姫様、聖法国に辿り着きました。
「そういえば綾子は連れてこなくてよかったの? あなたの護衛でしょ?」
「ガラス工房の店番のシフトが入ってますし、野宿なんかしたくないの一点張りでして」
「本当に勇者なの?」
「はい。一応魔王を倒すために生まれてきたはずですが」
「この世界に魔王いないじゃない。なんのために生まれてきたのよ」
六百年前に倒されたんだっけか。
「本人は今でもアイドル志望なんで、バイトで貯めた資金でドームツアーが夢だそうです」
まあ、私たちに害がないならいいのではあるが。
というか、この世界にドームなんかあるのか?
「姫様。ようやく見えました。あれが我々と対峙する禍々しい聖法国ホルンです」
オカリナは指をさすと、
「瓦礫しかないじゃない」
見る限り建物という概念が見当たらない。
「カイザーフェニックスがとことん国を破壊したみたいですね」
七海は冷静に状況を説明すると、
「とりあえず行くわよ」
私は一歩前に出ると聖香が聞いてきた。
「ところでミナエさん。私達は何をしに来たのですか?」
私が「知らないわよ」と言おうとしたらオカリナが鼻息を荒くして答えた。
「聖女よ。姫様が考えもなしに来るわけないだろう。聖法国を乗っ取るために来たに決まってるだろう」
「え? それじゃあ私裏切り者として罪もなき民から石を投げつけられるじゃないですか」
「聖女よ。人間はゴミだ。石を投げ返してやれ」
「私も人間なんですがね」
「ふっ、姫様のしもべは特別なのだ」
こうして私一行は先に進んだ。
一方、聖法国ホルン。
「ついに来たか」
オリンは私たちの到着を聞いて身を震わせた。
六百年の歴史を持つ聖法国最大の危機。
その元凶が、ようやく姿を現したのである。
「しかしオリンよ。古の悪魔姫はもっと禍々しいオーラを放ち、いかにも悪い顔をしていると聞いていたが、見た目が村娘と変わらないって偵察から聞いたが」
「とんでもございません! 見た目に騙されてはいけませんぞ! ワシは知ってるのです!
絶望の波動の恐ろしさを! あれを浴びた者は死を覚悟することしかできぬのです!」
「しかし、話せば分かり合えるのでは?」
「とんでもございません! 奴は何を考えているかわからぬ曲者です。あの赤き瞳の奥には世界侵略の野望が見えましたぞ!」
「騎士団長のお主が言うなら間違いないのだろう。おそらく悪魔姫に聖女は負けて屈服せざるを得なかったのだろう」
法王は項垂れると、オリンはハッとした顔をした。
「そうか。法王わかりましたぞ! 聖女様はワシらを裏切ったフリをしているのです!」
「なんだと!?」
「油断した悪魔姫を確実に倒し、世界を平和に導く策。法王様やワシを欺くとは、騙すのはまず味方から。ということなのでしょう」
「しかし、カイザーフェニックスの件はどう説明する? 聖女を失った後にすぐ国を滅ぼしに襲いかかってきたぞ」
「あれはきっと、たまたまです」
「たまたま?」
「聖女様の不在とは関係なく、たまたまカイザーフェニックスが来襲したのでしょう」
「なるほど。運が悪かっただけとな?」
「ハッ!」
「さすが騎士団長。見事な慧眼だ。我が国もまだまだ安泰ということだな!」
「安泰というか瓦礫の山ですが」
「国は滅んでおらぬ。つまり実質勝利だ」
「そうですな。ハッハッハッ!」
二人は高らかに笑うと、
「基準が低すぎませんか?」
聖女と呼ばれた彼女は小さな声でワナワナと震えながら言うのであった。
「おまえは!?」
「聖女様。戻られたのですね!」
「はい。法王様もご無事でなによりです」
聖香は頭を深々と下げると、法王は聖香の後ろに立つ男を見て固まった。
上半身裸。
いや、下半身もほぼ裸だった。
「で、その後ろに立っている男は誰だ!?」
「我は雷の四天王ボルト。一人取り残されても寂しいからこの女についてきた」
「パンツ一枚じゃないか!」
「これが正装だ。法王に会うとこの女に聞き、恥ずかしく無い格好をしたまでだ」
「も、もしかして貴様が悪魔姫か?」
「そんなわけなかろう。姫様は今、少し離れた場所で炊き出しをして民に振る舞っている。我がいると民が恐れて近づいてこないという理由でこの女に同行したのだ」
「なに! 悪魔姫が民に炊き出しだと!? 食料で民を懐柔する作戦か!」
オリンが激怒する。
「さあ、なんでも毒キノコをふんだんに使ったパスタ料理らしいぞ」
「毒キノコじゃと! 毒殺狙いじゃったか!」
「安心しろ。毒耐性がついている我が食しても問題なかった」
「耐性ついてて問題があった方が問題じゃろ」
「おい女。このジジイにカミナリを落としていいか?」
ボルトはオリンを指さして聖香に聞くと、
「怒鳴ったところで意味はないと思いますが」
しかし、オリンは、
「雷魔法をワシに落とす気じゃと?」
「違う。ただの確認だ」
「確認で雷を落とすな! ついに武力行使にでるつもりじゃな。しかしワシも老いたとはいえ騎士団長。ただでは死なぬぞ!」
「バカモン、命を粗末にする奴がいるか!」
ボルトの突然の怒声に、聖香は思わず目を丸くした。
「魔族のくせに、何を言っとるんじゃ」
「どうせ我が何を言っても信じぬだろう。フッそうなると我の出番は終いだ。女よ。二人に言ってやると良い」
いきなり会話のバトンを渡された聖香はコホンと咳払いをして笑顔で法王とオリンに伝えた。
「姫様の軍門に下りませんか?」




