姫様、領主問題を解決します。
「姫様。求人票が完成しました」
翌朝。
役場へ来た私は、机の上に積まれた書類を見て頭を抱えた。
「何これ?」
「領主募集要項です。これを姫様のしもべで公開します」
七海が当然のように答える。
「領主って血筋とかで決めるもんじゃないの?」
「人間の国ならまだしも、魔族領なんで血筋なんかどうでも良いかと。求めるのは優秀な人材です」
確かに優秀であればあるほど私の負担は減る。つまりスローライフへの道は開けるというもんだ。
「ちなみに、どこかの誰かが領主になっても元法王や騎士団長は文句言ったり、反乱起こしたりしない?」
「大丈夫なんじゃないです? だって責任負わされる生活から脱却して、働いたら食べていけるんですよ? しかも前より豊かな生活が保証されてます」
「確かにあの時は法王ですらまともな食事にありつけてなかったからなぁ」
「はい。動機がないんです。ですから安心して領主を募集しましょう」
七海がそう言い切ったので、私は書類を手に取った。
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募集職種:領主
勤務地:聖法国ホルン
給与:応相談
福利厚生:住宅支援、医療費無料、育児支援、老後保障あり
必須条件:やる気
歓迎条件:胃薬常備
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「最後なんなのよ」
「現実を記載しました」
「やめて」
「なお面接官は姫様です」
「やめて」
「応募者は既に三百七十二名おります」
「なんで!?」
私は机を叩いた。
「まだ姫様のしもべに掲示すらしてないのに!?」
「『姫様、領主を募集するってよ』って噂を流しましたので」
「七海ってその時代の人だったのね」
「なお応募者の内訳ですが」
「聞きたくない」
「元盗賊百二名」
「帰れ」
「元山賊八十三名」
「帰れ」
「戦国大名四十七名」
「どこから沸いたのよそれ」
「少し条件を厳しくしますか?」
「そうね。領主実務経験50年以上はほしいわね」
「自分が楽したいことを最優先にしてませんか?」
「そりゃそうよ」
「現在二十三名ほど該当者がおります」
「そんなにいるの!?」
「失礼なことを申し上げますが、その方々が姫様の政策を理解できるかと言われると疑問が出てきます。実務経験や勤続年数が正しいとは限りません」
「そうよね。自分の経験が正しいって思いがちだもんね」
「ですので、私が思う理想の領主と、ここに呼び出す方法を考えてみました」
七海はそう微笑むと私に計画書を見せてきたのであった。
私は書類を見て固まった。
「七海」
「はい」
「これ、本気?」
「もちろんです」
私はつい頭を抱えてしまったのだった。
一週間後。新築された新領主の屋敷。
「お待ちしておりました領主様」
メイドや執事たちが新領主が到着するなり、深々と頭を下げた。
「は? 領主?」
聖香は、パーティーの招待状を思いっきり握りしめた。
「はい。姫様よりこのホルン領は聖香様に委ねると申しまして、私たちは全力でサポートする次第でございます」
「いえ、私はガラス工務店のバイトが......」
「はい。アルバイトでお客様からの評判が良かったため、この度、領主に昇進しました」
「昇格の仕方がおかしくないですか? 綾子は?」
「綾子様は業務中サボりグセがあったために、聖香様の秘書として左遷になりました」
「理屈がおかしいことに気づいてます?」
「どこがです?」
「姫様はいずこに?」
「トランペット村に帰って国の名前を考えるから忙しい。あとは頑張れと仰せになられておりました」
「じゃあ私も村に......」
「いけません。聖香様はやらなければいけないことが山ほどあります!」
「ここでパーティーがあるからって来ただけなのに!」
聖香の力強い声が屋敷中に響き渡る。
「なお、本日の予定ですが」
「まだあるんですか!?」
「領主就任演説、議会挨拶、住民との交流会、予算会議、歓迎晩餐会となっております」
「帰りたい……」
「ご安心ください」
執事は優しく微笑んだ。
「そのために胃薬をご用意しております」
「歓迎条件の伏線回収やめてください!」
トランペット村の洋館。
「ホルン領もこれで安定するわね」
「はい。聖香様なら姫様の考えに共感してますし、うまく統治していただけるでしょう」
「聖香に怒られそうな気がするんだけど」
「元々聖香様の家が建っていた場所です。風呂無しトイレ無しの粗末な小屋だったそうですが、今では立派な屋敷になっております」
「ガラス工芸店の利益を全投入したから、これも利益還元ってことでいいわよね」
「ハイ。故郷に錦をあげたのでよろしいかと思います」
「ところで、平和の鳩ってどこいったの?」
「リィナ様が虫取り網片手に探しに行きました。なんでも大金を叩いて買ったのに逃してはたまらんと申しておりましたが」
「捕まえる気あるの?」
「なお先ほど北の山脈が一つ消滅したとの報告が入っております」
「捕まえる気はあるみたいね」
そう言いながら毒抜き毒キノコパスタを食べる私なのであった。




