姫様、寿司のために外交します。
私と七海、そしてコンダクタ皇女である裕美子は、三日かけてアンダンテ王国の首都フェルマータへ到着した。
ちなみにルシアは裕美子の影に潜んでいる。
「これはスターフィールドの姫君!」
門番が私に気づくなり敬礼した。
「久しぶりね。フラット王女に会いに来たわ」
「承っております。王の間までご案内いたします」
門番はそこで裕美子へ視線を向けた。
「そちらのお二方は?」
「私は天音七海。姫様のしもべにございます」
そう言うと七海はどこからか身分証を取り出して門番に確認させていた。
「いつの間にそんな物作っていたのよ」
「|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》に登録したら受け取れる 従者認定証ですよ? ご存知なかったのですか?」
七海はそう言うと認定証を見せてくる。
「まるでマイナンバーカードね」
「はい。アレを参考に収入、支出、保険証、取得免許などといった情報を魔力装置にて上書き記憶しております」
七海は認定証に魔力を流すと、空中に文字や数値が表示される。
従者認定証
氏名 天音七海
所属 トランペット村
職種 姫様の秘書
雇用形態 正社員
福利厚生 適用
納税状況 優良
犯罪歴 なし
「こんな感じです」
「マイナンバーカードを裸足で逃げ出させてどうするのよ」
「素晴らしい……」
門番が感動したように呟いた。
「何で感動してるの?」
「犯罪歴が確認できるなら入国審査が楽になります」
「そこなの!?」
「ところで姫君。そちらの方は?」
門番は裕美子が気になったのか、裕美子はふんぞり返って、
「コンダクタ第一皇女の裕美子です」
「あぁ、よく爆発騒ぎを起こす国の皇女様か」
「風評被害よ!」
「先月も研究所が吹き飛んだと聞いておりますが」
「研究に失敗は付き物なの!」
「その割にはガラクタばかり作って貧民国に落ちぶれてると聞いておりますが」
「仕方ないじゃない。得るためには何かを失わないといけないんだから!」
「いや、失い過ぎですから」
「皇女様。今回の旅費は大丈夫だったのですか?」
七海が代わりに聞くと、
「借金したに決まっているでしょ」
「返す当てあるんですか?」
「大発明したら返すわ!」
城内に通されると、
「質素ですが健全な感じがします」
七海が率直な感想を言う。
このアンダンテ国はスターフィールドに毎月ドレス代を支払っている。それも小さな村一つくらい食べていける分くらい。
それだけの金を毎月払っているはずなのに、城内は妙に落ち着いていた。
少なくとも借金で旅費を工面するどこかの皇国とは違う。
やっぱりフラット王女は有能なのだろう。
「これはスターフィールドの姫君と、従者たちよ。よくぞ参られた。我が子シャープは健在かな?」
王の間でアンダンテ国王は淡々と話しかけてくる。
「シャープは元気よ。誘ったんだけど断れない商談があるみたい」
アンダンテ第一王子だった彼は王位継承権を妹のフラット王女に託し、うちで、貿易の任務をしてもらっている。彼の持つ固定スキルは、もはやなくてはならない存在である。
「実は毎月支払っている神のドレス代について話し合いにきたのよ」
「値上げかな?」
「違うわ。下げて良いから支配先をコンダクタ皇国に変えて欲しいのよ」
「理由を聞いてもいいかな?」
「コンダクタ皇国は海に面してるわ。今は資金よりも漁業権が欲しいのよ」
「手に入れてどうする?」
「魚が食べたいだけよ。ただ輸送にもこの国を通過するから、関所代とかまけてくれると嬉しいわ。その分余った分をこの国にお裾分けしても構わないわよ」
「魚が食べたいだけで国家間交渉にまでもってきたのか?」
「スターフィールドは内陸地だから魚に飢えているのよ。買い付けるにも高級食材だし。なによりも私は寿司が食べたいのよ」
「寿司? なんだそれは」
「作れるようになったら食べさせてあげるわ」
「もし、魚が取れなかったら?」
「うちには海王ポセイドンが住んでるんだけど、派遣する予定よ。海王なんだからなんとかなるでしょ?」
「海王ポセイドンだと!?」
「なんか湖のそばで海の家経営してるけどね」
「何故湖に?」
「不祥事を犯して水神龍だかなんだかに左遷されてきたとか言ってたわ」
「なるほど。話はわかった。フラットを呼んでいいかな?」
「かまわないわよ。むしろ支払ってくれているお得意様だし」
しばらく待つと扉が開いた。
「失礼いたします」
透き通るような声とともに、一人の少女が王の間へ姿を現した。
長い金髪。
絹のドレスが綺麗な青で光り輝いている。
宝石のような紫の瞳。
以前会った頃よりも、その立ち居振る舞いはずっと落ち着いて見える。彼女は彼女であれから努力をしてきたのがわかる。
「フラット王女。久しぶりね」
私が軽く手を振ると、フラットは優雅に一礼した。
「ミナエ様。本日はご足労いただきありがとうございます」
相変わらず真面目である。
その視線が私の隣へ向いた。
「そちらのお二方は?」
「ああ、紹介するわ。こっちが私の秘書をやってる七海」
七海は一歩前に出る。
「初めまして。天音七海と申します。現在はスターフィールドにて姫様の補佐を務めております」
綺麗なお辞儀だった。
するとフラットも丁寧に頭を下げる。
「アンダンテ第一王女フラット・アンダンテです。噂はかねがね伺っております」
「私もです。非常に優秀な王女様だと聞いております」
「恐縮です」
二人とも笑顔なのだが。
なんというか。
空気が堅い。
「なんか面接みたいなんだけど」
思わず口にすると、
「姫様。外交です」
「ミナエ様。外交です」
二人に同時に言われた。
なんか私が悪いみたいじゃない。




