に私の家?」
「はい」
ヴィオラは当然のように頷いた。
「姫様はこの国の象徴ですので」
「いや、そういう問題じゃなくて」
私は城を見上げる。
どう考えても広すぎる。
掃除だけで人生が終わりそうだ。
「それでは姫様。これからオプションの相談をしたいのですが」
「オプション?」
「侵入者対策として罠を仕掛けなければなりません」
忘れていた。
こいつらが私の洋館を魔改造した前科持ちだったことを。
「いらないわよ。そんなもの」
私は即答した。
「そうですか」
ヴィオラは少し残念そうな顔をした。
なんで残念そうなのよ。
まるで巨大迷宮化する予定だったみたいじゃない。
いや、絶対そうだったわね。
考えるだけ無駄だわ。
「とりあえず中を見せてもらえる?」
「かしこまりました」
巨大な城門をくぐる。
すると。
「広っ」
思わず声が漏れた。
吹き抜けになった大広間。
赤い絨毯が真っ直ぐ奥まで続き、左右には白い大理石の柱が並んでいる。
天井からは巨大なシャンデリア。
窓から差し込む光が床を照らし、まるで王城の謁見の間のようだった。
こんな城に住む人生になるなんて、転生した時は思わなかった。
姫様扱いされたいという天使への希望がようやく叶った気がした。
「これ本当に住居なの?」
「はい」
「城じゃない?」
「城です」
「やっぱり城じゃない」
私が頭を抱える横で、七海が感心したように周囲を見回す。
「素晴らしい出来ですね」
「他人事みたいに言わないでよ」
「姫様の城ですから他人事ではございません」
「だから誰が管理するのよ」
「使用人が行います」
「いるの?」
「現在二名ほど」
「今より減ってるじゃない!?」
「ちなみに洋館は今後役場として使用します」
「それはかまわないけど」
私は流されるように返事をすると、オカリナがドレスを大事そうに抱えながら、急かして来た。
「さあ姫様。話はそれくらいにして、城の完成に伴い準備も整いましたので、神のドレスを着て即位式を行いましょう」
そう言ってドレスを七海に渡す。
「今から!?」
バァン! と、扉を開けると関係者たちが姫様の間で待っていた。
「いつから皆、待ってたのよ」
「一ヶ月くらいですかね」
「待たせすぎよ。もう待ち疲れしてるオーラ漂ってるわよ」
「姫様。こちらを」
七海から神のドレスを受け取ると身体に吸いつくように着衣される。まるでドレスも真の持ち主を待っていたかのように。
コバルトブルーに輝いていたドレスが、私の身体を包み込むと同時に色を変えていく。
青は夜のような漆黒へ。
金の装飾は深紅へ。
まるで神聖な衣装が悪魔姫仕様へ作り替えられていくかのようだった。しかも、最初に着ていた時よりもレベルアップしているように感じる。
「うわぁ……」
思わず引いたが、玉座の前に立つ。
そして深呼吸。
私はみんなの前で宣言した。
「私は働きたくない。だから皆は私を楽にするために一生懸命働きなさい!」
静まり返る会場。
「……」
「……」
「……」
「姫様」
七海が額を押さえた。
「即位式で最初に発する言葉ではないかと。まるでヤバい独裁者じゃないですか」
「だって本音だもの」
「せめて国民向けの挨拶をしてください」
「面倒くさい」
「だからダメなんですよ」
私は小さく咳払いをする。
そして改めて皆へ向き直った。
「えーと……」
集まった者たちが一斉に注目する。
「これからも皆で頑張ってください」
「姫様は?」
「応援する」
「最低です」
「じゃあ私だけじゃなく、皆で楽をするために頑張りましょう」
すると。
「おおおおおおおっ!」
なぜか会場が歓声に包まれた。
意味がわからない。
私はただ働きたくないだけなのに。
「ではこれより、幹部を発表していただけますか?」
ヴィオラは緊張した様子で私にたずねてきた。
「え? 幹部って何?」
いきなりそんなことを言われて困惑するのであった。




